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第99.7話:決勝戦『銃姫』VS『花剣士』

昼休みに投稿したつもりができてませんでした。


 大水練大会4日目、準決勝では近接主体同士の激しい打ち合いと、射撃主体同士の激しい撃ち合いとが繰り広げられた。

 水上で繰り広げられる激戦は実力が拮抗すればさながら舞踏の様な洗練された動線を描き、観客となっていた領民も学生も息を呑んで見守った。

 そして決勝戦の組み合わせは奇しくも西のシュバリエール4年の監督生と3年の最強と名高い二人の戦いとなった。


------

(ユーリ視点)

 準決勝の2戦はどちらも手に汗握る戦いだった。

 アイラはなまじ顔が広い上に、自身が王室に所属していることもあって、なかなか特定の個人を応援するわけにも行かず昨日の本戦開始からは王族席で、ヴェルガ様たちと一緒に観戦している。

 僕も公式にアイラの婚約者なので、恐れながら王族席に招かれることとなり、左右をアイラとアイリスに挟まれて、二人の手を握って観戦している。


 王族席は広く、かつ他の席より高くなっているので王族と、その世話の人たち以外は居らず。

 僕たちは僕とアイラと王都在住のウェリントン家の面々、カグラ、ナディア、エイラ、エッラ、フィサリスがお邪魔している。

 シャーリーは恐れ多いからと王族席の警備に着くことを申し出たので、せめて級友の試合が見られる様にと、王族席のすぐ下の観客席に待機させている。

 ウェリントン家はすっかり王族たちと親しい付き合いをする様になり、普通の貴族どころかヴェル様の3男のグレゴリオ殿下すらここにはいないのに・・・


 アイラを招く、婚約者の僕がついてくる、その婚約者のアイリスもついてくる。

 そして、エミィがヴェルガ様に強請ねだってトーレスを召喚、さすがに王族の命令は拒否できずトーレスはここにやってくる。

 そして兄姉がここに呼ばれているのにアニスとピオニーを呼ばないのはかわいそうだとサリィとリアン様が主張し、子どもが全員ここにいるのに、母親一人で観戦、もしくは留守番させるのはかわいそうだからと義母も呼ばれた。

 王族がハルト様、ヴェル様、リアン様、サリィ、リント、エミィの6名しか来ていないのに同数のウェリントン家がここにそろっている。

 ハルベルト王子はキャロルが先日出産したばかりで、ソフィアリーナもまだ首が据わっていないため欠席している。


 ちらりと横目で見ると、エミィが今日こそトーレスを篭絡せんと学生でもないのに水着姿でトーレスの横で体を密着させている。

 エミィの容姿は前世と比べるとずいぶん磨き上げられていて、その肌の艶はサリィにも迫る勢いだ。

 やはり恋をすると乙女はその美に磨きがかかるのだろう。

 体を密着させるといってもそこは姫君、自分からトーレスの手を握るなんていうことはできなくて、ただ本当に肩がトーレスの腕の辺りに触れているだけだけれど、それだけでもエミィは真っ赤になっている。

 トーレスの方は、夕べカグラと話していたこともあってか、エミィへの対応は今までの多少でも異性を意識したものではなく、年下の弟妹を慈しむ兄の様に穏やかだ。

 こういうのもある意味で、吹っ切れたというのだろうか?


 ヴェル様は身を切る様な娘の色仕掛け?になびかないトーレスに対して多少苛立っており、フローリアン様のほうはにやにやと楽しそうに見ている。

 普段なら妹の恋を応援する側に回るサリィがめったに機会がないピオニーとのお遊びに夢中になっているため、直接援護する者はいない。


 リントは、世話を任されているクレアのエスコートをしていて、もう任されて半年経つのにいまだガチガチでむしろクレアにリードされている状態・・・、年上というのも多少は関係あるだろうが、これは将来尻に敷かれそうである。

 しかしリントは根が善良なため、クレアも一緒にいて不快は感じないだろうし、リントもクレアのことは好ましく思っている様なので、このまま上手く付き合っていってくれればと思う。

 しかし、もう休憩も終わって決勝の二人、マガレ先輩とシリル先輩が入場して試合の開始待ちをしているというのに、アイラとアイリスとトーレス以外まともにフィールドを見ていない気がする。


 と、そんなことを考えていたら、試合開始が告げられた。

 瞬間静かになる会場と、消え失せる水上の二人。

 動体視力には自信があるつもりだったけれど、僕の目でも追うのが厳しい高速の攻防が始まった。

 これ、会場の人の大半は見えてないよね・・・?

 あぁ、アイラとエッラは確実に見えているけれど・・・。


 見たところその速さはシリル先輩のほうが上、ただマガレ先輩の反応速度が速いため、距離を詰めきれないでいる。

 シリル先輩は近接戦闘で一気に決めたいけれど、マガレ先輩は中距離を保とうとして必死に牽制を加える。

 僕にはっきり見えるのは放った射撃の道筋と、移動の軌跡くらいだけれどそれだけでも彼女たちがどれだけ高度な駆け引きをやっているかはわかる。

 マガレ先輩が放った炎弾をマガレ先輩が斬り払うとそこに美しい花が発生して、水面に散らされていく。


「もともとエレメントに好かれている方たちだというのは存じ上げていましたが、これはずいぶんと凄まじいものですね・・・妖精族のそれと遜色ない・・・いえ、もっと上ですね。」

 訳知り顔でフィサリスがなにやらつぶやいているが、それぞれのことで忙しい王族たちは気付きもしない、ハルト様ですらアニスの世話をするエイラに見惚れている。

 二人の関係を思えば仕方ないかもしれない、本当はハルト様はきっと、エイラを娘として認知したいのだろう。


「エレメントって、ナタリィが言っていた世界の均衡を維持する種族?エル族とかに懐くって言う」

 アイラが小さな声でフィサリスにたずねる。

「はい、そうですね、精霊系エレメント種族や植人系種族は存在するだけで世界の魔法力のフローを調整したりする役割を果たしていますが、長命なため、心穏やかに過ごすのに妖精系種族に寄り添うことが多いです。その妖精系種族はサテュロス大陸ではエル族が該当します。ですがたまにマーガレットさんやシリルさんの様に特定の精霊に好かれる者もいるみたいですね。」

 アイラと僕の間、その後ろに待機しているフィサリスはアイラの問いに答えさらに続ける。

「ただサテュロス大陸のエル族の場合は水、風、光の精霊をほとんど無差別に惹きつけて、寝ているときなんかに動きがなくて飽きて離れていきますが、妖精系種族以外だと波長が合うとでもいいましょうか、特定の個体がずっとついていく様になります。普通精霊は群体的といいますか、共有意識の様なモノをもっているのですか、長年特定の人に寄り添っているとそれが薄くなって個性の様なモノを持つ様になります。」

「個性ですか?」

「はい、人格と置き換えても良いです。彼らも知性を持っていますから、意思疎通は難しいですが・・・。

精霊魔法と呼ばれる魔法は人の放出するイメージに則って行われますが、群体的エレメントではよほど明確なイメージをしない限り簡単な事象しか起こせませんが、人格を宿した精霊と価値観を共有できればそれとは比べ物にならないほど圧倒的な魔法を扱うことができます。それが精霊魔法とか召喚魔法と呼ばれるものの一部の正体です。」


 二人は小声で、精霊種族についての話を進めている。

 誰も気にした様子はないけれど、結構世界の大事な気がするのは気のせいではないだろう。

「私たちは観察者としての役目もありますから、ほかの種族よりもエレメントもよく見えますが、マーガレットさんは5人の個性持ち火精霊が寄り添っていますね、それに、その5人の精霊が火の小精霊たちを従えている様です。シリルさんのほうは水精霊が1人かなり成長していますね、ただマーガレットさんと違って、シリルさんはその存在に気づいていないみたいです。それからあの剣は、どうやらトレントの化石化した遺骸の一部でできているみたいですね。」

 遠くからでもそれだけわかるのか、それとも今まで観察してきた成果なのか、フィサリスは淡々とした口調でシシル先輩とマガレ先輩の能力について解説する。

 精霊魔法、確かに存在し、基本的にはエル族が多用する魔法、イメージと呼びかけで精霊を動かし力を貸してもらう魔法で、術式化した魔法と比べると制御が難しい割りに威力が出しにくいからと重要視はされないものの、使いこなせると呼びかけだけで多様な魔法を放つことができる。

 ただエル族以外には使いこなすことが難しくて、僕が知っている範囲だと前周でオーティスが水の精霊魔法を使える様になっていたくらいかな?


「精霊魔法は精霊に好かれるのが条件ってこと?」

 とアイラはフィサリスにたずねる。

 それに対してフィサリスは、小さくうなずいた上で

「ですがアイラ様はすでに精霊には好かれています、マーガレットさんやシリル先輩の精霊たちもアイラ様がそばにいる時には久しぶりにお母さんに会ったみたいに甘えたがっています。個性の育った精霊ほど、アイラ様に惹かれているみたいですが、アイラ様には精霊がほぼ完全に見えない様なのでいつもペタペタと触っているだけですね。逆に群体状態にあるサーニャさんの周囲の精霊は目先のサーニャさんの放つエル族の魔法力に惹かれて、アイラ様に気づきもしません。」

 どういうことだろう?個性が育った精霊にはアイラが魅力的に、フィサリスの言葉を借りるならばお母さんみたいに甘えたい存在に見えるということ?

 思いつくのは前周でリリを産んだあとから身についた聖母という適性、もしかするとそれが成長した精霊たちには見えているとか・・・?


 ウワァァァァァァ!

 少しアイラとフィサリスに気をとられているうちに試合のほうで動きがあったみたいだ。

 会場を見てそれはすぐにわかる。

 花剣オータム豊穣大宴ハーベスト、シリル先輩の奥義のひとつで周囲の魔法の発動を阻害して、その魔力を吸収して、花を咲かせる魔法。

 その魔力を使っての派生技がいくつかあり対魔法使いにおいて無敵に近い威力を発揮する。

 一応マガレ先輩は火精の加護をもっているので完全無力化はされないはずだけれど、それでも放射する形の魔法を阻害されるためかなりやりにくいはずだ。

 それにしても、前周で見たときには余裕がなかったのでわからなかったけれど、なんて優美で絢爛な魔法なのだろうか。


 先ほどまでに散らせていたまばらな花弁とは違い、大輪の花がいくつも咲き乱れフィールドの過半を埋め尽くす。

 その美しさはなかなか言葉にできないものだ。

 そしてそれでも尚炎弾を放ち続けられるマガレ先輩もさすがだが、シリル先輩は花弁を立てにしながら再度距離をつめる。

 そして・・・


「マガレ!私の全力を君に示す!豊穣祝祭フェスタ!!」

 シリル先輩が叫ぶと同時、水面に浮かんでいた花たちが一挙に水面から空へと飛び立つ、そしてその花弁が崩れながら、魔力の塊へと変化する。

 それは上空に7つの光の弾を作るとやがて雨の様に魔力光を降り注がせる。

 一つ一つの威力はそこまででもないが、一発当たればアウトのこの大会ではかなり凶悪な技だ。

 威力もそこまででもないと入ったものの、あくまでシリル先輩の技としてはの話で、半端な障壁は貫通してしまう程度の威力は保っている。

 マガレ先輩も薄く鏡の様な魔力の膜を張って回避しながら最後の一手を狙うものの、その一撃もシリル先輩の一閃により斬り落とされて花弁と変わった。


 そしてその花弁はそのまま魔力光に変質させられると、直射砲としてマガレ先輩に襲い掛かり・・・

「けっちゃーく!!17分に及んだ死闘はシリル選手の勝利にて幕!しかし何れ劣らぬ攻防を見せてくれた二人の若き才媛のその勇姿をわれわれは忘れることはないでしょう!!歴史に残る名勝負でありました!!」

 二人ともとても縁のある先輩で、うちにも頻繁にやってきてはアニスやピオニー、それにソニアとソルともよく遊んでくれている方たちだ。

 怪我をしないかとか、ハラハラさせられたけれど、どうにか無事に終わった。

 シリル先輩が放った2つの奥の手、頭上からの拡散射撃と、カウンター用の魔力砲撃はマガレ先輩の射撃の合間をかいくぐり、マガレ先輩の目の前まで来るとポンと音を立てて花弁に変わった。

 途中まで拮抗していた二人の戦力はシリル先輩が花剣オータム豊穣大宴ハーベストを発動させたところからシリル先輩の優勢となっていた。

 結局闘技場という遮蔽物もない限られたスペースでは剣士であるシリル先輩のほうが有利に立ち回れるということもあり、条件は均等ではなかった。

 それがそも、水上試合の特徴でもあるのでこの戦いの決着が必ずしもシリル先輩のほうがマガレ先輩より強いということにはならないが、とにかくこの大会での優勝者はシリル先輩となった。


 アニスが身を乗り出して二人に向かって大きな声(といっても、会場の声にかき消される程度の声だけれど)で呼びかけると、二人にはなんとなく届いていた様で、二人は王族席に向かってペコリと会釈した。


「やーハラハラしたね、両方が知り合いだと、見てる方はつらいものがあるね?」

 と、トーレスがつぶやくと、正直どの口がいうのかと思わないでもないけれど、気持ちはすごくわかる。

「お二人ともよく考えられた戦術でした。近年稀に見る名勝負だったと思います。」

 もう精霊の話しはひと段落してしまったらしいアイラがそう言って褒めると、ヴェル様やハルト様も口々にその戦いの流れをほ賞賛する。

 たぶんほとんど見えていなかっただろう。

 お二人とも現役の頃はかなりの好成績を示した王族だけれど、いかんせん今の軍官学校生上位は規格外だ。

 おそらくトーレスのレベルでも卒業時のハルト様やヴェル様を戦力的には余裕で上回っている。


 本人含め学校生たちも上にたつマガレ先輩やシリル先輩、ジャン先輩などの圧倒的な力のせいで目が曇ってしまっているけれど、実際にはトーレスは器用貧乏どころか万能選手だ。

 今回の大会だって、あくまでマガレ先輩に負けたのである。

 一部の勘違いさんは、トーレスは器用貧乏で戦闘力はそうでもないと思っているみたいだが、本職でない水上戦闘でベスト8に入っているし、習得が難しいとされる水上歩行の魔法だって習得している。


 武器を選ばず個人戦闘力に優れ、軍を率いるどころかあらゆる戦技を中級程度までなら指導することもでき、内政や外交の知識があり、容姿、人柄、家格(は後付けだが)も申し分ない上に現状婚約者もいない超優良物件だ。

 そこらの貴族家やその令嬢は、彼の将来性のある新興男爵家の跡継ぎという背景(ついでに王族や侯爵家とのコネも狙える)を見ていて、やや上から目線の婚姻を申し込むばかりだけれど、実際には彼はその侯爵家や他国の王族から婚姻を求められてもおかしくないレベルの逸材になりつつある。


 ある意味でエミィの嗅覚は正しかったということだ。

 その彼がまさか彼女のことを結婚相手に考えているというのは僕にも予想外だったけれど・・・。

 夕べ彼から打ち明けられた内容に、僕は内心驚きながらも平穏を保つしかなかった。

 アイラとアイリスは驚いていた。

 カグラとアニスはきょとんとしながらも、顔を赤らめて興奮していた。

 これからどう転ぶかはわからないけれど・・・まだしばらくは賑やかな日々が続くのだろうなと思いながら、僕も闘技場の二人の健闘を讃えて両手が熱くなるまで打ち鳴らした。

トーレスが誰と結婚したがってるかは、ここまで読んでくださっている様な方にはもうばれていると思いますが、一応引っ張らせていただきます。

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