楽園の守護者
戦闘描写ネタ切れです。
しょぼかったら申し訳ありません。
八時少し前、太陽が登り始め空が色を取り戻す頃、洞穴の中で三つの人影が動き出す。外は標高と夜の名残で肌を刺すような寒さだ。
「ここから三十分ほど登った頂上がボス戦のステージだ。マグマの影響でかなり暑くなってる。ボスは空を飛ぶ厄介な奴で遠距離武器が有効だ。クロイツはライフルがあるが……」
「水系の魔法が使えるわ」
「水は相性悪いんだよなあ……なら役割分担しよう。クロイツは攻撃、ナルディはサポートだ。注意する攻撃は二つ。まず尾の叩きつけは当たると面倒だが予備行動も大きい。降下姿勢を取ったら気を付けろ。厄介なのは羽根だ。戦闘中に抜け落ちたやつがふわふわとその場に留まり突然襲ってくる。ナルディは攻撃の予兆を感じたらなるべく水で障壁を張るんだ。何か質問は?」
「どんな敵なんだ? 尾と羽根? 鳥なら普通鉤爪とか嘴とかだろ」
「鷹の上半身と獅子の下半身を持つグリフォンさ」
*
頂上は火口に向かってなだらかな傾斜になっていた。ドーナツ状に形成された陸地とぽっかり開いた穴からはマグマが覗いている。モトナフを一人頂上の縁に残しクロイツとナルディは戦場へ降りていく。
『天上の楽園ボス、ガランデとの戦闘を開始します』
ピュロロロロ――。
甲高い鷹の鳴き声が山頂に響き渡る。二人は素早く戦闘態勢を取るが敵の姿は見当たらない。マグマが湧きたつ音に紛れて何かが風を切る音が近づいてきた。
「気を付けろ! 二時の方角だ!」
空高くを舞っていた巨大な影は突如角度を付けて急降下してくる。咄嗟に避けたクロイツのすぐ頭上を鋭利な鉤爪が掠める。ガランデは優雅に翼を動かしゆっくりと着地した。
金色の体毛は柔く風に靡き、純白の翼は陽光で輝きを放っている。神々しさを放つその美しい姿は見るものを魅了し、そのまま手なずけてしまえそうな錯覚さえ覚える。しかし殺意に満ちた眼光がその考えの甘さを露呈させる。
うっとりと立ち竦むナルディに向かってガランデは駆け寄り腕を振り上げた。クロイツが咄嗟に放った矢は肩に深く刺さる。バランスを崩したガランデはよろけて勢いを失った。
「ぼさっとするな」
クロイツは斧を構え駆け出した。ガランデもクロイツに狙いを定め、突進していく。頭部目掛けて振り下ろされた斧を翼で受ける。衝撃で抜け落ちた羽根は何かに導かれるように遥か上空へと舞い上がった。しかし攻撃は上手く届いていなかったのか、ガランデはすぐさま反撃に出る。前足ではたかれたクロイツはボールのように転がっていく。
その隙に短剣を携えたナルディが背後から素早く忍び寄る。そして音もなくガランデの背中に飛び乗ると短剣を突き立てた。
ピギャーピギャー。
喚きながら翼をばたつかせ、暴れ牛のように踊り狂う。しがみつき追撃の機会を伺っていたがやがて衝撃に耐えられなくなり投げ出された。
「こっちだ、でかぶつ!」
クロイツはガランデの気を引こうと声を張り上げる。しかしガランデはちらっと振り返っただけでナルディに向かっていく。
「あの野郎……」
「クロイツ上だ!」
斧を握り直し駆け出したクロイツにモトナフが警告する。クロイツに向かって羽根が猛スピードで降り注ぐ。聞こえなかったのか反応できなかったのか羽根は鋭利な刃物のようにクロイツの腕や脚を切り裂いた。皮膚を伝う生暖かい感触と遅れてやってきた激痛に膝を付く。
ナルディは短剣を構えながら応戦するが、左手を挫いたようでだらりと垂らしていた。攻撃を躱したり、武器でいなしたりする度に苦痛で顔が歪む。防戦一方でじりじり後退を強いられる。
クロイツは手早く応急処置を済ませると再び距離を詰め、渾身の力で斧を投げつける。それに気付くとガランデは翼で顔を覆うように防御姿勢を取った。斧は翼に阻まれダメージを与えることはできなかったが、クロイツはがら空きになった腹を剣で切りつける。身もだえする獣を横目にナルディに回復薬を投げ渡す。
「接近戦は危険だ。奴が地上に居る間は注意を向けられてない方が少しずつ攻撃していこう。幸い防御力は低いみたいだ。攻撃さえもらわなければなんとかなる」
ガランデのHPは既に五分の一程減っていた。体勢を立て直した二人はそれぞれ別の方向に走りだした。連携したクロイツ達にガランデは成す術なかった。攻撃対象には守りを堅められ、死角からはもう一人が攻撃を加えてくる。尾や羽根での反撃はワンパターンで予兆や音に注意を払えば、そこまで苦労しない。
ガランデは翼で突風を巻き起こし二人と距離を作る。そのまま助走を付けると大空へ飛び立った。ステージ上空で円を描くように滑空している。クロイツは銃を構え、ナルディは魔法で球状の水をいくつか展開させた。
スコープを覗きガランデの進行方向側へ少し照準をずらす。放たれた弾丸は吸い寄せられるように敵の体内へ消えていった。急激に体力を奪われ飛行はふらふらと安定しなくなってきた。攻撃に専念し無防備になったクロイツ目掛けて羽根が降り注ぐ。ナルディはそれに気付くと軽く杖を振り詠唱した。
「ラプル」
瞬時に水の球体は集まり二人を護る傘のように頭上へ広がった。勢いを殺された羽根はそのまま地面へと落ちる。水の傘は役目を果たすと再び元の姿へ戻った。二人の構えは盤石で戦況は一方的だった。
ナルディが再び頭上に防御壁を展開した瞬間、ガランデは翼を畳み急降下し始めた。不意をつかれ反射的にガランデの方向へ修正するが、耐久力は不十分だった。障壁をものともせず突破するとそのままクロイツの体を鷲掴みにし、着地の緩衝材とした。同時に天を舞っていた羽根はナルディに襲い掛かる。ガランデの攻撃力は高くHPは半分ほど削られていた。
一転し今度はガランデが攻勢に出る。無防備なクロイツに翼や嘴で攻撃を与える。それを見たナルディはガランデに向かって杖を振るう。すると地面から巨大な水壁が出現しガランデを水圧で押し流した。ナルディは駆け寄り手当を施す。体力はギリギリまで減っていたが何とか体勢を立て直した。
「すまない、助かった。だがあと少しだ。このまま押し切ろう」
――あと少しだな。最後まで気い抜くんじゃねえぞ。
誰かの声が、古い記憶がガランデの中で木霊する。
――あと少し、これで最後。もう少し、あとちょっと……だったのに。
アトスコシデエエエエエエエエエ!
突如響き渡る雄たけびに三人の視線は惹き付けられる。翼を広げ天を仰ぐガランデに異変が起き始めた。金色の体毛は淡い緑に変わり、純白の翼は漆黒に塗りつぶされる。
「『変態』か!?」
慌てる二人を後目にモトナフの脳裏にはある鮮烈な記憶が呼び起されていた。ガランデの姿はかつての戦友が愛用していた防具と瓜二つだった。
「お前……まだそこに居るのか……?」
ウウウウォォォ。
低い唸り声を挙げ、足で地面を踏み鳴らす。眼には殺意が宿り見るものを畏怖させる。考える前に体が動いていた。モトナフは斜面を駆け下りながら使えるユーザーデータを探す。
「クロイツ! 俺にも武器を貸せ」
「は? でもお前――」
いつになく真剣なモトナフをみて、それがただの手助けや冗談でないことを悟った。
「はいはい、仰せのままに」
クロイツは先ほどまで使っていた斧を投げ渡し、弓を構える。受け取ったモトナフは思わず笑みがこぼれた。
「ふっ――何の因果だか」
「来るぞ! 構えろ!」
ウォォォォォォ!
死闘が幕を開けた。
tips
エーミュル・ツヴァイン:堕天使の双角を削り出した双剣。刀身は黒くどれだけ使い込んでも変色することはない。
防具『ステュク』シリーズ:鮮やかな緑色を基調とした防具シリーズ。遠距離攻撃に対し高い防御性能を発揮する。
ありがとうございました。
tipsは後で付けます。
次話は未定ですが上半期中の完結を目標に。