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第99.1話:いつも幸せな彼女の場合1

内面が不安定なキャラの一人語りなので文章がぐちゃぐちゃしています。

が、書き損じではなく仕様です。

不快な描写を多分に含むので読まなくても不都合がない様にします。(多分)

 ソル・ルピナス・スターレットは所謂孤児である。

 彼女の幼少期の経験は、苦難の連続であった。

 彼女の生母ルピナスは、彼女を産んだ後まもなく亡くなり、父親は5年後に継母サマンサと再婚したものの、僅か3ヶ月ほど後、狩中の事故により帰らぬ人となった。

 継母と父との間に子は居らず、周囲はサマンサにソルを棄てて幸せになるべきだ、それができないなら村を出て行きなさいと諭したが、彼女は聞き入れずに亡夫の故郷へ夜逃げの様にしてにげた。

 サマンサはソルを愛しており、自分の故郷のものがソルを殺すかもと不安に思ったのだった。

 サマンサはソルを守るための選択をして、自分が幸せになる可能性はすべて捨て去った。

 愛した男の忘れ形見であるソルの幸せこそが自分の幸せだと信じて


 ソルの父の故郷に移った後もサマンサの苦難は続いた。

 ソルの父は村長の次男で、優秀な男だったが、一部の遺伝能力持ちなどでもない限り普通家督は長男を優先するため、長男が後を継ぎ、優秀だった彼は村を出ることになった。

 仮にその次男が死んだといって、未亡人と娘を名乗る存在がやってきたが、サマンサはまだ21歳の女ざかり、しかも長男の嫁よりも数段美人だった。

 普通ならわざわざ亡夫の実家にこないだろうと疑ったものの。

 次男の娘だという幼い娘も将来は美人になりそうだと長男の息子の嫁にする可能性も考慮に入れて、ソルの祖父であった村長は一応穏便にサマンサとソルを受け入れて、村長宅の近くの小さな家に二人を置いた。


 問題はそこからだった。

 長男は、サマンサが自分の妻より若く美人であったため「村においてやっていること」を盾にして肉体関係を強要した。

 サマンサははじめは拒んでいたが、ソルの将来のことを引き合いに出されれば従わざるを得ず。

 聖母教の教えに反し、愛のない相手に体を許すこととなった。

 しかし、2番目の妻となることは拒み、彼女はソルと二人での生活を続けた。


 長男の妻は、夫の不義を嘆いた。

 それでもソルという姪は自分の息子の嫁になるとなれば器量に優れた娘だったので歓迎しており、サマンサのことも2番目の妻となるなら、せいぜい正妻としてこき使うくらいで済ませてやろうと思っていた。

 しかしながら、サマンサが前夫へ操立てしたため、長男の妻は嫉妬心を抱き、夫がいない間にサマンサへ村の手伝いとして、長時間の労働を命じる様になり、自分の仕事も一部をサマンサに押し付ける様になった。

 村長はその状況を知りながら知らないふりをし、長男は知ってか知らずか、過酷な労働によりやつれ始めたサマンサにより魅力を感じる様になったらしく要求がエスカレートしていき、サマンサは日中の手伝いに支障をきたし始める。

 そしてそれをまた妻が責めるをくりかえした。


 それでもソルを守るためだとがんばっていたが、サマンサは気づいてしまう。

 長男がソルを品定めする様な視線をしていることに・・・。

 ソルはそのころ7歳となり、貧しい暮らしにもかかわらず持ち前の活発さと人当たりの良さもあるが、何よりも容姿が優れている娘だった。

 サマンサには、心からは笑っていないのがバレていたし、服装も不似合いに地味なものだと思われたが・・・。


 あくまで村娘基準ではあるがかなりの美少女となりつつあった。

 その上神童と呼ばれるほど利発で、正式な鑑定を受けたわけではなく、魔法道具の使用からの判断だが、魔法力も並みの子どもより数倍は多いと見込まれていた。

 実際には長男は子どもの嫁になる娘を品定めしていたのだが、好色な長男の目に、食べ頃がいつになるかを考えている。と感じたサマンサは村からの脱出の機会をうかがっていて、薬草探しの手伝いを頼まれた時に、人手は多いほうが良いからとソルも連れ出してそのまま村を出た。

 その結果とある貴族の暴走にまきこまれ、サマンサは殺害され、ソルは孤児となった。


 たくさんの被害者、犠牲者のいる中、たまたま存命した状態で救助された彼女はいつもどこか達観したような表情で、だけれど、幸せそうに笑っているのだ。


------

(ソル視点)

 寒い・・・、ソルの体は冷え切っている。

 何か温かい物が欲しい、誰かに温めて欲しい。

 そう思っても、自分から手を伸ばすのは怖かった。

 ソルは知っている。

 自分を守ってくれていた人たちが誰に裏切られたかを・・・。

 自分を守ってくれた人がどんな最後を迎えたかを・・・。


 ぶるり・・・

 寒さを感じて目を覚ますと、そこは今となっては慣れ親しんだソニアおねえちゃんの部屋。

 ベッドはふかふかで、ここにくるまでこんなに柔らかい敷物があるなんてソルは知らなかった。

「ソニアおねえちゃん・・・?」

 呼びながら周りを確かめるけれど、おねえちゃんは近くにいない、でもまだそのぬくもりはソルの隣に残っている。

 体を起こしながら、さらに周りを確かめるけれど・・・、部屋の中にソニアおねえちゃんの姿は見えなかった。

 怖い・・寒い・・・

 ガチガチガチ・・・

 今は夏のはずなのに、寒さで凍えて歯ががちがちと鳴る。

「・・・はぁ、ぁ、おねえちゃ・・・おねえちゃん?」

 視界がぼやける。


 涙で視界が失われれば、後はもう言葉を放つこともできず、ただその場ですすり泣くくらいしかできなくなる。

「う~ぅ、~っ」

 怖い怖い怖い怖い怖い寂しい怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い寒い怖い怖い・・・

 ソルには何もできない。

 居なくなるならそれを受け入れるしかない。

 でも、それは、それは怖い。


 寒さと怖さしか感じられなくなった頃、部屋の扉が静かに開かれる気配。

 恐怖と戦いながらそちらをそっと確認すると、そこには求めて止まないおねえちゃんの姿。

「おねえっ・・・・ちゃん!」

 時間はたぶん深夜だというのに、ソルは大きな声を上げて、ベッドから飛び降り、ソニアおねえちゃんに抱きつく。

「おわ!?ぁぁあソル起きちゃったかぁ・・・ごめんねーおねえちゃんおしっこいってたんだよ?」

 そういってソニアおねえちゃんはソルを抱きしめてからさらに抱き上げる。

 魔力強化を使っているのが触れ合った皮膚を通して伝わってくる。

 申し訳ないと思う、ソルなんかをなだめる為に、こんな時間に魔法まで使わせて・・・。

 ソニアおねえちゃんの体温を分けてもらって、ようやくソルは少し自分を取り戻す。


「ご、め・・・・さい・・・ごめ、なさい」

「んー、いいよいいよ、一人にしたお姉ちゃんが悪いんだから・・・。」

 そういっておねえちゃんは一度弾みをつけて、ソルの体を持ち上げなおし、片方の腕が背中に、もう片方の掌がしがみついたソルのお尻の下に当てられる。

 そしておねえちゃんの少し残念そうな声。

「あー、やっちゃったかぁ・・・。」

 いいながらおねえちゃんは、だけどもやさしくソルの体を抱きしめる。

「ごめんねーおねえちゃんが一人でおトイレいっちゃったからだねぇ・・・一緒にお風呂行こうか。それで今日はソルのお部屋でねよう。明日は水練大会だもん、ソルはクラス代表だもんね」

 きっといま、おねえちゃんの手はソルのせいで汚れてしまっているけれど、そのことを気にした様子もなくおねえちゃんはソルを運び出し始める。


 それからおねえちゃんは何事もなかったみたいにソルをお風呂まで連れていって、ソルは泣きじゃくったままでその胸に顔をおしつけて、ソルはメイドなのに、担当としてつけられたソニアおねえちゃんにお世話され、抱きしめられ、満たされて眠りについた。


 翌朝

「夕べは申し訳ございませんでした。ソニア様」

 メイド用軍官学校制服に着替えたソルは、ソニア様の身支度をお手伝いしながら謝罪する。

 完全に覚醒したソルは周囲の噂になっている通りに、年不相応に確りとメイド働きをするアイラ様のお付の一人として、相応し立ち振る舞いを見せながら、しかし夕べの失態を詫びた。

 夕べのソルの失態はメイドとしてどころか、10歳の少女としても明らかな失態であったが、謝罪するべき相手は寝ぼけ眼のままで手招きし

「もーうそんな、気にしないの、私のほうがお姉ちゃんなんだから、妹のお世話くらいするよ?それにまだここは私とソルしかいないんだから、なんて呼ぶんだっけ・・・?」

 と、柔和な笑顔を浮かべた。

「っ・・・!?」

 ソルにもプライドがある。

 それはソルを拾ってくれた主人であるアイラ様への忠誠であり、それはメイドとしての立ち振る舞いで顕されるものだ。


「ソルー?」

 しかしなおも寝ぼけてふにゃふにゃとした笑顔で名前を呼ぶ、姉と慕う少女の前ではそんなプライドは簡単に剥ぎ取られてしまう。

「おねえ・・ちゃん・・・。」

「そーだよーソルー。」

「へゃ!?」

 そういっておねえちゃんは、ソルの腕を引っ張り抱きしめた。

 ソルは愛されているハズだ。

 幸せに生きているハズだ。

 おかあさん・・・・・望んだ・・・とおりに・・・。


---

 自分がソルであることを認識したのはいつからだったろうか?

 そもそも自分が何者であったのかを、最初から覚えていない。

 ただ自分がかつてはソルではなかったのではないかと疑いを持つ様になったのは2歳の頃のことだ

 はじめは気持ちが悪かった。

 自分は間違いなくソルであるのに、自分はソルではないという自意識と知性が、普通の物心がつくよりも早い時期に急速に目覚めた。

 しかしソルのことを愛してくれている父と、前妻の子であるのに持てる愛情のすべてを注いでくれる継母とに申し訳なくて、いつしかソルとしての人生を演じることを覚えた。


 幸いにして言葉はすぐに覚えたし、常識も身についていたので、年齢の割りにお行儀の良い子だと、父も母も喜んでくれた。

 そうしてソルとしての自分を演じていなければおかしくなりそうだった自分は、かつての自分という自意識を持ったままで、ソルという少女の人生を歩んできたのだ。

 しかしながら、このソルという少女の人生はあまりにも惨いものだった。


 産みの母はソルを産んだ3日後に死亡した。

 さすがにその頃のことを覚えているわけではない、ただサマンサおかあさんと父が結婚する少し前に、後に父を殺す村人が言っていたのだ。

「お前の母はお前を産んだせいで死んだ。そのためにサマンサがお前の父を慰めるうちに、同情して結婚することになったのだ。お前のせいだ。」と、そういってその男はまだ5歳になる前だったソルのことを殴り、ソルは頭と背中を打って意識を喪った。

 サマンサおかあさんが見つけてくれなければそのまま死んでいただろう。

 散歩中に転んで怪我をしたことにされたけれど、ソルは男の拳の硬さを覚えている。


 ソルは知っている。

 その男が、サマンサおかあさんのことを好きだったことを、父がいなければサマンサおかあさんは自分のものであったと信じていたことを知っている。

 男が本当は最初から父を狙って矢を放ったことを知っている。

 でもそれを伝えることはできなかった。

 あの時すでにおかあさんの村は、若く美しいおかあさんを誰かに宛がおうとしていた。

 そのためにはソルが邪魔で、ソルがその男を弾劾すればきっとこれ幸いと、虚言癖のある娘として最悪殺されていただろう。

 でもおかあさんは、生まれ育った故郷を捨ててまで、ソルを生かしてくれた。

 あの村にいてはソルは幸せになれないからと、ソルをつれて父の故郷の村まで歩いた。


 大人の足で2日の道のりだった。

 まだ5歳ちょっとのソルを連れていたから5日かかった。

 足取りをつかまれることを嫌って、早朝に家を出て、初日は北隣の村へ向かってそこで2時間ほど休憩した後、さらに北側の出入り口から出て、大きく迂回して南西に向かった。

 ソルはまだ幼い子どもだったから、年相応に振舞うことにした。

 食べ物をねだったり、疲れたとごねたりしたけれど、困った顔をするおかあさんに申し訳なかった。


 それから父の故郷に着いた時にはおかあさんもソルもへとへとだったけれど、村の名前を尋ねて、父の故郷だと確認できて、おかあさんはソルのことを抱きしめた。

 その時のおかあさんの声が今でもソルの耳に残っているほど感極まった物で、ソルは幸せに生きなければならないのだと再認識した。


 しかし、父の故郷についてもおかあさんの苦難は終わらなかった。

 村長は何度もおかあさんを疑う様なことをいい続けて、それでも最後には離れの様に使っている小さな小屋をソルとおかあさんに用意した。

 そこは隙間風が吹くし、寝室にドアがあるだけで玄関や窓は何もはまっていない家とも呼べないものだった。

 それでもソルを育てられるからと、おかあさんは次の日から一生懸命村の仕事を手伝っていた。

 おかあさんは土魔法が少しだけ使えたので、何日もかけて家の壁を補強して、お風呂場も作った。

 アイロンバーと結露の柄杓は村長さんが融通してくれた。

 代わりにソルは将来村長の孫の嫁になる様にいわれたけれど


 でも半年ほど過ぎたところからだろうか?

 父の兄だという男が、ときどきうちにやってくる様になった。

 そして彼がやってくると決まって母はソルに、外で遊んできなさいといってソルを外にやるのだ。

 それで家に帰るといつも母は疲れた顔をして、その日の夜はぶつぶつと何かをつぶやきながら念入りに体を洗っていた。

 ソルが普通の子どもなら気にしなかっただろうし、気付かなかっただろうけれど・・・おかあさんは聖母様への祈りと、結婚式で唱える誓いの言葉を繰り返していた。


 それがソルのためだと思うと、ソルがかわいそうに思えた。

 大好きなおかあさんが、自分を殺し続けなければソルは幸せになれない少女だった。

 ソルがいることで、大好きな人たちが不幸になっているのだ・・・と、いつか父を殺した男に言われた言葉が頭の中に反響して、自分はソルのことをもっとお利口な子にしなくてはならないと考えた。


 それからソルは見違えた様にお利口さんになった。

 もとより、年齢の割りに礼儀正しいといわれていたのが、村一番のと呼ばれる様になるまで時間はかからなかった。

 おかあさんをいびっていたソルの伯母さんも、いつしかソルにお義母さんと呼んでいいのよ、なんて気持ちの悪い笑顔で話しかけてくる様になった。

 でもソルは知っている。

 この伯母さんは本当はソルのお父さんと結婚したかったんだって・・・。

 でも聖母の教えにある「真実の愛」よりも未来の村長夫人としての安定した生活を選んだ人なんだ。

 それを自分の夫のせいにして・・・

 だからソルを娘にすることで、間接的にソルから父と同列に呼ばれたかったのだとソルにはわかっていたさ。


 一応許婚であった5つ上のイトコのグレイもほかの村の男の子たちに、これは俺のだからな?と自慢げに吹聴する様になった。

 まだ6歳だったソルの体を触ったり、逆にグレイの体を触る様に強要されたりもした。

 イヤだったけれど、わからないフリをして触らせてやったし、触ってやった。

 たまには爪を立てたりしてやった。


 しかし、サマンサおかあさんに対する陰湿な扱いは変わることなく。

 押し付けられる仕事の量が増えているのに、日中から伯父さんが入り浸る頻度も増え、仕事が進まず伯母さんに詰られ、ますますおかあさんはやつれていった。

 さらに何を感じたのか、やつれた母を見て伯父のなにが刺激されたのか、さらに母への懸想は強くなっていた。

 そしてソルが7歳になったあとあの忌まわしい事件が起きる。


 ある朝おかあさんは伯母さんに薬草を取ってくる様に言われた。

 薬草の採取は割りと良くある仕事で、治癒術士のいない村では大切な生命線だった。

 おかあさんはソルも連れて行くと申し出、伯母もそれを許した。

 おかあさんはその日を最後に父の故郷の村も捨てることを決意していた。

 あの村にいてもソルは幸せになれないから、そういっておかあさんはソルの頭を撫でて・・・

 追いつかれないために3時間ほど歩いた後、街道沿いの木陰で休んでいるとき、あの悪魔が声をかけてきたのだ。


---

 次に気がついた時には、おかあさんはすでに死んでいた。

 ソルは生き残った。

 ソルが幸せそうに笑ってくれるのがおかあさんの幸せだと言い遺したおかあさんの言葉だけがその後も自分がソルを生かしておく原動力となった。

 ソルは幸せに笑っていないといけない、その幸せがたとえ他人から与えられたものであっても、おかあさんのために笑っていないといけない。

 そういう強迫観念が自分にはあった。

 だから自分はソルを笑わせた。

 母を踏みにじって尚自分は生き様とする薄情な娘と映っただろうか?

 天涯孤独となったのに嗤っている不気味な娘だと映っただろうか?


 私を拾ってくれた姫様は、まるで彼女が世界の中心である様な娘だと最初は思った。

 ソルだって村では飛びきりの美少女で通っていたのだ。

 容姿はそれなりに整っていると自負があったけれど・・・

 モノが違うとはよく言ったものだ。

 アイラ様はソルと同い年の姫君で、その容姿はまるで春の日の朝陽の様に輝いて見えた。

 金糸の様な髪はよく手入れされていて指通りがよくて、しみひとつない肌とはあぁ言うものをいうのだろう、メイドとして何度も更衣をお手伝いして、その都度肌の肌理細やかさに思わず惚れ惚れとした。

 きっとあの髪も肌も舐めれば蜂蜜の様に甘いに違いないと思う。

 ソルよりも幼げなのに、ソルよりも大人びていて、すでにご自身で身を守る術も、日々の生活の糧を得る手段もお持ちで、お姫様なのに世話をされなくても本当は何でもできる方。

 それもそのはず、5歳の頃まで農村で暮らしていらっしゃって、しかもその頃からすでにずいぶんとしっかりとされていたらしい。

 その類まれな容姿と才能でホーリーウッド家のご嫡孫であらせられるユークリッド様に見初められて婚約者となり、その後その才覚を見出されてヴェルガ殿下の養子となられた。

 それも正室であらせられるフローリアン様との養子としてだ。


 それによってアイラ様はほかの側室の御子であるグレゴリオ殿下、エミリー姫殿下、オルガリオ殿下よりも上のお立場となった。

 お三方は準王族扱いで、アイラ様は王族扱いなのだ。

 まさに世界の中心ヒロインの様な女の子だ。

 しかし、前述の通り彼女は決して最初から世界の中心であったわけではなくて、彼女自身がその才能と持って生まれた美貌を自分でも磨いてきたからこその今がある。


 そして周りの先輩メイドたちを見てソルは大丈夫だろうかと不安になった。

 みんな村で言う飛び切りの美人の枠を大きく逸脱していたのだ。

 出会った頃アイラ様の城での専属は当時3名、カグラ様とエレノア先輩、エイラ先輩。

 カグラ様は少しよくわからないのだけれど、アイラ様のとても大事な女友達で、時々恋人の様に手をつないで何かを語らっていらっしゃる。

 その容姿はあまり見たことの無いタイプでソルより4つ年上なのにその笑顔や、顔立ちは幼く見える。

 しかしその心の有り様はまるで、おかあさんみたいに落ち着いたもので、ソルの子どもの部分がお母さんを求めてしまいそうだった。


 彼女だけではない、エレノア先輩は身長は出会った時から今までほとんど変わっていない様に思われる。

 しかしその圧倒的な存在感を放つ胸は今も成長を続けており、何かを蓄え続けている。

 お城で、メイド修行をしていた頃に、着替えの手伝いの練習や、その他の修行に何度もお付き合いいただいたけれど、何度も失敗するソルのことを、一度も強く叱ることもなく、何で失敗したのか、何がいけなかったのかをソル自身に考える様にさせてくれた。

 すごくやさしい先輩でそれなのに強い先輩でもあって、今では身長だけならもうほとんど大差なくなったけれど、それ以外は何一つ勝てないかわいい先輩だ。

 すごく強い方なのに声が儚げなのがまたグッとくる。


 エイラ先輩はソルのひとつ年上の先輩で、もともとお城のメイドさんの娘らしい。

 肌は白く、透き通る様、いつも淡々とお仕事をされるけれど、アイラ様からの信頼は幼馴染でもあるらしいエレノア先輩に次ぐほどで、アイラ様のなさっている兵器開発事業などもお手伝いされている。

 まだ各事業がアイラ様の主導であることが隠匿されていた時期にもすでにお手伝いをされていたとかで、その信頼度の高さが透けて見える。

 その立ち振る舞いと容姿の繊細さから少し潔癖な方かと思っていたけれど、実は意外とお茶目な面があって、わかりにくいけれど淡々とボケていらっしゃる時もある。

 アイラ様の周りのメイドは容姿や人柄も完璧に近いものが求められるのだとソルは焦った。


 だから自分はソルを完璧に近づけるために努力した。

 おかあさんの死に潰れるわけにはいかなかった。

 自分はソルに幸せな生活を送らせなければならない、そうでなければあのやさしい父と母とに顔向けできない。

 そう思ってがんばってきた。

 でもソルには傷がある。

 いつか父を殺した男につけられた小さな傷が背中にある。

 その瑕疵はアイラ様の目にはどう映るだろうかと、最初の頃におびえてしまって、アイラ様たちの入浴手伝いを拒否してしまい、それでアイラ様は「いやなこともあるよね、いやなお仕事はしなくて大丈夫だから・・・あぁでも何でもかんでもしたくない、はだめだからね?」と人差し指を立てながら笑って許してくださった。


 体の前側、顔や胸、お腹や股座ばかり触っていたグレイは気付かなかった小さな傷だけれど、完璧に近い美しさやかわいさのメイドたちで目が肥えているアイラ様なら気付いてしまわれるだろうと不安になってしまったけれど、今思えばアイラ様に対してとても不敬な話だった。

 アイラ様の周りにいるメイドたちがきれいなのは、それぞれが仕える主人に恥じぬ自分であるための努力をしているからで、もって生まれたものではなかった。

 そしてアイラ様はメイドの背中に傷があるくらいで、扱いを変える様な方ではないと、今では理解している。


 ただそれでもまだなんとなく恐怖があった。

 ソルが、アイラ様のことを愛してしまえば、そしてアイラ様から愛されてしまえば、また何か悪いことがあるんじゃないか・・・?

 だからソルはアイラ様に対しては少しだけ距離を保とうとおもった。



 そして、ソニア様にメイドをつけることになったとき、ソルはソニア様につくことに立候補した。

 ソニア様はかわいい方だった。

 ソルよりは2つ年上のはずだけれど自分という意思が考え動かしているソルと、ただの子どもであるソニア様とでは明確な効率差があり、ソニア様はこういっては申し訳ないが、無駄が多く、でも元気で、だからこそ子どもらしい魅力にあふれた方だった。

 何よりも、少しだけ、本当に少しだけだけれど、おかあさんに似ていた。


 ソニア様にはソルと同じ名前の弟がいるらしくて、それはもう妄信的にソルのことをかわいがってくださった。

 自分はその愛情に甘えることが少しだけ恐かったけれど、ソルが幸せを感じていたので受け入れることにした。

 ソルはいつも幸せに笑っていないといけないのだから。


 ソニア様の愛情を受け入れたソルはとても自然に笑う様になった。

 自分が笑わせる必要なんてない、ソニア様になでていただくだけで、ソルと名前を呼んでいただくだけで、ソルは笑顔になれるのだ。

 そうして幸せを自然に感じられる様になったソルはアイラ様やほかの皆様との会話の中でも自分が取り繕うことなく自然に振舞うことができる様になっていった。

 アイラ様たちのことを愛してしまった。


 そして先月、サークラ様のご結婚という慶事にソルもわが身のことの様に幸せを感じたものだけれどそれが不幸を呼び寄せてしまったのか、サークラ様やアニス様、ウェリントン男爵夫妻の行方不明、こちらはすぐ解決したと思えば、アイラ様たちが戦地に赴かれてソルはお留守番・・・。

 自分は恐かった。

 もしも・・・もしもアイラ様の身に何かあったら・・・。

 ソルは今度こそ一人になってしまうのではないか?

 そう思ってしまった瞬間、ソルは自分の制御できるものではなくなった。


 アイラ様が帰ってくるまで、ソルは毎日アイラ様を求めて屋敷の中を歩き回った。

 学校にいても、クラスの中にアイラ様が戻っていらっしゃっていないかと、授業に集中もできずにキョロキョロとしていた。

 夜一人で眠ることができなくなった。

 これまでもソニア様に請われて、閨をともにすることはあったけれど、それはメイドとして、仮にとはいえ仕えているソニア様のご意向に沿うためだった。


 それが、アイラ様がいらっしゃらない間は、孤独を、恐怖を、悲しみを埋めるためにソニア様のぬくもりを自ら求めた。

 自分の制御を離れたソルは年相応の子どもらしい感情を吐露して、ソニア様に甘えて、抱きすくめられて、姉と呼ぶ様になった。

 アイラ様が帰ってくればきっと元のソルになると思っていたけれど、寝ているときにソニア様がいないだけであの体たらくだ。

 これではとてもメイドとしての矜持なんてものを語ることはできない。


 ソルが泣きそうになるたび、崩れそうになるたび、かつての様に制御を試みるけれど、どうにもならなかった。

 ソルは幸せに笑っていないといけないのに、どうしてこんなにも不安定になってしまったのか。

 幸せなはずなのに、恵まれているはずなのに、すごく不安になる。

 その不安が自分の不安なのかソルの不安なのかわからなくなる。

 それを、自分が御することのできない不安、孤独感、寒さ、痛さ、それらを和らげてくれるのが、ソニアおねえちゃんとマーガレットおねえちゃんの存在だった。

 ソルが、自分の制御を離れた時に、どうしようもなく求めてしまう人肌のぬくもりを、二人は与えてくれた。


 安心感があった。


 でも、マーガレット先輩はあと1年半もたたずに卒業してしまう。

 ソニア様も仮の主人で、学校を卒業すればまた離れてしまう。

 そのときまでに自分はソルの制御を取り戻していないといけない。

 離れてしまえばソルはきっと一人では笑えないだろう。

 幸せに笑うソルを演じなければならない。

 そのためにもっとソルに自信を持たせようと思っていた。

 それで、アイラ様のいない時にクラスの水練大会の代表に名乗りを上げた。

 幸い成績はよかったので、無事代表の一人になって、明日がその本番、戻ってこられたアイラ様から秘策も授けられ、最終泳者という栄誉も得た。

 それで少しは自信もついたつもりだったのに、夕べ、一緒に眠ったはずのソニアおねえちゃんがいなかっただけで取り乱して、失禁までして、それでもソニアおねえちゃんは受け入れてくれて・・・。

 情けない・・・。


 自分を取り戻さなくては、そのためにもまずはソルと自分に自信をつけよう。

 今日の大会でいい成績を残して、それでうんと誉めていただくのだ。

 大好きなソニア様と、マーガレット先輩と尊敬するアイラ様とに・・・。


ソルの一人語です。

ソルは登場人物の中でリリーや旧作リエッタと同程度の不幸娘なので、心の中がぐちゃぐちゃしています。

人の呼び方が安定していなかったり、心の中のテンションが乱高下したりしていますが、外見上は人当たりがよく人懐っこい子メイドとなっています。

ちょっと3日で間に合わないので分けます。


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