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第5話:妹の誕生

 生まれ直してからまただいぶ時間が経った。

 2歳も半ばを過ぎたボク、アイラ・ウェリントンは年の割りにしっかりした姉として、双子の妹アイリスの世話を焼く日々をすごしている。


 毎日の暮らしの中で、ボクはかつて失った両親に対して、精一杯に甘えて見せた。

 ボクはもうアイラという生き物になりきっていて、この世界にはボクが存在を奪ったアイラ・ウェリントンなんていないと思うことができたから。


 それでも近衛暁の約15年と、それを内包したまますごしたアイラの102年とがボクの中に確かに残っているので、やっぱり天然の幼女アイラとは違うのかもしれないけれど。


 今朝もいつもどおり早く起きたボクは、アイリスも起こして連れ立ってトイレを済ませ、その後はお着替えを手伝い

 二人で使っている子ども部屋でアイリスの文字の勉強がてら絵本を読んで姉の到着を待っていると

 コンコンとドアがノックされると同時に

「おはよう二人とも、朝ごはんだよ−」

 とサークラが部屋に入ってきた。


「エヘヘー」

 と笑うアイリスは実に誇らしげで


「おはよーおねえちゃん」

「おあよーねーちゃ」

 そういってボクはやや舌足らずに、アイリスはだいぶ幼い声で挨拶を返すと

「今日も二人だけでもお着替えも身支度も完璧だね!いいこいいこ」

 と二人の頭を優しくなでてくれた。



 サークラに連れられて食卓に行くとすでに父も兄も着座していた。

 そして母も食事の配膳を終えて、後はエプロンをはずすだけとなっている。

「2人連れてきたよー」

「おはよーおとーさん、おかーさん、おにーちゃん」

「あよー!」

 ボクとアイリスの舌足らずな挨拶にしっかりと答えを返してくれる家族たち。

 特に母は

「おはよー可愛い私の双子ちゃん!」

 とボクとアイリスのおでこに唇を寄せた。


 そしてアイリスはトーレスと母ハンナに、ボクはサークラに世話を焼かれながらの食事を開始した。

 このボクとアイリスのお世話には大きな違いがあって、アイリスはまだそれなりにちゃんと子どもで、スープはこぼすし、パンは落とすし、サラダは投げるしと非常に暴れん坊なので、二人に世話を焼かれて食事をする。


 それに対してボクはもう分別のある子どもなので、そんな世話は必要がない、ゆえに隣にサークラがつく必要もないのだけれど、サークラはスプーンを上手に使って食事をするボクを緩みきった表情で眺めているばかりだった。


 そのときカタンと音がして、母ハンナが少し青い顔をしていた。

 そして「ゴメン」といいながら立ち上がり手で口を押さえて食堂を出て行ってしまった。

「お母さん!?」

 サークラは急な母の退出に少し焦りの色を浮かべて追いかけていった。


 ボクはあぁ、こんなこともあったなぁ、とかつての恥辱を思い返しながら、コップに水を入れて後を追いかけた。


 うっすらと残る記憶を頼りに、家の外に出ると、やはり記憶の通りの茂みにで母がサークラに背中をさすられていた。

(なるべく子どもらしく、それも体調の悪そうな母親を自然に心配する様に)

「おかあさん、おみずもってきたよ。」

 そういってコップを差し出す。

 サークラが振り向いてボクからコップを受け取る。

「お母さん、アイラがお水もって来てくれたよ、気がつくいい子だね」

 サークラからコップを受け取った母は2回口をすすいだあと、3回目は水を飲んだ。


 その後こちらを向いてやさしい笑顔を称えて、ボクの頭を撫でた。

「ありがとうアイラ、ちょっと心配かけちゃったかな?お水ありがとね」

 その青い顔に前世のボクは、暁の母の死に顔を思い出し、取り乱し、醜態を晒したが、一度体験していることなので、今回は取り乱さない。


 ただ少しそうしたくなって、母に抱きついてお腹に耳を当てた。

 ボクが前世の記憶を持っているからって、今回すべてが自分の記憶どおりに進むかわからない、むしろボクという異物がとった行動で、運命というものが変わるかもしれない

 それが心配だったからこそ、母の胎内にアニスが、ボクの記憶の通りに宿っているらしいことは、ボクにとっては福音の様であった。


 ボクより後に生まれるものが、生まれてこないんじゃないか?

 それが大きな不安だったから、この母の妊娠を示す悪阻が知っているタイミングできたことは大いに喜ばしい出来事だ。



 それからボクとサークラ、ハンナ母さんも食卓に戻りご飯を食べ終わると。

 簡単な家族会議となった。

 まぁなしくずしになった妊娠の報告だ。


 といっても、もうボクは前世のこともあり検討はついていたし、アイリス以外は聞いてたようだ。


「アイラはもうしっかりアイリスのお姉ちゃんをやってくれてるし、しっかり者だけど、ちょっとお転婆なところとちょっと泣き虫ところもあるから。これを機に、お淑やかなお嬢さんになってくれると嬉しいな。」

 そういってボクの頬を両手で挟みながら、ハンナ母さんがしんみりとつぶやいた。

 貴族らしい振る舞いをする3歳弱の平民の子どもって気持ち悪くないかな?

 少し前まで90年以上王侯貴族をやっていたからそういう振る舞いなら自信があるけれど


「アイリスも妹ができたらアイラみたいにしっかりお姉ちゃんしてくれるかなぁ」

 ボクの頬から手を放して、アイリスの頭に手を置きながら要望を述べる。

 アイリスはちょっと考えるそぶりをしてから、合点がいったかのようにやる気に満ちた表情を浮かべた。


「アーちゃん、サーねぇちゃんになるよ!!」

 アイリスは自分のことをアーちゃんと呼ぶ、ついでにボクのこともアーちゃんと呼ぶし二人ともを指す場合もある。

 微妙に発音が違うのだけれど今のボクにはアイリスのことは手に取る様にわかる。


(今のは『アイリスもサークラおねえちゃんみたいにお姉さんになる』ってことだね)

 前世でもすごく短い期間だったけれど、聞き分けたものだよ。


(いいよ、弟妹が生まれるまでの残り約半年またボクがアイリスを立派なお姉ちゃんにしてあげる。)

 前世を踏まえてボクが躾けてきたアイリスは、前世同様基本的にはマイペースながらも、ナチュラルに暴力的だった幼少期の気性はだいぶ抑えられていて、安定した癒し系幼女となっている。


 今のアイリスのままでちょっと赤ちゃんへの接し方を教えれば、アイリスは素敵なお姉さんになるだろう。


----


 それからボクたちは3歳の誕生日を迎え、年が明けて2月、予定の通りアニスの誕生日を迎えた。


 今ウェリントン家では出産間近のハンナ母のためにおのおのできることをやるしかないのだけれど。

 子どもにできることなんて限られている。


 ボクは少しは動けるので、前世と同様先ほどまでトーレスとともに近くで湯沸し用の薪集めをしていたのだが、少し薄暗くなってきたので、切り上げて帰ってきたところだ。


 そこでボクたちはあまりに残念な光景を目にしてしまった。


「あぁ・・・まだか?まだか?」

 ブツブツいいながらエドガー父さんが部屋の前をうろついている。


(あぁそういえば前世でもうろたえていたっけ)

「父さんの相手は僕がしておくから、アイラは母さんのところいってあげてよ。」

 トーレスは幼いボクはエドガー父さんよりももっと母が気になるだろうと気を利かせてくれたようだ。


 サークラはアマンダさんの手伝いのため湯を沸かしたり、アマンダさんやハンナ母さんの汗をぬぐったりしていて、アイリスはハンナ母さんの手を握り閉め、「ママがんばって」と声をかけていた。

(これも前世の通り・・・なにかやってあげられることは・・・?)


「アイラ、お帰り。アイリスと一緒にお母さんの手、握っててあげて。」

 ボクが部屋に入ったことに気づいたサークラがボクに母の手を握る様に告げる


「アイラ、お帰り・・・右手が寂しいからうれしいなぁ・・・」

 母はやはり辛そうにしている。

 右手側にはアマンダさんがいるので、ボクは邪魔にならないかどうかだけ確認して、許可が出たので母の手を握った。


 握ったというのは正しくなかったかもしれない、母の手に手を重ねると、逆に力強く握りしめられた。

 少し痛いくらいに握られた手は熱いし、母の脈が伝わってくる。

 母はずっとボクとアイリスに笑顔を向けてくれている。


 心配かけまいとしているが、ボクはもう出産の痛みも体験してきている。

 なんとかしてあげたい、少しくらいならばれないかな・・・?

 前世では受けたダメージを弱める超級複合魔法レデュースダメージは使うことができなかったけれど、痛覚をごまかし緩やかに癒す中級治癒魔法アンチペインはボクでも使うことができた。

 それを使えば痛みを和らげることはできるだろう。


(それくらいならきっと許されるはずだよね?)

 中級魔法であるアンチペインは通常詠唱が必要で、治癒魔法の適正が低いボクは短縮もできないけれど、ボクは祈りをささげる様に母の手を両手で握り締めて誰にも聞き取れない様な小さな声で呪文を唱えた。


 すると、母の手の震えが止まり、痛いほどに握り締められていた手も少し緩んだ。


 そして前世と同じ様にアニスと名づけられるウェリントン家の四女が生まれた


-----------------------

(ハンナ視点)


 突然だがうちの子たちはみんな優秀すぎると思う。


 エドガーも私も、子どもたちの躾けには力を入れてきたほうだけれど、それにしたって長女のサークラからして容姿端麗、礼儀作法も完璧で、字も綺麗だし、知識も下手をすればその辺の大人顔負けの娘になっている。

 将来どこかにお嫁入りさせるために、女としての閨の知識も11歳で女の体になってから、少しずつ教える様にした。


 エドガーが、サークラはどこか街の有力者に嫁入りさせたいといっているので、村からは出すことになってしまうだろうけれど、私が昔住んでいたホーリーウッド侯爵領の都、ホーリーウッドの商人にでも嫁入りさせられたら、きっとこの子は幸せになれると思う。

 そのためサークラには村の男の子たちとの本気の恋愛はしない様に伝えている。

 サークラにはエドガーのいう通り、狭い村は似合わない、広い世界に旅立って欲しい。


 トーレスもエドガーの跡継ぎにするために算術や文字を中心に教え込んでいるが、こちらもなかなかのもので、剣や罠、防衛設備の作り方なんかも教えているのでサークラほど勉強だけに時間を割いてあげられないのだけれど、この子の優秀さも村長で終わらせるのがもったいないくらいで、今同時進行でトーティスに村長代理が務まる程度の教育をエドガーが施している。


 これは、もしもトーレスが村を継ぐことを拒否して出奔してしまった時のために行っていて、村の幹部であるテオロ、ブリス、カルロスと話し合って、当事者には内緒のまま教育を施しているが、おそらく無駄にはならなそうだと踏んでいる。


 そして双子のアイラとアイリス、特にアイラは生まれたときから下の子がいるからなのか成長が非常に早い。

 小さい頃から賢かったサークラですら普通の子どもに見えてしまう様な急速な成長をしていて、まだ3歳だというのに、かなりしっかりした受け答えができ、そればかりかアイリスの躾をしている様に見えるところがある。


 アニスが生まれる前にも、私がつわりで苦しんでいるとお水を差し出してくれて、まだ赤ちゃんのことを伝えていなかったのに、私のお腹に耳を当てて慈しむ様に頬ずりをしていた。


 単に私を心配しただけかもしれない、甘えてみたかったのかもしれない、そうも思うけれど・・・あれは私の胎の中の赤ちゃんを感じ取っていた様な気がするのだ。


 そしてアニスが生まれてから、アイラが毎朝早い時間に夫婦の寝室に入ってきて、アニスのベッドを覗きこんでいるのを私は確認している。

 私が声をかけないのであの子はばれていないと思っているかもしれないが、初めて見た時私は驚いた。

 アニスをかわいがるのは良いけれど、寝ている子を起こす様なことはして欲しくない、まぁそれをしたら叱りつけようかとおもって様子を見ていると、ただ見ているだけで、アニスが寝ているのを確認したらさっさと部屋に戻ってしまうのだ。

 そしてアニスが起きていると、泣かさない様に上手にあやしてくれている。


 そして私が一番驚いたのは、私が目を覚ました時ちょうどアイラが部屋に入ってくるところだったのだけれど、やはりちょうど直前に起きたらしいアニスがグズリはじめていた。

 するとアイラはふわりと軽やかな動きでベビーベッドの上に飛び上がって、どこにそんな力がと思う様な力強さでアニスを抱き上げてあやし始めたのだ。


 3歳児、しかも小柄な娘が軽々と赤ちゃんを抱き上げて、分別のついた年頃の娘の様に赤ちゃんを慈しみ、もう一度眠ったのを確認したら、元の様に寝かし直して部屋を出て行った。


 どうもあの子は魔法が使える様で、しかもあの年ですでにコントロールできているのだ。

 アイラもどうやらこの村にとどまる器ではないと、親バカかもしれないと思うことすらなく信じることができた。

 そしてアイラが村をでるなら、彼女にベッタリなアイリスもきっと村を出て行くだろう。


 そうなると、私が生涯手元に置いておけそうなのは現時点でアニス一人・・・。

 せっかく5人も生んだのに、子どもの出来がよすぎるために寂しい老後になりそうだ・・・。


 アイラが一生懸命に世話をしている以上、アニスも少なくない確率で村を出て行く子になりそうだし

、もう一人くらい作っておいたほうが良いかもしれない・・・

 私の年齢を考えれば結構ぎりぎりだけれど、初産ではないから35歳くらいまでなら余裕で産めるだろう。

 その後はちょっと怪しいけれど・・・。


 今日は子どもたちにどんな成長を見せ付けられるのか戦々恐々としつつ、皿を並べ終わってアニスをあやしていたサークラに、そろそろ双子を起こしてくる様にお願いした。

できる限り3日に1回を下回らない様に進めたいと思います。


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