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第100.6話:回想、魔剣回収ダイジェスト1


 これはボクが軍官学校3年生の年の初夏のこと、サテュロス大陸にやってきたナタリィとともに、魔剣回収の為に紅砂の砂漠と、水晶谷に向かった時の出来事だ。


(回想パート)

 軍官学校の授業を公務の扱いで欠席してのダンジョン攻略、それはボクが王族で、なおかつ国王陛下ジークが共犯者だからこそできること。

 軍官学校とはいうけれど、実際のところボクたちは小額とはいえお給料をもらって教えを受けている立場である。

 一年のうちに入学金は大体回収し終わるし、2年以降は給料をもらいながらさらに昇級すれば給金も上がるシステムなので、実際は働いている様な扱いなのだ。


 表向きの扱いは王室の公務で僻地の視察に、婚約者であるユーリを伴ってお忍びで・・・というものだけれど、僻地への視察の日程が2~3日で組まれている時点で少し怪しいと思うのが普通だろう。

 それでも、実際紅砂の砂漠も水晶谷も僻地ではあるし、視察といえば視察、ついでに魔剣を拾ってくるだけだ。

 決して嘘をついているわけではないので、ズル休みをしたと、気に病む必要もない。


 その日向かったメンバーはボク以外にユーリ、神楽、ナタリィ、マガレ先輩、エッラ、フィサリス合わせて7名と、いつものボクたちのメンバーと比較するとやや少ない。

 なるべく早く移動を済ませて、ささっと終わらせて帰るために、スピードを重視した結果だ。

 神楽の飛行盾はもっともスピードの速いものだと時速60km以上の速さが出せるけれど神楽と3人しか乗せることができない。

 飛行盾は本来、人を乗せて運ぶ道具ではないのだ。


 ゆえに出掛けに一緒に行きたいとすがり付いてきたベアトリカも置いていくことになった。

 彼女は大きすぎるのだ。

 一緒が良いと仰向けになってジタバタする彼女(彼女はボクとエッラに特になついているため)はその凶悪な大きさに反してとても可愛いのだけれど、こればかりは仕方ない。

 ていうか最近ますます人間くさくなっている、ボクに似たわけじゃないよね?


 魔力の消耗を無視すればもっと早く多人数を運べる物もあるのだけれど、それは神楽の本気の隠し玉とも言うべきもので、使ってしまうと神楽が現地ではお荷物になってしまうし、帰り道も神楽に頼るのであれば疲弊させるのは好ましくない。


 ほかにもナタリィの龍態に乗せてもらうとかもできないわけではないけれど、ナタリィの龍態は神楽の魔導鎧装マギリンクフォルト以上の隠し玉である。

 マガレ先輩は信用できる人だけれど、不用意に見せようとも思えない。

 そこで前周でも初めて飛行盾を用いたときと同じ手段をとることにした。

 即ち、少人数高速移動可能な飛行盾と、ボクの魔導鎧衣マギリンクパンツァー黒の金の突撃騎馬兵ダークホーススター」の併用だ。


 魔導鎧衣「黒の金の突撃騎馬兵」は、重力操作と飛行の能力に特化した鎧衣である。

 外見は鍔広の魔女っぽい帽子の二股になった先に金の星がついていて、濃紺色のスレンダーな魔女っぽいワンピースにレザー風の質感のベルトを巻き、袖口を留めているボタンや、黒いボレロと大きなマントを合わせた様な布を体の前で繋ぎ留めている飾り紐が細い金色の縁取りの様になっている。

 黒い・・・フィンガーレスとでもいうのだろうか?

 花嫁さんがつけているみたいな指先が隠れていない肘から手の甲までを覆う様な手袋、黒い布地からチラチラと見えるボクの小さめな白い手指の対比が少しフェチズムを刺激する。

 黒と紫の縞模様のソックスに深いカットの入ったロングブーツと全体的にちょっとコスプレっぽいというか、ファンシーかつキュート、ちょっぴりマニアックな服装は、まだ11歳のアイラだから許されるものだろう。


 それにしてもワンピースの丈がやや心許なくて、色が同系なので気づき難いけれど裾からズロースの裾がちらりと見えている。

 これをデザインした人はきっと痴女の資質があると思う。

 せめて、見せることがファッションの中に組み込まれていそうな、こちらでいうドロワーズ・・・日ノ本ではズロースと意味の違いはないけれど・・・の様な装飾過多のものであればもう少し恥ずかしさも緩和されたのだろうけれど、この鎧衣にプリセットされているモノはシンプルかつ、体のラインがピッタリと浮き出るタイプのもので、どちらかといえば一分丈のスパッツのほうが近いのではないのだろうか?

 と思わされる程度に短く、たとえアイリス相手でも間近で見せるわけにいかないほどピッチリと肌に密着しているのだ。

 ついでに言えばそれが裾からはみ出て見えてしまうくらい裾が短いワンピースなわけで、かなり恥ずかしいものだ。

 魔導鎧衣初見のマガレ先輩は目を輝かせていたが・・・


 ボクがエッラとフィサリスを抱えて飛び飛行盾と接続、飛行盾には神楽とユーリ、ナタリィ、マガレ先輩が乗り込んでいる。

 単純に体の小ささと持ちやすさで選んだ。

 ナタリィとマガレ先輩も比較的小柄なのだけれど、エッラとフィサリスはある非常に引っかかり易い部分があるため、ナタリィやマガレ先輩と比べると落っことすリスクが小さくなるからだ。

 特殊な格好をしたボクと触れ合いたかったらしいマガレ先輩は二重の意味で悔しそうだった。


 さて、飛行盾は通常時速60km~72kmほどで空を飛ぶのだけれど、今回はフィサリスによってよく魔法訓練されたエッラが同道しており、空気抵抗を逸らす魔法があり、夜ではなく視界が開けていた為に従来よりも随分とスピードが出ていた様に感じた。

 片道6時間弱かけて到着する予定だった紅砂の砂漠まで4時間程で到達したボクたちはナタリィの案内で、紅砂の砂漠ダンジョンの裏道が隠されているという区画に降り立った。

 


 ナタリィが示したそこは赤錆色の砂の表面が滑らかに整った場所で、見たところ目印になりそうな岩も建物も存在しない場所だった。

「ナタリィ?ここにその裏道があるの?」

「えぇ、この少し下ですね、時期によって砂の集まる場所が少し変わるので、この時期はどうやら埋まりきっているみたいですね。」 

 そういってナタリィは数歩歩くと立ち止まって足元を指差す。


 その場所は周囲と何の変わり映えもしない砂の丘だけれど、ナタリィが言うとおりならば、その下には何か入り口になる場所があるのだろう。

「エレノアさん、ここの砂を風下に向かって吹き飛ばしていただけますか?私たちは少し離れますから、思いっきりやって大丈夫ですので」

「はい、かしこまりました。」

 ナタリィが指示をだしエッラが頷く。

 ボクたちはエッラから見て風上の位置に10mほど離れて一応防護魔法も張って待機する。

 すでに勇者化を果たしているエッラは自身の収納から特注の槍を引き出す。


 突撃槍ランス嵐穿オルカーン」は前世と同様魔物素材をペイロードの能力で金属化したもので作成された大きな槍であるが、その形状や用途は前周のそれとは若干異なっている。

 まず大きさが2回り大きくなっていて、鉱物生成したワイバーン素材とフォレストタイガー素材いう軽い素材でできているにも拘らず重量は槍だけで45kgほどある。

 既に馬に乗ることはあきらめているみたいだ。


 そしてその用途、叩く、突く、砲撃する。

 ・・・魔砲将ボレアスにも師事を受けたことが影響しているのか、エッラは前周と比べて砲撃系魔法も戦術の中に頻繁に組み込む様になっている。

 既に槍聖アクタイオンを超える突破力、剣天ジェリドを超える近接格闘能力、魔砲将ボレアスを超える中距離砲撃を備えたよくわからない生き物に育ちつつある。

 魔法も風系統だけではなく、水と冷気、簡単な治癒系魔法すらこなしトーレスほど広範ではないがかなりの範囲をカバーした万能さに、トーレスを遥かに上回る特化性能を持つのが彼女だ。


 その外見の可愛らしさと火力、堅牢さから最近は『傾城けいせい嵐姫騎士ストームメイド』『氷雪暴風の姫騎士ブリザードメイド』とか『最小の城壁フォートレス』などと渾名されておりその異名を城だけではなく軍官学校内にも轟かせている。


 そんな彼女が槍を構えて繰り出す一撃は・・・

「エアバスター!」

 下級風魔法エアバスター、普通なら部分的な突風を起こして相手のバランスを崩させる程度の魔法だけれど、彼女が扱うそれは簡単な城壁くらいなら吹き飛ばすものだ。

 また、彼女は風属性との相性が良いため、中級以上の風魔法も詠唱の大部分を端折って発動することができるけれど、砂を吹き飛ばすのには下級魔法で良いと判断したのだろう。

 実際それで十分砂は吹き飛んで、そこには大きな岩が2つ転がっていた。


 その岩は高さ4m、幅と奥行きは6m程度の岩と、それよりも1回り小さい岩が並んでいる。

 というよりはもともと大きな岩だったのが、中ほどで割られたみたいに密着している。

 それを視認したナタリィはうれしそうに近づいてきながら

「ご苦労様でしたエレノアさん、これが目的の裏道です。次はマーガレットさんに・・・」

 そこまで声を出したところで、ナタリィは何かに気付いた様に言葉を止めた。

 そして無論ボクも気が付いている。

 今エッラが風で砂を送った風下から、何者かが近づいてきている。

 吹き荒ぶ風と砂とでよくは見えないけれど、敵意や殺意とは違う、しかし明確な害意を伴うその気配は、ボクの肌にもピリピリと感じられた。


「みんな、魔物だよ。」

「えぇ、そうですね・・・」

 ボクの呼びかけにナタリィが応じ、やや遅れて感じ取ったエッラとマガレ先輩が身構える。


「ユーリ、カグラ、フィーは一応背後の警戒をお願い、こっちはボクたちが対処する。」

「わかった」

「わかりました!」

 ボクも最近は訓練以外で抜くことの少ない暁光を抜くと急速に接近しつつある気配の正確な位置を掴もうと赤い砂塵の中に視線をやる。

 同様、両手に火精の石弓を構えたマガレ先輩、引き続き突撃槍を構えたエッラもそれぞれ左右にやや偏りながら警戒する。

 ナタリィは両方の掌に属性を帯びていない魔力を纏わせて、いつでも攻撃に転じられる様にボクのすぐ隣に立った。


 おかしい、だいぶ近くに来ているはずなのに、その姿が見えない。

 捕食者の気配はすでに50m以内まで迫っている、砂塵舞う砂漠の真っ只中とはいえ、砂丘と砂塵以外の遮蔽物のほとんどないこの場で・・・小さい魔物?それとも・・・・・!!

「エッラ足元!!」

「っ!?」

 ボクが呼びかけたからか、それともようやく攻撃に転じた相手の気配を感じ取ったからかエッラは凧型盾を下に向けて構え、直後ソイツが砂の中から突き上げる様にしてエッラに襲い掛かった。


「ギシャァァァァァア!!」

 大きく開かれた口は、しかしエッラの盾よりは小さく、その牙がエッラに届くことはなかった。

「これは・・・!」

「トンボ!?」

 エッラはそのまま空中で風魔法を使って大きく後退した。

 魔物は目は良くないらしくエッラを見失ったのか、今度はマガレ先輩のほうに向かって突進していく。


 その魔物は嗅ぎ回る杭トンボと呼ばれるダンジョン魔物、T字型になった特徴的な頭部の左右にぎょろりとした目があり。

 シュモクザメに手足を生やした様な造形をしているけれど、その肌は粘膜質。

 砂漠の様な乾燥した気候で粘膜質なんて自殺行為にしか思えないのだけれど、魔法があるからきっと大丈夫なのだろう、その表面はヌラヌラと油分か水分か判らない粘液に塗れていて、あまり砂が付いている様子もない。

 肘と膝の部分から鋸状になった骨が皮膚を突き破って出ており、尻尾の先の部分がバランスを取るためか非常に大きく扁平で、駆け抜けた後はまさにトンボがけをしたみたいに砂が均されていく。

 上半身はやや細身だが尻尾まで合わせるとベアトリカの2倍近くありそうな巨躯だ。

 ただの体当たりでも当たればただではすまないだろう。


 マガレ先輩は左右2発ずつ4発の炎弾を放つと、ブレイジングマインという遅延爆発魔法を設置してから後ろに向かって走り出した。

 トンボがブレイジングマインに接触した瞬間、それは爆炎と砂塵を巻き上げつつ爆発、しかもその直前マガレ先輩はまるで進行方向に蹴る壁でもあったかの様に、今度はトンボの頭上を背面で跳び越しながら見事な宙返りを見せた。

 後方へ跳躍ではなく走っていたのはそのためらしい。

 爆発でマガレ先輩を見失ったらしいトンボはくんくんと臭いを嗅いでいる。


 スキだらけだ。

 このサイズの魔物だもの、砂漠には天敵と言えるものが居なかったのだろう。

 最初の攻撃方法からすると、これまで仮に人間を相手にしても、足元からガブリで終わらせていて、てこずったことなどなかったに違いない。


 大きなスキをさらしているのに、あわてる様子もない。

 しかしその生態系の頂点にあった余裕こそがトンボの不幸だった。

 有能なエッラはそのスキを逃すことなく、突撃槍をその場に落とすと、収納から取り出した太めのナイフに風属性を纏わせて投擲し、その一撃は正確にトンボの後頭部を捉え、そのまま首と体が泣き別れした。

 顎から上が砂の上に落ち体は統制を失いジタバタとしながら倒れ、20秒ほどのた打ち回ってから動きを止めた。


「ふぅ・・・どなたも怪我無く終わったみたいでよかったです。」

 盾と槍を収納しながら胸をなでおろすエッラ、こんな何気ない動作でも胸の谷間に腕が沈んでいるのが悩ましいというか、悔しいというか・・・。

 それにしても・・・。

「ずいぶんとすばやい魔物でしたね、外見は奇妙なのに、恐ろしい魔物でした。」

 マガレ先輩もさすがの対応だった。

 嗅ぎまわる杭は名前のとおり、主に臭いを頼りに獲物を探すといわれている。

 爆炎に包まれて一瞬見失ってくれたおかげで大きな隙を見せてくれた。

 もしかするとトンボが獲物を発見するのに臭いを頼りにしているのが、炎で阻害されたのもあるかもしれない。


 何はともあれだ。

 魔物の襲撃は乗り切り、目の前には目的だった場所があるのだから仕事は手早く終わらせよう。

「ナタリィ、それで続きだけれど」

「えぇ、手早くいきましょう、トンボは縄張りが広いので、直ちに危険ということはないと思いますが、今の騒ぎで寄ってくる魔物が居ないとも限りません・・・マーガレットさんこちらへ」

 ナタリィはマガレ先輩を岩の隣に呼び、いくつかの指示を与え、マガレ先輩がそれに従っていると亀裂が入っているだけに見えた岩の小さいほうが、ゴゴリと音を立てて50cmほど動いた。

「開きましたね、後は中に扉があるので、それをマーガレットさんの精霊にあけていただきます。」

 そういってナタリィは自分からその隙間に体を滑り込ませた。


 ボクたちも追いかけると、大きい岩の中には、階段があり、地下へと伸びている。

 ナタリィはその階段を降っていき、2分ほどでその歩みを止めた。

 どうやら着いたみたいだ。

 深さにして30mくらいだろうか?

 階段の壁面はすべて地表にあった岩と似た質感の岩肌に覆われていて、この階段は岩をくりぬいたものかとも思ったけれど、足場のほうはなにやら滑りにくい不明の素材でできていて、もしかするとこの岩も本当は岩に良く似たなにか人工物なのかもしれない。

「ここは本来、鍵を回収した後の脱出路みたいですね、こちら側がふさがっていても開くうち開きの扉の様です。」

 と、ナタリィは本当はすべて知っているのに、あくまで研究者の様な口ぶりで説明する。

 マガレ先輩に正体を隠しているため仕方ないといえば仕方ないのだけれど、違和感がひどい。

 マガレ先輩は再びナタリィの指示に従って、火精霊たちに何かをお願いしている様だったけれど、程なくしてその扉も開いた。


 そしてその内部に入るとすぐに壁が見えた。

 しかし行き止まりというわけではなく、ボクたちが顔を出した壁沿いになにか展示物の台座の様な物があって、それが壁の様に視界をふさいでいただけだ。

 その台座を回りこんでみると、そこは神殿の様な天井の高い建物の室内で向かって右側に目的の鍵、魔剣、呼び方はいろいろあるけれど、外見的形状に即して呼称するのであれば杖が鎮座している。

 それは二匹の蛇が絡みついた様な形状で、片方の蛇には小さいけれど翼のモチーフも施されている。

 蛇の牙には水分を奪う作用があり、扱いを誤ると飛んでも無いことになる危険な装備だ。


 そして左側は扉があり、おそらくはそちらが正規のルートだとわかる。

 それとは別に天井に近い壁面の一部に亀裂が入っていて、今にも崩れそうになっていた。

 おそらくそちらが前周の事故的な攻略に関わる場所だろう。

 何はともあれ、目的の物がもう目の前にある以上、迷うことは何も無かった。


「それではアイラ、回収をお願いします。」

 そういってナタリィはボクに杖の回収を依頼した。

 やることはシンプルだ。

 台座から引き抜いて、収納する。

 それだけ・・・

「うん、任せて」

 ボクは急ぎ足でその台座に向かうと杖に触れる。

 特に何も無いことを確認して、それからようやく握る。

 すると、たいした力をかけることも無く、杖は台座から引っこ抜けた。

 そして台座はなにやら音を立てて、引っ込んでいく・・・そして。

 ガシャンガシャンと2度何かが動く音がして、それだけだった?


「あぁ、今のは本当なら私たちが今入ってきた扉が開く仕掛けなんですよ、もう開いているので特になにもないはずです」

 ボクの耳横で、ナタリィが答えを教えてくれる。

 それならばとやや緊張を解きつつみんなのほうへ戻る。

「これでここの目的は終わりだね。このまま水晶谷の方へ移動しようと思うけれど、みんな休憩とかは大丈夫?時間も余裕があるから、休憩しても大丈夫だよ?」

 一応魔物との戦闘もあったし、王都から紅砂砂漠ほどまでではないとはいえ、水晶谷まではまだ距離がある。

 時間的にも昼食をとってもいい時間帯だ。

 今日の日程はこの後水晶谷近くにあるオケアノス領の5000人規模の小都市マナナタウンで宿をとるだけだ。

 思ったより早く済んで、時間的余裕もできたのでここでのんびりお昼を食べてもいいかとも思ったけれど・・・・


「んー、正直殺風景な上埃っぽくてゆっくり長居したい場所でもないですし、時間に余裕があるなら、大きな飛行盾でゆっくり移動して、盾の上でお昼を食べてもいいと思いますよ?」

 と、神楽は苦笑いを浮かべながら魅力的な提案をする。

 確かにこの薄暗い地下神殿や外の砂塵舞う砂漠での昼食というのは遠慮したいものである。

 食事をしたら口の中がジャリジャリしそうだ。


「そうですね、私もカグラ様の意見に賛成いたします。少なくとも空の上のほうが安全です。ここで食事するよりも、少しでも移動しながらのほうが無駄がないですし、ベアへのお土産を買う時間も取れるかもしれませんから」

 とエッラも同意見、おいてきたベアに明日か明後日に渡すお土産の心配をしている。

 たぶんスネてるだろうから、よっぽど気に入るお土産を用意しないといけない、地方のハチミツとかキノコとか喜ぶかな。

 彼女は文化的な食べ物を好むけれど、もちろん自然食も欲しがる。

 ナタリィに言わせるとベアトリカは魔物の割に燃費が悪いそうだけれど、食の楽しさを知ってしまった彼女が食事をよく摂るのは仕方ないことだと思う。

 話が少し反れたか。

 ところで何か物音がするね?

 ガシガシと何か擦る様な音がする。

 それは例の亀裂の入った壁の辺りからで・・・・。

 気づいたみんなと苦笑いを浮かべながら、いやな予感を言葉にしてしまう。

「これってもしかして・・・?」

「もしかしそうだね・・・。」

 ユーリも盾の剣を構えながらその音に注意を向ける。

 そしてみしみしと嫌な音をさせながら亀裂が広がっていき・・・・


「ギシャァァァァァ!」

「ピギャァァァァ!!」

 先ほどのものより小さなトンボとそれよりもさらに格段に小さな3体のトンボが壁を突き破って神殿に飛び込んできた。


「ナタリィ!トンボは群れないんじゃなかったの!?」

 ナタリィの話ではトンボ同士の縄張りは比較的広く、そうそう連続して当たることはないはずだったのに、どうしてさっき倒したばかりなのに、こんな4体ものトンボに襲撃されなければならないのか。

「アイラ、これは親子連れです。トンボは基本群れませんが、メスは繁殖期から次の繁殖期の前まで子を育てます。」

 そんなの聞いてないし!そんなのにあたるなんて運がない・・・っていうか、親離れ前のトンボでこの大きさなの!?

 見ればトンボは母親らしいものが高さ3mほど、子供のほうでも1.5mほどの高さがあり普通の学生兵士くらいなら圧倒しそうなほどの質量がある。

 その上・・・


「砂が流れ込んできてる。早めに片付けて上に上がろう。エッラ、ユーリ、ナタリィは小さいやつを一体ずつお願い、ボクが親トンボをやる。フィーとマガレ先輩はカグラと一緒に台座のほうへ、行くよ!」

 近接もできるとはいえ、大型の魔物を相手するには心もとないおまけの様な短い刃物、射撃メインのマガレ先輩はこんな狭い場所での乱戦は危険だろう。

 号令をかけるとみんな自分と最短の位置にいるトンボを目標として見据えた。

 

 ボクの相手は最初に飛び込んできた親トンボ、さっきの闘いで、視野は広いものの目が良いわけではなく、特に正面に対しては絶望的、匂いをメインに獲物を狩っていることはわかっている。

 ならば正面からつぶそうかなどと考えていると、親トンボはボクを見つけたのか正面から突っ込んでくる。

 見ればその頑健そうな脚でしっかりと地面を踏みしめてかなりの前傾姿勢である、どうやら大きく平べったい尻尾でバランスをとっているらしく、こけそうでこけない。

 逆に尻尾さえ斬り捨ててしまえば走ることもままならなそうだ。

 そう判断したボクは一度目は尻尾を頭を攻撃せずに尻尾を狙ってみた。

 大きく開け放たれた口と、気味悪く湾曲した腕の下をすり抜けつつすれ違いざまに尻尾の先端を切り落とす。

 すると・・・


 ズシャァァァァァと大きな音を立てて親トンボは転倒した。

 案の定大きな尻尾でバランスをとっていたらしい。しかも不恰好なことに、こけた拍子に顔面から地面に突っ込んだトンボは、シュモクザメに似て肩幅が狭かったことが災いしてか、それとも勢いに骨格が耐え切れなかったのか、腕が肩を突き破るみたいにして腕と肩の骨が外れた上に背中側からズルリとはみ出ている。

 そしてそんな状態でジタバタとするものだからますます腕の損壊が激しくなっていく・・・あ、千切れた。

 異形の魔物とはいえ、不必要な苦痛を与えたいわけじゃない、そろそろとどめを刺そう。

 ボクは光輝剣状態の暁光を構えると親トンボの首を切り落とした。

 切り落としても10秒以上その体はのた打ち回り、それからようやく動きを止めた。

「ふぅ・・・ほかのみんなは?」

 と、後方に目を向けると、下がらせた3人は一応武器を構えて、敵と対峙した面々が危なくないかと目を光らせているみたいだ。


 それに対して前衛は・・・、ユーリはすでに対応していたトンボの上半身を真っ二つにして戦闘終了、エッラもトンボをすでに半分以上吹き飛ばしている。

 一方ナタリィは、トンボに対してなにやら話しかけていた。

 おそらくは説得を試みている。

 しかしトンボの方はその口を大きく開けてナタリィに威嚇している。

 そして、ボクが見始めてから10秒ほど経った頃、突然ナタリィへの突撃を試みたトンボは、ナタリィの裏拳を打ち降ろす様な技に打ち据えられ体は床に叩きつけられた。

 その威力のすさまじさは、殴られただけのはずのトンボの眼球がデロリとはみ出て、T字だった頭部がY字になっていることから、相当なものだったと思われる。


「終わりました。が、やはりここでの休憩はやめておいたほうが無難でしょうね、誇りっぽい上に落ち着きません」

 そういってナタリィは拳を布で拭いながら神楽たちのほうへ移動する。

 ボクとユーリ、エッラは倒したトンボの死骸を回収してからみんなと合流した。

 トンボの骨格は金属化したらどの様な素材になるのかわからないけれど、一応は大型の魔物素材なので、先ほどの地上の一体の分もエッラが収納してある。


 それにしても、生理的嫌悪感がするというか、外見が気持ち悪い魔物だ。

 ぬめぬめしてる上にシルエットも常の生物とはかけ離れている。

 今回は捕食目的だったので、あちらの意味の危険は感じなかったけれど、これで繁殖期だったらどれだけ身の毛もよだつ様な感情を抱かされただろうか・・・。


 それからボクたちは地上に戻り、神楽の大きな飛行盾に乗って、次の目的地マナナタウンへと飛び立った。


アイラが11歳の初夏頃、魔剣紅砂の砂漠の杖を回収しました。

回想ではあと3本分魔剣回収ダイジェストする予定です。

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