第99.6話:『銃姫』 の初恋2
大水練大会4日目、この日は昼前から水上試合の準決勝と、決勝、それから明日に控えたコンテストの説明が行われる予定であった。
混雑を避けるため早めに登校し、控え室に近い購買で、親友のラフィネと共にジュースを飲みながら時間をつぶしていたマーガレットは、突然声をかけてきた誰かのことを、煩わしいと思いながらも実力行使で排除することもできずにいた。
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「あれ、やっぱり!君ベスト4に残ってるマーガレットちゃんだろう!?」
そういって突然声をかけてきたのは見知らぬ男子生徒だった。
まぁ確認を取っているだけだし、さすがにまだその人物を判断するほどの情報を持っていない相手を邪険に扱わない程度には、私の社交性は息をしている。
といっても、いきなり名前のちゃんづけというなれなれしい呼び方をしてくる男という時点で、評価はマイナスに振られているが・・・同性ならまだともかく年頃の異性を一方的に名前で呼ぶかな普通。
「まぁそうですね。そういう貴方は?」
何せ時期が時期なので制服すら着ていない、見た目から13~6歳、メイドと思しき少し年下に見える紫毛の女の子を連れているから、たぶん貴族なんだろうね?
でも見た覚えがないからたぶん3年生ではなさそう?
私の問いかけに、彼は意外そうな顔をした。
「おやおやおや、この僕をご存知でない!?これはいけない、これはこれはこれは・・・・クク!」
と、仰々しく身振りしまるで劇でも見ているのではと思う、役者は3流未満だが・・・。
相手にしたくないなと思いつつ、正面で、呆れた顔をしているラフィネに小声で尋ねる。
「知ってる?」
しかしラフィネは肩を竦めるだけだった。
すると彼は仕方ないといったポーズをとりながら。
「僕の名は、マクシミリアン・フェルトホフ・フォン・マイシュベルガー、栄光ある王領貴族マイシュベルガー子爵家の二男にして、グレゴリオ殿下の学友というやつだよ!」
マイシュベルガーはいちいち仰々しく身振り手振りを交えながら宣言した。
グレゴリオ殿下の学友を名乗るなら1年生だろう。
「マイシュベルガー君、私は3年の、マーガレット・カーマイン、こっちは・・・」
「知ってる。ラフィネ・ロータスとかいう売女だろう?」
私が3年であることを示そうとしたところマイシュベルガーを名乗る男は蔑む様な目で私の親友をねめつけた。
「なっ!誰が・・・!」
いきなり暴言を向けられたラフィネが反論しようとするけれど。
「黙らないか、僕が話しているのは『銃姫』だ。」
信じられないことに、目の前の男は軍官学校生としても、一人の人間としても、もちろん貴族としてもありえない態度をとった。
こんな相手の対応を続けられるほど私は大人にはなっていない。
「ラフィネ、私の控え室で話そう。」
すぐに私とラフィネは席を立とうとするけれど・・・・。
「まぁ待てよ、僕は君のためになる話を持ってきたんだ。」
そういってマイシュベルガーは私の隣、そしてラフィネの隣には、マイシュベルガーの後ろからやってきた二人の男が、席から立てなくなる位置に陣取った。
壁際の席に座っていたことが仇となった。
「紹介が遅れたね、こちらの二人はアントニオとコルティス、二人は平民だがなかなか見所があるやつらでね、僕と共にグレゴリオ殿下を盛り立てていこうという同志だよ。」
そういって二人の男を紹介する。
体つきの立派なのがアントニオで、ひょろひょろなのがコルティスらしい、まぁ覚える気はないけれど。
ラフィネがさすがに引いている。
いきなり真横に男二人に寄られたらそれは気持ち悪いだろう。
ふっ飛ばす訳にもいかないし。
私たちの無言を了承ととったのかマイシュベルガーは語り始める。
「昨日の試合見ましたよ、いやーさすがすでに二つ名で呼ばれるだけあってお強い。その上間近でみると、線が細く美しいお嬢さんだ。」
そういいながら私の髪を触ろうとしたのでキッとにらみつける。
すると彼は「失礼」といいながら触るのをとりあえずやめた。
「マイシュベルガー君、君は1年生なのでしょう?だったら先輩に対する姿勢というものがあるはず。ここは軍官学校なのだから・・・。」
そういって拒否の姿勢を見せると、マイシュベルガーは目を見開いて、それから。
「あーはっはっは!これは面白いご冗談ですね。軍官学校だから身分は関係ない?そんなわけがないでしょうに、現に貴方だってあの田舎の成り上がり者を様と呼んでいるじゃあないですか!」
そう大きな声で言って、私の髪を持ち上げると、なぜか鼻を押し付けてきた。
「やめてください、不愉快です。」
そういって手で、その手を払うけれど、マイシュベルガーは口元を歪ませながらいった。
「おいおい、あの野蛮人には触らせてこの僕には不愉快だと?平民の癖に何様のつもりだ?あいつは親が爵位を授かったとはいえ元農民で男爵家、僕は生まれながらの子爵家、僕のほうが格上だよ?その僕を下に扱う態度は爵位を授けてくださる王室への侮辱だ。」
そういう風に強気に出られると、平民の私には、貴族の作法とか礼儀とかがわからないので、何もいえなくなる、そういうものなのかもと一度思ってしまえば、身動きが取れない。
でも・・・
「さっきから言っていた田舎の成り上がり者とか、野蛮人って、トーレス様のこと?」
もしそうなら許せない、あの方をそんな言い方する権利のある人は少なくともこの学校にはいない。
「だったらどうなんだ?事実だろう?まったく・・・父親が娘を差し出して権力を握ったのをさも自分が貴族であるかの様に振舞って・・・殿下も殿下だ・・・あの様な娘を王室の養子にしてしまうなど・・・。」
耳を疑う様なことをいうマイシュベルガー、彼は私に対して王室への侮辱がどうこうといっておきながら、もっと直接的な侮辱を口にした。
「それに君もだよマーガレットちゃん・・・今またあいつのこと様付けでよんだね?僕のことは君付けで・・・。」
痛いっ・・・!髪を握ってきた。
ちょっと頭に血が上りそうになるけれど、何とか抑える。
怒ってしまうとお願いしなくても彼女たちが暴れだしてしまう。
いや・・・、私が怒らなくても彼女たちが怒ってしまえば一緒のことか・・・。
「それでは・・・マイシュベルガー子爵公子閣下、大変危険ですのでその手を離していただけますか?」
こんなやつのいうことに従うのは癪だけれど、これ以上は本当に危ない。
「危険?なにがだ。お前、いい気になってんじゃないよ?平民が貴族に何かする気じゃないだろうね?」
しかし、マイシュベルガーは気にした様子もなく私の髪を手櫛にしてもてあそんだ。
あぁ・・・ダメだった。
「熱っ!!」
マイシュベルガーはあわてて私の髪の間から手を抜くけれど、その手には真っ赤に爛れた火傷の痕がある。
マイシュベルガーは私をにらみつける。
「貴様、貴族に危害を加えたな!!どういうつもりだ!!」
しかし私は何かしたわけがないので、ありのままを話すことしかできない。
「閣下、私はしっかりと警告いたしました。危険だ・・・と」
「それは貴様が貴族を貴族とも思わないこの様な振る舞いをしたからだろう!」
マイシュベルガーの声がまだ人のまばらな校舎に響く。
人は少ないけれど、その分目立ち、徐々に野次馬が集まってくる。
あまり人の多いところでいいたくないけれど・・・・。
「閣下、それは違います。私は火精の加護というものを授かっておりまして、彼女たちは私を守ろうとする余り、私に危害を加えようとしているものに対して警告をするのです。次は灼き殺すぞ・・・と、閣下の振る舞いに彼女たちが反応しておりましたので、私は危険だと申し上げたのです。」
私の回答に、マイシュベルガーは納得していない様子が見て取れた。
しかし、私も事実を話しただけなので、これ以上どうしようもない。
「貴様、貴族に向かって殺すと抜かしたか!!飼い主が野蛮人ならペットも野蛮だな!あぁ、かわいがってもらっているメス犬か?腕が立つ様だからもっと仕え甲斐のある主君に仕えさせてやろうと誘ってやろうとしたが、よっぽど可愛がってもらっているみたいだな!大好きな飼い主ともども処罰があると思えよ!」
その形相は最初なれなれしく話かけてきたのとはかけ離れた興奮した表情で私を罵るが、その水着には焦げ付きが発生している。
彼女たちが怒っている。
あと少しすると火がつくかもしれない、それはちょっと見たくないのでなだめることにする。
心の中で彼女たちの名前を呼び、落ち着く様に声をかける。
「(ローズ、チェリー、アザレア、ピーチ、フクシア、こんなやつ脅威ではないから、落ち着いて。こんな奴でも立場はあるから怪我をさせると面倒なの。)」
彼女たち、というけれど、私には別に彼女たちの姿がはっきり見えているわけでもないし声だって聞こえるわけではない。
たまに暗いところで赤く光ったり、なんとなくいるなって気配を感じるくらいで、今みたいに彼女たちが怒っている時でもないと、ここまではっきりと感じられることは少ない。
だから本当のところ彼女たちかどうかもわからないけれど、お風呂やトイレの時も近くに居るので、精神衛生的に彼女たちと呼んでいるに過ぎない。
そして彼女たちは私の近くにいつも5人でいるので5人分の名前をつけた。
私の心の中で強く思ったことなんかも感じ取ってくれて、狩りや戦闘の手伝いもしてくれる頼りになる子たちだ。
今も私を守ろうと、私に悪意を向けているマイシュベルガーの周りに気配を感じる、かなり警戒しているものの、私が呼びかけたから待ってくれている。
でもそのためにこんな貴族としても頭の弱そうな奴に付け入る隙を与えて、その上、関係のないトーレス様の迷惑になるかもしれないだなんて・・・。
トーレス様の笑顔を曇らせるかもしれないと思うと、心が鉛の様に重くなったと感じる。
いっそこの場でこいつら全員を巻き込んで焼け死んでしまおうか・・・?
「ほう・・・子爵家の庶子に過ぎない貴様がその先輩方に一体どの様な処罰を下すというのだ?メルヒオールト」
ネガティブな考えに染まりかけた私の耳に別の男性の声が響く。
そちらを向くとマイシュベルガーと少し髪の色が似ている、見比べるといささか痩せた印象の男が居た。
さらに彼の隣に居るのは件のグレゴリオ殿下と思しき人物だ。
それに今彼はマイシュベルガーのことをメルヒオールトと呼んだ。
どういうことだろうか?
「な・・・、なぜ兄上がここに・・・?」
兄上・・・ということはマイシュベルガー家の長男?
「父上が貴様にも身を立てるチャンスをと、メイドまでつけて学校にやってくれたというのに、貴様は一体何をしているのだ?」
彼は、メルヒオールトと呼んだマイシュベルガーから視線をはずして私のほうを見て頭を下げた。
「すみませんでした、カーマイン先輩、ロータス先輩うちの愚弟が迷惑をかけました。私がマクシミリアン・フェルトホフ・フォン・マイシュベルガー、マイシュベルガー子爵家の次男です。」
「余からも謝罪する。アントニオとコルティスは一昨年まで余に近侍していた者だちだ。」
そういって真マクシミリアンと殿下の二人と、その後ろについた二人のメイドさん(多分)と一緒にこちらに近寄ってくる。
アントニオとコルティスは居心地が悪そうに身じろぎをし、目の前のマイシュベルガー改めメルヒオールトは憎憎しげに真マクシミリアンをにらんでいる。
なに?どういうこと?
「さてメルヒオールトよ、庶子であるとはいえ、フォンを冠した名を騙ることの意味がわからないとはいわんだろうな?それも、不当に私の名を貶めるのが目的とは・・・。」
真マクシミリアンは、さらに一歩メルヒオールトへと歩みを進めながら彼を弾劾した。
「うぬぼれるなよマクシミリアン、この僕がお前を貶めるため程度のことのためにこんな売女どもに声をかけるかよ!だいたい、本当なら次男は僕でマクシミリアンが三男だろう、だったらお兄様亡き今本来子爵家を継ぐのも、グレゴリオ王子の学友も僕であるべきだったんグァ!?」
メルヒオールトはそんなことをわめきながら真マクシミリアンにつかみかかろうとするけれど、それをメルヒオールトについてきていた紫髪のメイドさんが止めた・・・殴って
「クラリッサ、面倒をかけたな、お前の働きがなければもう少し面倒なことになっていたかもしれない。」
「いいえ、この様な瑣末事、旦那様から受けた恩に報いるにはまだまだ足りないです。」
真マクシミリアンがメイドさんに労いの言葉をかけて、メイドさんが跪く。
これは今メルヒオールトをとめたことではなくて、もっと前から何か情報共有してたってことだよね?
「さて、思いの外情けない本音を吐露したな、よもやそんな考えだったとは、仮にお前の目論見通りに事が運んで、私が廃嫡されたとしても、うちにはまだヴィリとヴィルマが居る、お前の序列は叔父上たちよりも後だよ・・・兄上がなくなったせいでそんな夢を見てしまう様になったのか、哀れな。」
一生懸命考える、え、何?ってことはトーレス様をけなしたり、私やラフィネに嫌がらせをしたのも全部ウェリントン家から抗議させて、お兄さんを悪く言わせようと思ってのことだったってこと?
それをこの大事な試合の日に・・・?
それも真マクシミリアン君が現れてから私そっちのけでメルヒオールトは兄を罵って、にらんで・・・
「あ、熱っ熱っ熱っ熱っ熱っ熱っあっづい!!?」
あ、燃えた・・・。
「すみません、イライラが火精に伝わってしまったみたいで、制御できないです。」
とりあえず謝る。
メイドさんに取り押さえられたメルヒオールトの水着の背中側がメラメラと炎を上げて、やさしいラフィネがあわてて手元にあったレモンジュースをかける。
よかったね・・・レモンは火傷にいいらしいよ・・・?痛いかもだけど・・・。
「ギャアァァァァァ!!お前!売女のクセに!絶対殺してやる!!」
「貴様まだそんなこといっているのか・・・?貴様は・・・殿下?」
真マ君がにらみ付けながら弟へ何かを告げようとするとグレゴリオ殿下が待ったをかけた。
真マ君が言葉を止めると代わりにグレゴリオ殿下が一歩進み出て言う。
「なぁメルヒオールトとやら、フォンの名を騙る事がどれだけ重罪かわかっておるのか?犯罪の捜査や、人の命がかかっているのならそれは致し方ないことと認められることもあるが、貴様のそれは悪意から出たものだ。通常であれば他家の名を騙って犯罪だけでも死罪とお家取り潰しだが・・・兄の名を騙り、余の学友と偽った貴様の場合はどうかな?そしてアントニオとコルティスよ、貴様らも同罪だ。」
グレゴリオ殿下はメルヒオールトを詰り、その上でかつて取り巻き立ったという2人もにらみつけた。
メルヒオールトは殿下か突きつけられた罪の重さに言葉を失った様だ。
考えなしだったらしい。
「そんな、俺たちは騙ってません」
「そ、そーです、俺たちはただ立ってただけで・・・」
そして二人の共犯者は殿下に対して二人は無罪を主張するけれど・・・。
「そやつの正体を知っておったのに口裏を合わせた時点で同罪だ!それと余は軍官学校を卒業すれば準王族ですらなくなる、貴様らが何かを示して再び王族の取り巻きになりたいという願望はどちらにしろかなわなかったであろう。沙汰は追って下されるだろうがな・・・今ロータス先輩への殺意も仄めかしたので今後のことを考えれば3人とも死刑か流刑であろう」
王子の言葉を聴いてうなだれる3人、それを見て満足したのかグレゴリオ殿下は周囲の野次馬に声をかける。
「誰ぞこのものたちの捕縛を手伝ってくれ」
と、殿下が呼びかけると数名の男子が名乗りを上げて、殿下はそのうち4人を採用し、その後はメルヒオールトについていたメイドと真マ君についていたメイドとが付き添っていった。
殿下と真マ君と殿下のメイドはその場に残って、私たちに頭を下げた。
「朝から嫌な想いをさせてすみませんでした。我々の身内への監督不行き届きで将来のある先輩方に、王国貴族への疑心を抱かせてしまうところでした。」
グレゴリオ殿下が、後輩としての態度で、私たちに謝罪する。
となりで真マ君も一緒になって頭を深々と下げ、メイドさんもそれに倣う。
私とラフィネは王侯貴族に頭を下げられるのなんてぜんぜん想定していなかったのであせる。
「えっと、殿下、子爵公子閣下、頭を上げてください、私たちは平民です。」
平民に王侯貴族が頭を、それも公衆の面前で下げるなんて・・・。
しかし、殿下たちの応えは明朗だった。
「いいえ、ここは軍官学校、私たちは尊敬できる先輩に非礼を詫びているのです。後輩として頭を下げないわけには行かない」
「マクシミリアンの言うとおりです。我々は確かに一定の身分を持ちますが、ここは王室の定めた学びの場所です。仮に相手がメイド学生でも、尊敬すべき方は尊敬できる。そういう場所なのです。それを今は仮にも王族籍にある私が実践することに何の問題がありましょうか?」
暗に私がメルヒオールトに対して取った態度について仰っているのだろう。
「連中の処罰はこちらで責任を持ちます、大事な試合の前に心乱す様な事件を起こして申し訳ありませんでした。」
最後にそういって謝罪する彼らに気にしない様に声をかけて彼らが弁償してくれたジュースを飲んでから、私は控え室、ラフィネは観客席に向かった。
控え室で一人になった後、考える。
私はどうしてさっきあんなにも冷静な判断ができなかったんだろう?
私は別にウェリントン家に雇われているわけでもないし、トーレス様から卒業後の誘いを直接いただいたわけでもない。
ただなんとなく一緒にいることを選んで、なんとなく卒業後もウェリントン領についていくんだろうなって考えてきた。
ちゃんと誘いを受けているのはエリィくらいで、私もラフィネもその人柄に惹かれて近くにいるだけだから、私たちと彼との揉め事がウェリントン家に波及することなどありえなかったのに、私は正常な判断ができなくなるくらいネガティブになっていた。
トーレス様のことだから冷静でいられなかったのだろうか?
グレゴリオ殿下と真マクシミリアン君が現れなければ私はどうしたんだろうか・・・。
火精たちが、私の近くに寄ってきたのがわかる。
この子たちは私の感情にも反応するけれど、寄ってきたということは、私は今穏やかな気持ちになっているということだろう。
トーレス様・・・。
その姿を思い浮かべると、不思議と落ち着く、あの方はラフィネやシャーリーと並んでクラウディアでの私の心の支え、こうやって心の中で名前を呼んで、姿を思い浮かべるだけで、荒んだ気持ちが消えていく。
「よし、準決勝、がんばろう」
私は、まだ人に何かを示せる様な人間ではないけれど、トーレス様に勝ってこの準決勝に挑むのだから、あの方に恥じる様な戦いだけはしない様にしよう。
それでいつか胸を張って私から伝えるんだ。
「貴方のお側で仕えさせてください」
そう小さくつぶやくと、実際に伝えたわけではないのに胸の辺りがポカポカと熱くなる感覚がして、口から湯気でも出そうなくらいウアーってなる。
何だろう、さっきの連中がトーレス様にかわいがられてるとか言ったからなのか、『側に仕える』という言葉にそういうニュアンスを含んで感じてしまったんだろうか・・・?
私のトーレス様への気持ちは思慕ではなく、そのひたむきさへの尊敬だったはずなのだけれど・・・まぁいい、やることは変わらない。
ただあの方が私と戦って敗れたことを誇りに思える様な戦いを魅せよう。
更生済みグレゴリオ殿下初登場です。
でも別に彼がマガレの初恋相手ではなく、順当にトーレスが初恋相手です。
初恋を自覚し始めるだけで、トーレスとのエピソードは特に回想しませんでした。




