表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/220

第6話:変わる未来図


 アニスが生まれてきて3ヶ月ほど経った。

 この世界の一ヶ月は36日なのでもう100日を超えたということだ。


 朝起きるとアイリスのことは寝かせたままでアニスの様子を見に行くのが日課になったのは前世と同様だ。

 アニスは日によって朝から起きてたり寝てたりするけれど、起きていたらボーナスタイム、朝からかわいい妹とのお遊び。

 眠っていたら残念ながらちょっと顔を見てから部屋に戻る。


 前世ではこの年頃には魔法が使えなかったので、アニスが泣きかけていたらベビーベッドの外からあやすしかなかったけれど、今のボクはすでに大半の魔法を使いこなせることが判明しているためベッドの中に入って筋力強化で抱きあげてあやしてやることも容易かった。


 首が座るまではうっかりが怖くて遠慮していたが、赤ちゃんをかわいがるというのは、母性本能が非常に刺激される。

 アニスを抱いていると、早くボクも赤ちゃんが欲しいと思ってしまう。

(まだユーリに出会えてすらいないというのに・・・。)

 前世で抱いた子どもたちの感触がボクの腕の中に残っていて、それがボクを駆り立てるんだ。


---


 アニスが生まれたあとはじめての秋になった。

 一年通して最も忙しいメインの収穫の時期が始まり、うちの両親も忙しく動き回っている。

 収穫の時期になるとどうしても動物の猪や鹿なんかが村の外側の柵を壊して、十分に実った畑を荒らすことがあるので、罠の設置や柵の補強で忙しいらしい。


 そもそも秋ならば森の中に十分な食料があるのでは?と考えなくも無いが、野生になっているものよりも村にある穀物の方が味がいいので、一度味を覚えた動物が頻繁にやって来るそうだ。



 この頃少しずつ、今の生活に違和感が出てきた。

 まずはサルボウとキスカのこと。

 前世では教会の学習室にいる間に結婚をしたが、今のところそんな様子がない


 キスカはまだ今もトーティスに恋心を抱いており、サルボウは何とか振り向いてもらおうとアプローチを繰り返している。


 それからアンナとトーティスのことだが、前世ではまったくトーティスの気持ちに気づくことの無かったアンナがトーティスの気持ちに気づいたらしく意識しているのだ。

 少し前に狩りの成果の鳥肉を教会に暮らすアンナとマディソン神父にお裾分けに来たトーティスと顔を赤らめながら話していたのは、何がきっかけになったかはわからないにしても、男として意識しているところだと遠目にもわかりやすかった。


 それから注意深く二人の接触を見守り、時には無邪気に甘える童女の様に(4歳前なので童女そのものだが)二人のいちゃついているところに割って入ってみたが、どうもすでに相思相愛の様だった。

(前世のアンナの結婚相手の)マチスさんドンマイ・・・

(あれ、そういえばここでアンナがトーティスとくっついちゃうと、アンナの養女になるはずだったリウィはどうなるんだろう?っていうか今あのナントカ男爵を捕まえられたら、リウィのお母さんも助かるんじゃ・・・?)


 自分の幸せのために自重しないと決めたは決めたけれど、今の自分にホーリーウッドまで行く手段もなく(飛行魔法でいけないことも無いけれど行方不明になるのはマズイ)

 まさか急に夢を見たとかいってあの男爵を弾劾する様なことをここで言っても、何の効果もないだろうし・・・。


 リウィの母であるカンナさんが殺害されるまではまだ日付もあるはずなので、それまでに何かタイミングがあれば行動をすることにして一旦棚上げすることにした。


 さらにもう一つの違和感、前世では5歳から始まるはずだった父と兄に混ざっての剣術の練習がなぜかまだ3歳のうちから始まってしまった。

 前世と違って、まだ兄の足裁きに文句なんてつけていないし、アイリスがまねしちゃいけないと思ってちゃんばらごっこなんてやってない、それなのにどういうわけかある日父と兄の練習を眺めていると父が

「アイラ、ちょっとこの棒をもって振ってみてくれないか?」

 と30cmくらいの棒を渡しながらリクエストしてきた。


 それで適当に振って見せると父は満足げに何度かうんうんと頷いて、翌日にはボク用に木剣が用意されていて一日100本の素振りをトーレスと一緒の時にしておく様に言われた。

 別に素振りの100本くらい苦ではなかったので、ボクはこの時父の言葉にあまり疑問を持つことなくこの課せられた課題をこなす様になる。


---

(エドガー視点)


 アイラが魔法をコントロールできているらしい、それをハンナから聞いた時何を言っているんだ?

 と、耳を疑った。


 魔法というのは普通はちゃんと扱い方を習って覚えるもので、魔法使いのいないこの村では知識だけはあるだろうマディソン神父が教えていない限りは無理な話だ。

(あとは命の危険を感じる様な事故や魔物に襲われたというのならありえない話でもないが・・・)


 村の中から出したことが無い上、大きな怪我もしたことのない3歳の娘が命の危険を感じたことなどあるはずもないし、これも検討違いだろう・・・。


(だけどもし・・・本当だったら?)


 魔法のコントロールができているとしたらそれは、すでに魔力の向きを理解するだけの知性と、魔法を使いこなせるほどのバランス感覚を身につけているということで、それができるということはあの子は3歳ですでにこの村の中で俺とテオロと・・・まぁ20人くらいか、ちゃんと戦ったことのある人間より強いということだ。


(ちょっと試してみるか・・・・。)


 本当ならまだ3歳のかわいい盛りの娘に棒きれなんて持たせて怪我でもしたら・・・よそ様の子に怪我でもさせたら・・・と思わないでもなかったが、農作業を終えたあと夕方いつもの様にトーレスに剣の稽古をつけている最中、横で見ていたアイラに、日中のうちに表面のとげだけ取った棒を渡して振ってみる様に言ってみた。


 まぁ目の前でトーレスが素振りをしているのだから当然といえば当然かもしれないが、アイラは素振りをした。

 その際に足や腕の動きを見たが、ちゃんと体重の移動がされていて、ただまねして振っただけとはいえないだけのバランスをちゃんと取れていたのだ。


 これはしっかり教えてやらないといけないと思った。

 今はまだ3歳で、無理な訓練は禁物だが、毎日これだけしっかりバランスの取れた素振りをしているだけでも将来の剣の足しになるだろう。


 アイラとアイリスは髪こそ俺の色に似たが、ハンナに似て美人だ。

 サークラと同等の美少女に成長するだろう。

 しかしいかんせんここウェリントンは僻地だ。

 あの子たちの幸せな嫁入り相手を探すには物件が不足している。

 しかも普通男の子のほうがたくさん生まれるものなのに、このウェリントンでは現在女の子のほうがあふれている状態だ。


 そこにきてこの子の剣の才能は、将来軍官学校に入れて育ててもらうだけのモノになるかもしれない、あそこに才能持ちとして入ることができればこの子の器量であればきっとよい嫁入り先が決まるだろう。

 才能の程度によってはあるいは兄に紹介するのも手だろう。


(これでもし、ハンナの言うとおり魔法の才能まであったとしたら・・・。)

 っと頭の良さと、理性の高さも測っておこう。


-----


 翌日何とか小さいアイラのサイズに整えた木剣を用意してアイラに少し強めに指示を出した

「アイラ、いいかい?これから毎日、トーレスと一緒にいる時に100回その棒振りをするんだ。父さんとの約束な?」

 そういって木剣を渡して2週間経ったあと、その間一度も俺からもトーレスからもアイラに素振りをする様には言わなかったが、アイラは毎日きっちり無言で100本の素振りをしているとトーレスから報告を受けた。


(3歳の子どもが2週間一度も忘れずに、しかも100というそれなりに理解するのに知性が必要な回数をきっちり・・・・)

 別に数えるだけならサークラも同じ年頃に数字を読み上げることはできた・・・しかしアイラは1回1回振りながら言葉に出すことなく数字を頭の中で数えて、しかも遊びたい盛りのはずの3歳が飽きもせず毎日・・・

(こりゃ相当賢いかもしれないな・・・。)


 わが子の才能の片鱗に戦慄すら覚えつつ、収穫がすべて終わったら本格的に見てやろうと心に決めたのだ


---


 別の日、アイリスのほうも見ておこうと考えてトーレスが素振りしている横でアイリスに声をかけた。

 なおアイラは夕飯の支度中のハンナとサークラに代わりアニスに絵本を読み聞かせてくれているところらしい、どれだけお利口さんなのか・・・。


「よーし、アイリスちょっとこの棒を振ってみてくれないか?」

 アイラに振ったときとたぶん同じ様な言葉だったと思うが、アイリスは棒を受け取ると


「え?なになに!?振ったらいいの?」

 といって目を瞑ってぶんぶんと上下に振り、斜めに振りと無軌道に振り回した。

 っと危な!

 ちょっと鼻先をかすめそうになった。


「よーしアイリスもーいーぞー」

 というと2回くらい多めに振ったあととまったアイリスは目をぱちくりとしながらこちらのほうをみる。


「で、なにかな!?」

 と目をキラキラさせて・・・・。

 念のために用意しておいてよかった。


「よーし、じゃあかわいかったからこれをあげよう。」

 と、昼に森で採取していた栗を収穫後の畑の枯れ草で焼いていたものを4つ渡すと

「わ!クリちゃんだ!アーちゃんにもあげよー」

 といって棒は投げ捨ててさっさと家の中に入っていってしまった。


(目の色と目つき以外そっくりなのに、ぜんぜん違うな・・・なんでだ?)

 かわいい娘の背中を見送って、双子のあまりの違いにため息をついたあと・・・。

 お夕飯前にアイリスに食べ物をあげないで!とアイラとサークラとハンナに順に怒られてしまった。


 子どもは数字を数えるのはある程度早くからできますが(私も3歳半ばの頃に初めてのお使いに行くまでにいくつ数えられるか、なんていうセルフときそばプレイをしてお魚を3桁中盤で買おうとしてしまいました、お店の方の機転で家族の人数を聞かれて正しい数+1で購入できましたが)順序は正しく言えても、それと物の数や回数を結びつけられなかったり、数字を読み間違えたりしてしまいますね。

 その点アイラは、一度ならず二度までも幼女でやり直しているので頭の中で数をしっかり数えられますので、エドガーお父さんはびっくりしたようです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ