表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/34

2

『魔王』

 扉の先は深い闇が広がっていた。気を抜けば自分自身さえ見失いかねない空間でただ一人、玉座に腰かける男がいた。男は脚を組み頬杖をつきながら優雅に寛いでいる。二人が近づくと男はゆっくり目を開きながら話し始めた。


「ようこそ、冒険者たちよ。我が城はお気に召して貰えたかな?」


「お前が……」


「挨拶が遅れて申し訳ない。我が名はヨグスト。直にこの世界を統べる者の名だ」


 二人は警戒し武器に手を伸ばす。それでもヨグストに慌てる様子はない。


「下ではキロが世話になったようだな、礼を言おう。奴を超えてくる者は少なくないが連絡が途絶えたのは貴様らが初めてだ。どんな手を使ったかは知らんが褒めてやろう」


「あんな雑魚、門番にすらならねえな」


「ほう、面白いことを言うな小娘。私もそう思っていたんだが、どうやら間違いだったようだ。城を解放したところで来るのは骨のない連中ばかり。暇つぶしにすらならん」


 手の中で杖をいじりながら退屈そうに語る。


「しかし……傀儡(かいらい)としてはどうだろうな?」


 その瞬間、無数の視線が二人に注がれるのを感じ体を震わす。見渡すと真っ赤な双眸と人のような影が取り囲むように現れる。それらは恐怖や無念など様々なものを抱えているが敵意だけは共通していた。


 二人は武器を手に取り戦闘体勢をとる。ナルディはクロイツの光龍槍に違和感を覚えた。


「何してるの? 早く覚醒を」


「……落ちなかった」


「え?」


「最後の素材はない」


「はあ!? じゃあなんでそのまま来たのよ?」


「だってもう一回なんて言える雰囲気じゃなかっただろ」


「だからって――」


「なるほど、私もなめられたものだな。さてどこまでもつのか……見物(みもの)だな」


 ヨグストが杖を軽く一振りすると影に意思が吹きこまれる。影たちは手を天に掲げ(とき)の声をあげた。二人は互いの背中を預けるように武器を構えた。


 影が動き出すのより早くクロイツは構えた槍を特定の手順で振るう。槍の輝きは徐々に強くなり、光は槍先に収束する。(まばゆ)い光は金の龍に姿を変えた。雄叫びをあげ大口を開けながら猛進していき、後方に並ぶ遠距離武器部隊を一掃する。混乱の中飛んできた飛び道具は狙いが定まっておらず簡単に避けられるか、別の影を消していく。


 近接武器を持つ者達も黙っていない。斧や刀、棍棒などそれぞれの武器で攻めかかる。クロイツは槍、ナルディは短剣と各々持前の体術で次々に蹴散らしていく。


 そんな中クロイツに一人の影がまとわりつく。水晶玉を持った魔術師で、自在に火を操る。基本的に槍の攻撃範囲外からしつこく襲い、クロイツが踏み込むと避けるか魔術で防御壁を展開してくる。


「動きが止まれば……ナルディ、氷で動きを止めたい奴がいる。水晶玉の奴だ」


「全く人使い荒いんだから」


 ナルディは瞬時に杖に持ち替えると呪文を唱えた。地面から氷の棘が幾本も出現し近くにいた影を一掃する。それに留まらず氷は大きく伸びていき火の魔術師を取り囲む。中に取り残された魔術師は負けじと氷を熱する。しかし見た目以上に堅牢でそう簡単には壊れなかった。


 ようやく頭一つ分の穴を開けると影は外の様子を伺おうと覗き込んだ。その瞬間クロイツの槍が眼窩を貫き、影は霧散した。


 一方のナルディもすばしっこい短剣使いに苦戦を強いられていた。前方からの連続攻撃を受け流し反撃するが、その刃は届かず空を切る。


「消えた?」


 敵は素早く闇に紛れると次の瞬間には別方向から追撃を繰り出す。常人とは思えない移動速度でナルディを翻弄していた。攻撃はそれ程強いものではないが、単調に繰り返され集中力と体力を奪っていく。


 再び短剣使いはナルディの前に姿を現し短剣を振るう。無音の世界に激しい剣戟の音が響き渡る。一進一退の攻防は僅かなミスも命取りになる程、激化していった。


 だからだろうか、ナルディは背後に現れたもう一人の短剣使いに気付かなかった。じわりじわりと不意打ちを狙いやすい場所へ誘導していき、それに合わせてもう一人も微妙に位置取りを変化させる。その様はまるでお互いが意識を共有しているかのように一糸乱れぬ連携だった。目の前の敵に気を取られ彼女の背中は完全に無防備だ。


 背後の短剣使いがナルディの首筋に刃を振り下ろす。その瞬間クロイツの弓から放たれた矢が的確に短剣使いのうなじを貫いた。制御を失った凶刃は空を切る。もう一人の影も動揺した隙を突かれ塵と化す。



「凄い、これだけの人数相手に……」


 女は食い入るように二人の戦闘を見ていた。対してユキはモニターから離れた場所で退屈そうに見つめていた。


「まだだ、この程度じゃ」


 男はちらちら戦況を確認しながらチェスの駒を動かしている。戦力差は五分五分だった。



「倒しても倒しても」


「どんだけ出てくんだよ」


 次々に影を倒していくが、その数は一向に減らない。寧ろ増殖する方が早く辺りは影に埋め尽くされた。


tips


ラウラ≪炎≫:火の力を内包した水晶玉。火山内部で発見される。


パヒ・マハナ:ランガーの一対の牙を加工した双剣。双剣としては重く機動性に劣るが、強烈な一撃が繰り出せる。

ありがとうございました。

あと4。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ