第95話:流星4
会議は進まなかった。
現実を見た者と、いまだ夢が夢であったと気づかない者との間では齎された着地地点が妥当なものであるということも、正しく伝わらず。
あまつさえ、夢どころか幻覚の敵とでも戦っていたのか、一人の貴族が仕込み杖さえ抜き放ち。
謎の主張をはじめ、議場の人間は誰もが危機感を抱いた。
そして彼がその刃を、その場でもっとも発言権の強い人間に突き立て様とした時、入り口で簡単なボディチェックを受け、聖母にこの場に武器は持ち込まないと誓った貴族たちは誰もが、その凶刃を止める手段を持ち得なかった。
ただ一人、刺されそうな男の息子だけが席を立ち、その身を間に差し込もうとしたが、その覚悟は見えない壁に阻まれて、果たされることはなかった。
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(アイラ視点)
男はどれほども槍を振るったことのない者だった様で、貴族だというのにまったく腰の入らない突きはただ人間など刺せば死ぬだろうという程度の情けないものだった。
その上、これだけ派手に動いたというのに、彼らはまったくボクの存在にいまだ気付くことができていなかった。
「な、なんだ・・・杖が何かに弾かれた様に見えたぞ。」
「伯爵は守りの魔法が使えたのか?」
「何だ今のは、会議場で魔法を使うのはご法度だと決めたのは伯爵家ではないか!卑怯だぞ!」
例外をあげるなら、ボクに横からぶつかった伯爵の息子と、ボクの存在をすでに知っていて、ボクがいる可能性に思い至った伯爵くらいだった。
「何か・・・ここに壁が・・・?」
「時間にはまだ早うございますが、ナイトウルフ殿・・・いらっしゃっていたのですか?」
二人のためにボクは鎧の内側で黒霞の娼婦を解除して、隠形術も解除する。
するととたんに会議場の連中は騒がしくなった。
「な!なんだ!何者だ!!」
「いつからそこに居たというのだ。」
「剣を持っておるぞ!ここには武器を持ち込んではならぬというのに!」
などなど
しかし、彼らの言うことは気にせずに、ボクは伯爵とその長男のほうへと意識を向ける。
長男・・・グウェルといったか、彼はしりもちをついた後手探りでボクの形を確かめようとしていたためボクの足に腕を回した状態になっている。
徐々に改良しているとはいえナイト・ウルフの外見からは性別もわからないし、仕方ないのだろうが・・・
「コホン」
一応は話始める前の咳払いだけれど一拍空けると、伯爵は息子に声をかけた。
「グウェルよ、そちらの使者殿は女性だ。その様な振る舞いは失礼だぞ。」
と伯爵に言われるとグウェルは小さく女性!?とつぶやきながらあわてた様子で立ち上がると、この場にいる者の中では比較的平静に頭を下げた。
「し、失礼しました。とっさのことでありましたのでご容赦いただければと思います。」
気にするな、と手で合図して返し、話始める予定だった話をする。
「私はイシュタルト王国の3の姫君に仕えるナイトウルフと言う護衛だ。影の者ゆえ顔は隠させてもらっているが、姫様の交渉相手である伯爵殿に大事があってはならないとこちらに潜入させてもらった。ダ・カール伯も気付いておられなかったので、彼が侵入者を手引きしたというわけでもない、あなた方もそうだったと思うが私が本気で姿を隠せば、気配を読むことに長けているものでなければ気付くことはできない、それでもイシュタルト王国の名のある将兵であれば気付くが、ダ・カールの宮城には一人も居られなかった様だ。」
軽い挑発ともいえる言葉を述べると、ほとんどの貴族は黙ってしまったが、仕込み杖を取り落としていた彼はボクをののしった。
「貴様、ここは神聖な貴族会議の場であるぞ!それを・・・」
「武器を持ち込んだ上、議長であるはずの伯爵を襲ったあなたが言っても誰も賛同はしませんよ、それに私はヴェンシン貴族ではなくイシュタルト貴族のつもりです。それに持ち物検査なんてありませんでしたしね?」
聞いてやるだけ無駄な人間である様なので口を挟み、杖は踏み砕き、周りの人間の様子を見やる。
先ほどダ・カール伯から聞き及んでいた異形の黒騎士、その威容に言葉を失い、その剣がこの場で振るわれることに恐怖を覚えているものの、自分から動くことはできなくなっている。
それこそこの得体の知れない騎士の標的になりかねない・・・と
無論今更こんな連中を斬り捨てたところで戦の終結に時間がかかるだけ・・・いやむしろ伯爵と、降伏に賛同しているっぽい連中以外を斬り捨てれば早いかも知れないけれど、連中すべてに公平な裁きを与えられない。
しかし、目の前でわめきたがっているやつはもう発言する資格もないだろう。
「何をしているのです。この無作法者はどうするんですか?。彼は自ら議決権を放棄したみたいですよ?」
そういって周囲の貴族に告げると扉に近かった男が扉を開けて、兵士を呼び込んだ。
「ケヒム子爵を捕らえよ、これまでも持ち込んでいた杖は仕込み杖だった。伯爵を殺害しようとした咎だ。持ち物を改め、自害などもさせるなよ」
その貴族の言葉に、それ以上にボクの存在に兵士たちは驚いた様子を見せた。
しかし伯爵の様子を見て状況を確認すると忠実に動き、ケヒム子爵を連行していった。
下賎なとか、あやつらこそ捕らえよ、といったことを喚いていたが、貴族連中がケヒム子爵に対する不信感を抱いた上、ボクという異物のほうへ注意を向けておきたいため、どうしましょうか?と視線を送る兵士に対して、さっさとつれていけとばかりに無視するか、手で『あっちいけ』とジェスチャーした。
哀れ兵士たちは、喚き散らすデブを引き擦る様にして 部屋を出て行った。
この場にはボクと、残りのヴェンシン貴族たち。
「さて、とりあえず会議が続けられる様になったのですから、皆さんは話合いの続きをどうぞ?私のことはどうかお気になさらず。」
そういってボクは伯爵の少し後ろに立つけれど、会議は再開されなかった。
貴族たちはボクのほうをチラチラと見ては伯爵の方へ視線を戻す。
その視線を受けていた伯爵はやがてため息をついてからボクのことを紹介し始める。
「先ほど言うた私の執務室へ忍び込んだ使者というのも彼女だ。この大きさの甲冑を身につけた者が誰にも気付かれることなく執務室まで入ってきたという時点で、私は戦争を続けることは不可能だと判断した。何せ彼女がその気になっていれば、私もほかの貴族たちも皆殺しにされていたということに他ならないからな。ただでさえ我らの送り出した兵たちが、圧倒的数の優位を持ちながらも敗北している。その上でこの斬首作戦を実行可能な使者殿が姫殿下からの、大変生ぬるい内容での降伏勧告を持ってきた。我らの行った侵略行為と比べてあまりにも我らの民を思いやってくれる内容だ。この約束が果たされるのならば、私は降伏することに少しの抵抗もない。それとだ彼女たちはこれから我々に、斬首作戦だけではなく、殲滅戦や電撃戦が可能な戦力を有していることを示してくれるといっている。我々が目の前に示されたものしか信じられないというので、実践してくださるとのことだ。」
伯爵は貴族たちを見渡しながら、なぜボクを信用するのか、何を以ってイシュタルトとの戦争を続けることの愚を悟ったのかを語る。
そして、その証明をボクたちはこれから無人となった塔と城壁の破壊とで示すのだ。
「確かに、我々も目の前でその黒き騎士が現れるのを見た。なるほど・・・首脳部が常に暗殺の恐怖にさらされて身動きができないというのでは勝ち目はないな・・・その上それだけの影の技術を持つのであれば、その戦士としての腕も大したものなのだろう。」
先ほどまで紛糾していた議場は完全に消沈している。
如何に抵抗が無意味かはお分かりいただけた様だ。
「それでその、殲滅戦の見本といういうのは?」
ことここにいたっては致し方なし、ということなのか貴族たちは落ち着いた様子でボクに向かって尋ねた。
さすがに勝手知ったると、案内し始めるわけにも行かないので、伯爵に話題を振る。
「ダ・カール伯、すでに人払いはお済みでしょうか?」
「もう、終わっているころですな、少し早いですが移動しましょう。皆ここの屋上に移動する、グウェル、念のため人払いがすんだか確認を頼む。」
「はい、父上」
ボクにたずねられた伯爵はすぐに、予定の変更と簡単な指示を出すと立ち上がった。
「さて皆様、私についてきて頂きたい。」
貴族たちは、その伯爵の声に首をひねりつつも移動を開始した。
3分ほどしてボクたちは先ほどまでいた会議場のある建物の屋上部分に移動していた。
「さて、今からお見せするのはわがイシュタルトが姫君による攻撃魔法です。アイラ・イシュタルト姫殿下はイシュタルト王国が侯爵家ホーリーウッド家への嫁入りがすでに決まっていらっしゃる3の姫君であらせられるが、卓越した魔法の腕をお持ちである。イシュタルト王家がそれだけの力を手に入れながらも侵略の意思も必要もなかったことの証明として信頼に足るだろう、それでは皆様、あちらの方角をご覧ください。10kmほど先にバンタイ山とオオタイ山が見えると思います。今回はそれより手前の6kmほどの地点からの射撃となりますが、位置として二つの山の間に見える地点からの砲撃となります。目標は伯爵が人払いをされたあちらの城壁と塔になりますが、予定より早くなりましたので、そうですねグウェル殿がお戻りになってから3分後くらいにしましょうか?」
さらに数分経ってグウェルが戻ってきた。
「父上、使者殿、例の区画の人払いを完了しました。ご指示通り周囲200mほども人の立ち入りと近辺での外出は禁止しております。」
塔の方はほとんど木造であったためあまり心配していないが、城壁のほうは石造りであるので、吹き飛ばされた瓦礫によるけが人は出るかもしれない
なので、塔は完全消失、城壁は外側に面した部分のみの破壊で威力調整することにした。
ついでにこっそりこの建物の上にも魔力付与していない状態の弾を投射することにした。
アイラ姫と、ナイトウルフ双方の力量を見せるチャンスである。
「それでははじめましょうか、合図を出します。」
そういって大剣を屋上の屋根につきたててから光弾を頭上に飛ばし光を放たせた。
するとバンタイ山とオオタイ山の間への直線上に小さく魔力の光がボクの目でも確認できた。
精密射撃など普通なら難しい場所だ。
ボクはおそらくバレないだろうと信じながら、ナイト・ウルフをその場に残し中身だけ跳躍する。
暗転を抜けるとそこは神楽の盾の上で、エッラが頭上に魔力を放出して、光を出していた。
「お帰り、少し早かったね。」
「ただいま、やっぱりちょっとやらかしてくれた貴族がいたよ、おかげで逆に貴族が大人しくなって、進めやすくなったけれど・・・とりあえず急いでやるね。変身!」
軽く挨拶を交わしながらボクは長距離砲撃用の鎧衣に変身する。
選んだ鎧衣は災いを成す者。
白と青を基調としたマーチングバンドの様な衣装で、背の高い帽子とショートパンツが特徴、金色の縁取りが良いアクセントになっていて、パンツルックでありながら下手なスカートよりもガーリッシュに見える。
ガーリッシュも何も、今のボクは紛うことなき少女なのだけれど・・・。
背の高い帽子の中に計測関連の魔法が自動演算される鎧衣でこの鎧衣を纏って砲撃系や投射系の魔法を準備すると予測射線が視界に表示される。
あくまでその時点での予測なので、敵の妨害を受けたなどの要素で狙いが変わることもあるが、基本的には必中と言って良い。
そしてボクは3本の直槍を収納から取り出した。
一本には下級火魔法、一本には中級火魔法を封入した光弾を付与する。
そして最後の一本には空気抵抗を弱めるための防御魔法をかけて付与する。
一本ずつ順番にバレルを展開し、威力や角度を調整して・・・撃つ!!
「ミーティア!」
1本目、塔を狙った中級火魔法の弾はやや高めの放物線を描かせた。
なるべく地面に対して垂直に近い状態で当てて直上に爆発が起こる様にするためだ。
2本目の流星を構えながら着弾の様子を見ていると確かに塔に命中し、火柱を上げたのが確認できた。
2本目はなるべく城壁に向かって垂直に近い形で当たる様に放つ。
威力は抑え目の下級火魔法、それでも光弾に強化された直槍は形を保ったままで壁まで届き、突き刺さる。
そして内側で解き放たれる火魔法の爆発力は通常の下級魔法とは比べ物にならない威力だ。こちらも城壁が吹き飛ぶのが見える。
そして最後・・・狙いはボクの鎧ナイト・ウルフ、3つ目の槍に込めた魔力による強化は防御系統だけで、魔力さえ流し込んでいればナイト・ウルフはつぶれない。
しかし今ナイト・ウルフの中身は空だ。
「これを撃ったらすぐにあっちに戻るね。みんなはさっきの約束の場所まで移動していて、ボクもまた戻ってくるから・・・カグラ、みんなをよろしくね。」
「お任せくださいアイラさん」
神楽が元気にうなずくのを確認して、ボクは最後の一発を放つ、これは流星ではなくただの投射バレル魔法だ。
狙いは威圧のみ・・・。
投射を終えたボクはフォビドゥンバードを解除しながら跳躍を開始する。
着弾まではそれなりに時間があるけれど、ナイト・ウルフの中に正確に跳躍しなければならない。
再びの暗転から回復し、ボクの周りにはあわてまくっている貴族たちの反応、どうやら成功した様だ。
そして正面からかなりの速度で差し迫るボクの放った槍、威力はまったくないので強化魔法をかけたナイト・ウルフならばたやすく掴み取ることができる。
ガァァァァァァン!!
とはいえ、激しく当たりあう金属の音はとてもけたたましく耳障りで、また直前の2発の着弾を見ていた貴族たちは、ここに向かって飛んできていたそれも爆発するものだとおびえきっていたため口々に悲鳴を上げながらしゃがみこんで、あるものは家族を案じる言葉をあるものは聖母への祈りの言葉を吐いた。
そしてあるものは声にならない悲鳴を、また恐怖により汚物を漏らすものまでいたが、ボクのせいじゃない。
掴み取った拍子にひん曲がった槍をその場に捨てながらボクは貴族たちのほうへと向き直る。
「いかがでしたか?わが主の砲撃は、見事な精度と威力でしょう?」
お前たちがケンカを売ったのはこういうことができる国だぞ?
と脅しをかける。
ついでに姫、から主と呼び方を替えて、ナイトウルフという脅威が忠誠を誓う相手であると強調する。
おそらくはこの大陸であの距離の砲撃を精密に行える者はいない、この世界の砲撃魔法は経験則から導かれた威力と角度の計算で大体あの辺りに当たるという程度の物がほとんどで、精密射撃なんてものはない。
その上この伯国には何百年も昔の古い魔導砲しかなく、魔力による仮想バレル魔砲もおそらくはイシュタルトの様な研究・発展はしていない。
こんな砲撃自体見たことがなかったのだろう。
「ひとつ尋ねたいが、これほどの砲撃ができるのは姫君くらいなのか?」
事前説明を受けていてほかのものよりは余裕のあるらしい伯爵がボクに尋ねる。
「そうですね、これほどの精度、威力を両立できるのは現在は我が主くらいでしょうが、威力だけなら主よりも魔砲に特化した方々は多くいらっしゃる。」
あくまで精密射と高威力の両立の最高峰だと強調し、これよりも上の威力がいくらでもいる可能性を示唆してやると、わずかに足腰が立っていた貴族たちも膝か尻餅をついた。
「常に四方を他国に囲まれ、研鑽を怠らなかったわが国と、軍備増強に努めているとは名目ばかりで貴族の子弟を飢えさせないために金を浪費しているココとの違いでありましょうな、なお我が主はまだ10歳にもなっていらっしゃらない、試し撃ちが終わったので、これからこちらにいらっしゃる。私は影に潜みお守りするが、くれぐれも無礼のない様にお願いします。正門に向かえをやっていてください。」
無言を肯定と捉えたボクは最後にそれだけ告げてから再び、今度はナイト・ウルフごと跳躍した。
再度ユーリたちと合流したボクは、すべての武装を解除し、一度学生服の姿に戻った。
しかし、これからどうするべきか少し迷う。
ボクの身分は王国の姫であると同時に軍事的な立場で言えば学生兵士となる。
学生兵士ならば学生服の上からライトアーマーの類を着用したものが正装となるが、今回急ぎできたため、手元に学生服用の鎧がない。
それなら学生服姿で行くのがいいのかもしれないが、この国にイシュタルトの女学生用の制服が通じるかわからないので、それなら姫らしいドレスや、軍事式典用の王家の紋章が刺繍されたパンツスタイルの礼服というのも選択肢に入ったのであろうが、ドレスも城以外であまり派手なものは着ない為比較的シンプルなものしか持ち込んで居らず。
礼服も最後に王族として軍事系の式典に参加したのが1年ほど前なのでサイズが合うものを持っていない。
今着ている学生服でいくか、それらしく見える外見の鎧衣でごまかすかか・・・。
いいや、ユーリや神楽も学生服だよね?
そう思って後ろを振り向くと・・・。
神楽が魔力偏向機デネボラの収納からなにやら衣装を取り出しているではないか・・・。
「正式な会談となると、盛装か正装が必要だよね」
「式典用の礼服は今年のはまだ作られていないので用意できませんでしたが、ドレスを持ってきています、何着かお城から借りてきていますよ?」
察しが良いというか、良すぎるというか、二人してすでにボクのことは十分すぎるほどわかってくれている。
神楽はいつもどおりといえばいつもどおり、どことなく和を感じさせる着物ドレス風の衣装で、今日は裾が特に長い、黒基調のモノを選んだ。
ユーリは正直デザインは学生服とあまり変わらないけれど、色が黒に近いブレザーっぽい外見の衣装を着た。
どちらかといえば式典用といえるデザインだけれど、まだ成長途上の美少女顔のユーリが着るとちょっと男装に見える。
そしてボクにはやはり黒基調の正しくゴスロリっぽいドレスが用意されていた。
スカートはほどほどの長さで膨らみはそれなりにある。
色は濃淡が少しあるくらいの黒一色であるがリボンやフリルはふんだんに使われているので、王族が着るものとしてのゴージャスさは損なわれていない
ボクの金髪との対比が非常に目立つことになっているが、ヘッドドレスも黒いリボンとカチューシャ、メッシュの短めのヴェールが合わさったもので、少し喪服っぽい印象を受けるが、軍的礼装は白や黒が基調となるので正式な場でも失礼とはならないだろう。
「用意がいいね?」
「僕たちは物資を用意してもらう時間もあったしね」
それからエッラたちも良く見ると普段のメイド服を取り出して要る。
ホーリウッド侯爵家の立場とボクの立場を考えてなのか、どちらも持っているエッラはクラウディア城でのメイド服を、ホーリーウッド家用しか持っていないフィサリスはそちらのメイド服をそれぞれ空間収納機能の制限を解除してある魔導篭手から取り出している。
そしてベアトリカは・・・
ボクたちは、一度地上に降りてから土魔法で目隠しの壁を作り、はじめに外にユーリとベアトリカを外に残して、女4人で着替えた。
次にボクと神楽とベアトリカが外に残り、メイド二人とユーリが中に入ってユーリが着替えた。
そして最後にベアトリカとエッラ、フィーとが中に入って出てきたのだけれど
「なにこれ・・・ボクがダ・カールと話し合いに行っている間に作ったの?」
ベアトリカは全身毛むくじゃらのクマ魔物だが、人間の様にしっかりと二足歩行ができる。
それで先ほどローブでも着せていればという話をしていたのだけれど、これはどうしたものか・・・。
「えぇ、エッラと二人でがんばって仕上げたのですよ、時間との戦いだったけれど、これなら多少違和感なく人っぽく見えるでしょう、夏なので多少暑いかも知れませんが、ベアトリカはがんばるといっています。」
フィサリスが小さな体でその大きな胸を自慢げに反らす。
エッラも心なしか誇らしげだ。
ベアトリカは全身を黒基調で一部白のツートンカラーのローブに包んでいる。
ちょうど地球の修道女の様にダブついたローブが基本で、やはり布の余り気味のフードを被っている。
顔にはフードから黒いヴェールがかかっており顔を近づけてみないとその表情はうかがい知れない。
表情って言うかクマ顔というか。
手は白い手袋で覆われている上にローブの袖がかなり大きく作られていて、ちょうど暗器でも隠している様に輪郭すら浮かばない。
足元も同様で、ローブの腰から下部分がかなり幅広く広がって足のシルエットもわからない様になっている。
おそらくはクリノリンの様な枠を使って裾がある程度より細くならない様に腰の辺りで調整してあるね。
結果として身の丈3mの巨大な人型の何か(たぶん女性に見えないこともない。)が誕生した。
「うん良く作ったね・・・これならまぁ目立ちはするけれど町の中も歩けないこともないね。」
普通魔物は服を着ないわけだし。
実際たいしたものだ。
時間はまぁそこそこあったとはいえ、半日に満たない時間でこの規格外の大きさのローブをデザインして縫製したというのだから。
「ベアトリカ、それをきて大人しくしていられる?」
「ガフ!」
2つの足でしっかりと立っているベアトリカの鼻先に・・・届きはしないけれど腕を伸ばして掌を見せながら尋ねるとベアトリカもまた誇らしげに頷いた?
「よし、いい子。後でいっぱいご馳走あげるからね。」
そういっておなかをさすると、ゴロゴロとのどを鳴らすベアトリカは大きいけれどやっぱりマスコット的なかわいさがある。
っていうか、クマってうれしいとノドを鳴らすんだっけ?
魔物だから関係ないか?
「よしじゃあそろそろ行こうか、もう待ちくたびれてるかもしれないし。」
なにせボクがこちらに戻ってきてから15分ばかりたっている。
10km近い距離に居るはずの『アイラ姫』たちがどれくらいでたどり着くかはわからないだろうけれど、なるべく早めにあちらにたどり着くのも電撃作戦が可能という能力を示すことになるだろう。
馬などは連れていないから跳躍や飛行盾を使えば多少移動以外に時間がかかっても早いと思われるだろうけれど・・・。
着替えを終えて、体裁も整えたボクたちは飛行盾に乗り込み、再度ダ・カール領都上空への移動を開始した。
やっと流星しました。




