第97.9話:お姉ちゃんと背中
夕べ投稿していたつもりでしたが、していなかったみたいです、不定期投稿(できれば3日以内)の掟をまた破ってしまいました。
「はぁ・・・、うぅ・・・・」
白と薄紅色を基調にして彩られた広めの部屋の中で一人の見目麗しい若い女性が深深とため息をはいている。
ここは新婚夫婦の寝室だというのに・・・。
それも一度や二度ではない、先ほどからなにやら物思いに耽った様に浮かない表情を浮かべて何かを考え込んでは長く、短くため息を吐く。
「サークラ様、そんなにため息ばかり吐かれては、いつまでも気持ちが上向きませんよ?侯爵家の正妻となられた御重圧を思えば、お気持ち察するに余りありますが・・・」
私がお仕えすることになった主人サークラ・ウェリントン・フォン・オケアノス侯爵代理夫人。
王国民の常識で言えばありえないほどに整った容姿、そのお姿を間近で拝見できるだけでも、オケアノス家のメイドとなっていた価値はあると思える。
同じ女である私の身からしても、サークラ様の容姿は見惚れるほどのもので、国王陛下から公表されたオケアノス家がその家を繋ぐ条件として、サークラ様とジョージ様との間に子どもが生まれ、その子が国王陛下の確認のもと侯爵家を継ぐ資格を有していることを認めた場合だということも相まって、かつては好色で名を馳せた陛下の御落胤なのではないかと不敬罪待ったなしの噂が立ってしまうほどだった。
「ちがうのよエイリーン、私がため息をついているの未来のオケアノス侯爵の母としての責務を思ってのことじゃあないわ、その辺りのことは大体お城の教育で覚悟を決めてきたから・・・」
そういうと物憂げな表情で私のほうへと視線を向ける。
その目元を飾る睫は長い、長いけれど、異常に長いとか、巻いてるとかではなくって、長いと感じるけれどまったく人の造詣として違和感のない長さ。
その厚みのある唇も、整った鼻筋も、透き通る様な声も、すべてが聖母に愛されている。
一つ一つの部位が、すべてが最優とは言い難い造詣で無論どの部分で見ても整っていて美しい方なのだけれど、各部位単体で見る分にはきっともっと美しい人はいるのだろうと思う。
その肌は白磁の様にと例えるには血色が良いし、髪も絹糸の様なと形容するにはしっかりとした芯があり、梳るのも楽な上に見た目も流れる様な美しさがある。
指先は細く長いものの、握るだけで折れそうなものではなく、健康的な肉付きがあり。
湯浴みの時に拝見したお腹も腰もスッキリとしているのに、胸はとても豊かで、でも邪魔になったりするほどではない。
肌のケアやマッサージのためにその頬も、背中もお尻も脚もすべてを揉みしだいたけれど、その張りと吸い付きは、極上のものであった。
すべてにおいて調和が取れている。
言うなれば最優の美ではなく最良の美。
このご主人様の美しさというのは、まるで神話の聖母様か処女王様に見られる様な、見るだけで涙が流れる様な神聖性を体言している様に美しいのだ。
たとえば顔の部位がすべて最優のものであれば、きっとお互いの美しさが殺し合い、美人だと思っても、印象には残らなくなってしまうと思う。
しかしこのサークラ様の美しさはおそらく一度間近で見れば生涯忘れ得ない美しさを持っている。
一つ一つの部位は主張し過ぎず、なおかつ全体で究極的な、ヒトが到達しうる美しさの頂点の1つを私に教えてくれた。
その中にはサークラ様の生き様というのか、心のあり方まで浮いている様に見えて、私がお仕えするご主人様という以上の感情をサークラ様に持つまでには10分とかからなかった。
「・・・聞いているの?エイリーン。」
ハっとする。
またサークラ様の美しさに見惚れてしまった。
えっと確かオケアノスの妻としての、未来の侯爵の母とならねばならないという重圧よりも、妹たちに会えないことのほうがお寂しいと・・・。
「私めは末っ娘なのでよくわからないのですが、やはりご実家に弟妹を残されて離れられるというのは、お寂しいものですか?うちの二人の姉も結婚前はよく寂しがっておりました。」
私の姉、エイティアとエイルーン、二人も結婚前や結婚直後は、まだ幼い私を抱き枕にして「(ルンちゃん)リンちゃんと離れたくないよぅ・・・」と泣いていたけれど、私は結構淡白に見送った記憶がある。
15以上離れた2人の姉よりも6つしか離れていない従姉のリルお姉ちゃんのほうがよっぽど、お姉ちゃんって感じだったし・・・。
「うん、すっごくさみしい。まだ結婚して1ヶ月も経っていないのに・・・その上つい3日前までアイラもアニスもオケアノス市に来てくれていたのにね、私だめなおねえちゃんだ。」
振り向いたサークラ様の少し潤んだ目と困ったみたいに笑う顔にグッとくる。
同時にこのまま落ち込ませるのは良くないと、自分の役目を思い出す。
私は、毎日ジョージ様がいらっしゃるまでサークラ様の身の回りのお世話をして、なるべくリラックスしてお過ごしいただいて、お世継ぎ作りに支障がない様心穏やかな生活をお助けするために存在するお傍仕えなのだ。
なんとか励まして差し上げなければ・・・、サークラ様は家族、中でも妹君様を大事に思っていらっしゃると、リルお姉ちゃんが言ってたよね。
確かオケアノスでの結婚式にも参列していらっしゃった・・・。
「いいえ、サークラ様はご立派ですよ。扱いの難しい年頃の妹君様方があんなにも立派に振る舞いができるのもきっと、サークラ様の、姉としてのお背中をしっかりとお見せになってきたからだと思います。現にアイラ様もアニス様もきれいに着飾ったサークラ様のこと、とてもキラキラした目で見ていらっしゃいましたし。」
そう、あの二人の可愛らしい妹君たちは、9歳と6歳というまだ幼少と呼んでよい年齢でありながら王室の養女姫殿下と男爵家の四女にふさわしい振る舞いを見せていた。
同じ年頃の私はもっとこう、なんていうかお転婆で、いつも母さんや、すでに結婚して家を出ていた姉たちにすらよく怒られていた。
さすがは男爵家令嬢、生まれと育ちの違いかとも思ったけれど、なんとサークラ様はほんの数年前までは農民で、一家全員開拓村に暮らしていたらしい。
どうやったら僻地の農民が王室の養女になれるのか後学のために是非伺っておきたいところだけれど・・・。
「私がお会いしたアイラ様もアニス様もお二人ともとても可愛らしい上に、家族想いで、でも式典の最中は王侯貴族としての立ち居振る舞いをされていて、とても驚きました。それだってやっぱり、大好きなサークラ様やお母上様の背中を見て育ったからですよね?」
サークラ様を励ますためだけれど、内容はもちろん本音、あんなにかわいい上にメリハリをつけられる女の子、特にアイラ様はサークラ様には照れながらもかわいがられることは喜んでいらっしゃったし、アニス様の前では姉として振る舞い、しっかりとアニス様を指導されていた。そして、ご婚約者様のユークリッド様の前ではおしゃまで可愛らしい女の子で・・・そのあまりに理想的な姿に、髪も眼も、家名すら違っていても、サークラ様の妹君なのだなとすごく感動したものだ。
思いがけず私の声には熱が入り、私の声と気迫とにサークラ様は気圧されて苦笑いしていると思ったのだけれど、本当は少しだけ違ったみたい。
「本当にそうだったらよかったんだけれど、アイラがしっかり者なのは私の背中を見て育ったからじゃないのよ・・・あの子は特別なの。」
特別・・・それはわかる気がする。
アイラ様の容姿はとても整っている。
それはサークラ様と同じで、一つ一つは整っていても、最高、最優といったものではない。
ただその組み合わせが神懸り的に噛み合っていて神々しいとまで感じられる美しさを持っている。
あの方がもしも私のことをお姉ちゃんとよんでくれるというのなら、武術の心得のない私でもたぶん王国の勇者と数合打ち合うことすらできるだろう。
アイラ様との特別な関係を手に入れるためならば努力を厭わないという人も大勢いるだろう。
つまり、アイラ様に親切にいろいろなことを教えて子弟の関係になりたがる人が多かったということだろうか?
答えはすぐにサークラ様が下さる。
「あの子は、きっと本当は誰の助けも借りたくないのではないかって思うの、他人の力を見くびっているわけではないし、他人との付き合いを嫌っているわけでもない、でも他人の助けを受けなれば守れない生活があることをたぶん怖がっている。でも人を傷つける様なことはもっと嫌いで、だから私たちのために甘えてくれてるんだと思うの、無理をさせてるって思うことがあるのよ。」
「そんな・・・アイラ様はまだ9歳ですよ?きっと結婚で生活環境が変わって、妹君様たちに会えないことでブルーになってるだけですよ。さぁそろそろジョージ様が湯浴みを終えて来るころではないですか?今日は良いお香が届いておりますので、焚いてゆきますね、お気に召すと良いのですが・・・」
結局寂しそうなお顔を晴らすことはできなかった。
新婚のこの大事な時期に、ブルーな気持ちを感じすぎてしまうとジョージ様との結婚自体や営みにネガティブな感情を感じる様になってしまわれるかもしれない、それはオケアノスのためにも避けなければならないし・・・アクア様とのお茶会や、重臣の娘たちとのお茶会ではしっかりとした「美しいサークラ様」のお顔を見せてくれたので、お茶の香りや菓子の香りにはいい思い出があるのだろうと、お茶と蜂蜜の香りのするお香を用意する。
最近西の方で流行っているらしい。
「あ、これ・・・お茶の香りがするのね・・・アイラを思い出すなぁ。それに甘い香りもするわね。」
そういって火をつける前に匂いを半分当ててしまわれた、なかなか鼻も良いらしい。
「ねぇエイリーン、私が、妹離れできるまでもう少しかかると思うの、その間迷惑をかけると思うけれど、エイプリルともども、お願いね。」
先ほどまでと比べるとずいぶんと明るい表情で、まだ妹君様たちがオケアノスにいたときほどの元気ではないけれど、それでもずいぶんと良い表情になられた。
「はいサークラ様、私はサークラ様のメイドですから、サークラ様のためであればできることなら何でもいたします。」
そう告げた私の言葉にサーウラ様はしばらく考える様なそぶりを見せたあと・・・
「じゃあ抱っこさせて?」
とおっしゃった。
「は、はい?」
「だから、抱っこさせて。」
サークラ様はまじめな顔で、私のほうを見ながら告げる。
「エイリーンは13歳にしては優秀で小柄で、ちょうどアイラやアイリスと近い色の金髪だし、抱き心地近いんじゃないかってちょっと狙ってたのよね。」
そういってサークラ様は両腕を広げられて、私が近づくのを待っている。
「い、いえですが、さすがにそれは・・・。」
サークラ様には一番メイドはいないし、貴族になられてから日が浅いのでその文化もない。
単純に妹の変わりに抱きしめてみたいということだろう。
ぬいぐるみみたいなものだ。
でも私はメイドで彼女は主人だ。
あの腕の中に納まるということは主人の上に乗るということで・・・それはメイドの身には恐れ多い行いだ。
「もぅ・・・何でもするって言ったわよね?」
少し拗ねた様に、口を尖らせるサークラ様もお美しい。
「う、ぅ・・・かしこまりました。失礼いたします。」
そういって一歩ベッドの縁に腰掛けるサークラ様に近づくと
「あ、待って、エプロンドレスの下、インナーは何をつけてる?」
サークラ様が問いかける。
なんで下着を尋くのだろう?と思いつつ。
「ベアチューブと、スパッツです。」
と、尋ねられたことにはすぐさまに答える。
オケアノスのメイド服はスカート丈の関係で、通常のズロースやドロワーズでは少しはみ出したり、スカートが翻った時(無論スカートが翻る様な歩き方をする気はないけれど風の強い時などはやむ終えない)に捲れて恥ずかしい目に会う可能性がある。
その点スパッツなら、下にピッチリとしたサポーターを重ねるのでスカートがめくれても大事な部分だけは透けないので私は好んで穿いている。
「そっか、できたら明日からは、入浴の世話の後は、スリップとかワンピーススカートタイプのものを下に着ていて頂戴、下はドロワーズがいいわ。」
と、下着を指定されてしまった。
「は、はぁ?」
これ一番メイドにするとかじゃあない・・・よね?
単に妹君様たちの抱き心地に近づける意図だよね・・・?
そんな私の思考をよそに、サークラ様は改めて腕を広げた。
「じゃあ、おいで?」
今度はおとなしく従いその腕の中に納まる。
「ウーンやっぱりメイド服がごわつくわね。」
「えっと、私は居心地が悪いです。」
と、そこで落ち着いた男の人の声が響いた。
「えっと・・・何をやってるんだ?」
「ジョージ様お仕事お疲れ様です。エイリーンが私の妹たちの代わりに、可愛がられてくれることになったんです。」
とサークラ様は平然とおっしゃる。
ジョージ様は少しあぁ・・・と少しあきれた様な声で返事をされた後、サークラ様に抱きしめられているため立ち上がることもできないでいる私に後ろから声をかけてくださった。
「エイリーンそのままでいい、迷惑をかけるが、サークラが寂しがっている時はやりたい様にさせてやってくれ、無論お前が嫌なことを強要する様な時は拒否していいし、私に報告してくれて良い。」
「はい、ジョージ様この様な姿勢のままで申し訳ございません。」
「それでサークラ、どうだエイリーンの抱き心地は?」
とジョージ様の口からとても信じられない言葉が飛び出る。
「えぇ、体つきがちょっとアイラに似てて落ち着きます。胸が小ぶりなのもちょうどいいですね。」
それに答えるサークラ様は平然としたものだ。
「オケアノスのメイドで一番体格と髪色が近いものを選んだからな、私の努力も無駄ではなかったということか」
「まあそうだったんですね、ジョージ様ありがとうございます。なるべく早く妹が居ない寂しさに慣れる様努力します。それまではエイプリル、あなたのいとこを借りるわね?」
どうやら部屋の外を守っているはずのリルお姉ちゃんも一緒に入ってきていたらしい。
「いいえ、リンちゃ・・・エイリーンがサークラ様の無聊をお慰めするのにお役に立つのでしたら如何様に扱ってくださっても問題ございません、もしも一番メイドになさる様でしたら張型や拘束具なども手配いたしますが・・・?」
と、特に気にした様子もなく、リルお姉ちゃんは私を見放した。
サークラ様は少しあきれた様な声で
「エイプリル、妹の代わりに可愛がるのに、一番メイドにはしないでしょ?」
と答えるけれどリルお姉ちゃんは別段遠慮する様子もなく。
「いえ、サークラ様ほどの妹煩悩である方ならばそういったことも考えるのかな・・・と」
私は血の気が引く思いだ。
お姉ちゃんそれ不敬じゃないの!?ご主人様夫妻の前だよ!?
その様に気にしたのは私だけだったみたいで
「はっはっは、確かにサークラならばやりかねないな、エイリーン、嫌なときは拒否してよいからな?今日はご苦労だった。もう二人とも下がっていい、ここからは夫婦の時間だ。」
と、ジョージ様は笑いながらおっしゃり
「えー、ジョージ様私だってさすがに無理やりそんなことしませんよ。気持ちが大事なんです!」
と、よくわからない反論をしていた・・・同意が得られる様なら妹君にそういった可愛がり方をなさりたいとお思いになっていたのだろうか・・・?
それから私は最後にお二人にお茶をご用意させていただいてからリルお姉ちゃんと共に夫婦の寝室を辞した。
「ねぇリルお姉ちゃん、さっき私のことサークラ様に売ったよね?」
サークラ様の部屋の近くの私の割り当てられた部屋に戻った後、なんとなく納得がいかなかったので憮然とした態度で従姉であるエイプリルお姉ちゃんに尋ねる。
「売っただなんて・・・そんなことはないわよ?リンちゃんは可愛い従妹だもの、幸せになってほしいわ。」
ちょっとムッとする。
それじゃあ今の私が幸せじゃないみたいじゃない、あんなにお美しいサークラ様と、睦まじいジョージ様にお仕えできているというのに・・・。
「そんな怖い顔しないで、ちょっとした話なんだけどね、私、サークラ様とジョージ様からジョージ様の愛妾にならないかと打診されたわ」
愛妾!?リルお姉ちゃんが?
あまりにも突然のことに私は呆けてしまう。
「それでリンちゃんにもどうかって話が行く予定なの。それを折を見て伝えてほしいって私は言われているわ。」
私もジョージ様の愛妾に?それは光栄なことではあるのだけれど・・・でも
「待ってお姉ちゃん、でもそれって国王陛下のご命令に逆らうことじゃ?」
国王陛下はサークラ様との間の子どもだけにオケアノス家を継ぐ者を認めるとおっしゃったはずだ。
「それは少し違うわ、国王陛下がおっしゃったのは継承権の話であってオケアノス家の再建、安定についてはジョージ様とサークラ様任せているの、そのお二人が悩んでいるのは、簒奪侯の行いによってオケアノス家の直系が現在アクア様とジョージ様しか残っていないこと、周囲を固めることができる縁戚がオケアノス家にはいないの、サークラ様のご実家からアイリス様やアニス様をオケアノス家に入れていただいてその結婚相手を重用・・・なんてこともお考えになったそうだけれど、妹君様たちには妹君様たちの人生があるからそれを狭めることはしたくないとの仰せよ」
確かにあの妹君たちのあふれる可能性を、オケアノスの縁戚・家臣として決めてしまう様なことは、サークラ様はなさらないだろう。
「そこで第二案、私やリンちゃんみたいに、きっとサークラ様を裏切らない、心酔しているメイドにジョージ様の子を生ませる。私たちは婚姻した側室ではなく、愛妾としてジョージ様の子を生んで、継承権の存在しない子どもを未来の重臣として育てるの、生まれたのが娘だったらサークラ様との養子にしてオケアノスの姫として育ててくださるということだし、そう悪い話ではないわ、私はジョージ様のこともお慕いしているし、アクア様にもそれなりに長く仕えているし。貴方も、ジョージ様のこと好みでしょう?」
バレてた・・・私の恋愛感情とも呼べない気持ちがバレてた。
私にとってすでに聖母様との同一視すら始まる勢いで敬愛しているサークラ様と、そのサークラ様と睦み合い、慈しみあっているジョージ様ご夫婦のことは確かにすごく好きだ。
でもそれは決して結ばれたいという感情まで届くものではなくて、ただの憧れというか、自分もあんな素敵な夫婦になれたらという願望だ。
「お姉ちゃん・・いつから?」
「うん、最初にサークラ様たちをこちらにお連れした時点でちょっと目つきがすでに変わってたのもわかったけど、決定的だったのは姫様方が帰られた後ね、目に見えて弱られたサークラ様をみて、一気に引き込まれた感じかしら?そもそもたぶん貴方ジョージ様の外見が好みだったけれど、接したことがなくて憧れてたんでしょうね、それがサークラ様との理想的な夫婦関係を知った上でサークラ様のお付になって、両方のことが好きになっちゃったんでしょうね。」
たぶん大体当たりだ。
昨年の粛清の嵐の中で、お見かけしたジョージ様の凛々しい姿には年頃の乙女であれば誰もが心引かれる飢餓感というか、焦りの様なものが透けて見えて、外見の凛々しさとその弱さの対比はグっときた。
でも身分が違う上、そもそも私だってなにかの取調べの結果粛清に巻き込まれるかもしれないとあの時はおびえていたし、何も私は悪いことはしていなかったから、そうそうないとは思っていたけれど、それでもこれまでお城の中で威張りちらしていた周りの人たちが一人また一人と消えていくと恐怖を感じた。
それが特に戦争が終わった後はほとんどサークラ様の私室かお二人の寝室でしか生活していないので、あのジョージ様がサークラ様にだだ甘い様子を見せているところしか拝見していない。
そのあまりにも平穏な姿に惹かれているのも確かだ。
ジョージ様がお情けを下さるという妄想をしたことがないわけでもない
「まぁ、ご主人様ですから?敬愛しお慕いするのは普通のことです。」
ただリルお姉ちゃんにそれを看破されるのはすこし悔しいというか。認めがたいことなのでつい、こういう態度になってしまう。
「そうね、とにかく、そういう話があるかもしれないから、尋ねられても驚いて変な声を出したりしない様に。」
そっけない私の態度の理由もたぶんバレているんだろう、リルお姉ちゃんは小さく苦笑いを浮かべると私の頭をなでてから
「それじゃあ私は部屋に帰るから、おやすみなさいエイリーン」
と、おでこにキスをしてから私の部屋を出て行った。
やっぱりなんとなく悔しくて、おやすみなさいを返すこともできなくて、その日は悶々とした夜をすごすこととなった。
翌朝、ご夫婦の寝室に起こしにいくと、すでにジョージ様は目覚めておられちょうどお一人で着替えをしようとなさっているところだった。
サークラ様はその美しい背中と形の良い胸とを掛け布からはみ出したままで安らかな寝息を立てておられる。
「エイリーンちょうど良かった。適当に服を見繕っておくれ、下着も替える汗をかいた。」
その筋肉質な体つきはよく鍛えられていることがわかるけれど、背中にはたぶんサークラ様がつけた爪の痕が残っていて、薄く蚯蚓腫れになっていた。
服をいくつか用意していったん置いた私は、思わず尋ねる。
「お背中痛みませんか?」
あいにくとそういう経験はないもので、アレがどういうものかは知っていても、痛いのかとか、どうしてつくのかはよくわからない。
「ん?あぁ、そういえばちょっと力が入っているときがあったか・・・赤くなっているか?」
と、ジョージ様は薄い反応、痛みはないらしい。
「そうですね薄く蚯蚓腫れみたいになっています。今は痛くなくても擦れて痛む場合もございますし、先に治療いたしましょうか?」
「では頼む。」
とジョージ様が許可を下さったので、私はその背中に手を這わせ治癒魔法を唱える。
私は弱いものの治癒魔法の適正があり、王都軍官学校への招聘はないものの、幼いうちからオケアノス城の教育機関で魔法の勉強もしていたので、下級までの治癒術を使うことができる。
「ちょっと痒いな・・・」
「あぁ治るときってむずむずするんですよね・・・はい、おしまいです。それではお着替えをお手伝いいたしますね。」
「いや、用意してくれただけで十分だ。あとはサークラの世話を頼む。」
下級の治癒術は体の回復力を向上させることが主効果となるので治るところが少しむずがゆくなるのだ。
そして血流が多くなる効果もあることを私は失念していた。
この日の午前中、妙に座りの悪そうなジョージ様が目撃され、サークラ様との営みに不都合があって欲求不満なのではと噂が流れ、そして午後には消えていった。
一応100話頃を目処に幼少期のお話から次に行く予定です。
年数が経ったり、前作で描写した話が一部はしょられたりします。
逆に前作で描写し損ねたキャラ付けや、近作で変化の合った部分は少しお話していくので、しばらく小数点で刻む話が増える見込みです。




