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D・ブレイク ~運命が変わる時~  作者: アイq
3章 瘴気の洞窟
20/34

秘薬

22/10/30修正


2章『NPC』内で「テンプレ以外聞いたことない」という部分を「抽象的なアドバイス聞いたことない」に修正しました。内容には影響ありません。

「ふざけた野郎だったぜ」


「そうだな。だが嘘はついてない」


 二人は湿地帯を歩きながら言葉を交わしていた。


「本当か?」


「普段は城で待ち構える魔王前の中ボス的な存在だ。プレイヤーの心を読むことで優位にたつ。苦手なもの、トラウマ、欲望。その手の(たぐい)だ」


「それで俺の嫌いな蜘蛛の選んだのか」


「そうかもな。城についたプレイヤーのほとんどは突破できず、魔王に会うことすらできず退場を余儀なくされる。時間や装備と併せてこいつも攻略を難しくしている要因だな」


「そんなに強いのか?」


「逆さ、プレイヤーが弱すぎるんだ。目先の利益や自分のことしか考えてないやつは術中にはまってやがて自滅するらしい。俺も実際にみたわけじゃなねえから何が起こるかわかんねえけどよ。まあ今はそんなこと考えても仕方ない。最後の素材が手に入らなきゃあいつを突破したところで打つ手なしだからな」


「今日はここまでにするか、また適当に時間みつけて進めておくよ」


「なあ、あんた。どうだい、みていかないか?」


 別れようとした二人に聞き覚えのある声がかけられる。声の方からはフードを黒い目深に被った男が一人腰かけていて、目の前には様々なアイテムが並べられていた。ニークであった行商人のNPCだ。


「道具屋か……まあ確かにボス戦で回復薬や解毒剤なんかは減ったが、すぐに必要になるわけじゃないから今はいいよ。それより早く寝たいんだ」


「なんだ、あんた駆け出しか? 消耗品専門にしかあったことねえのか。そっちの方が需要はなくならないから安定した商売だが、単価が安くて利益も少ねえ。俺は珍品専門だよ。レアな武器に防具、果ては覚醒素材まで。掘り出し物もあるかもしれねえぜ」


 そう言われよく並べられた商品をみてみると、見たことない弓や杖、指輪などが並べられていた。中には光龍槍の覚醒素材も並んでいた。


「確かにNPCは売るもので分業されてる。この手の行商人は数が少ないから確認しておいて損はない。まあ法外な値段がつけられてるから十中八九買えないと思うが、見るだけならタダだからな」


「みるだけならタダだぜ。因みに所持金はいくらだ?」


 クロイツは近づき目ぼしいものがないか見ていく。しかし一番安いものでもボス級モンスターをあと三十回は倒さないと手に入らない金額で、とても買える気がしない。


「いや、桁が一つ違うな。残念だけど」


「何? ここまで旅してきて買えるものがない? まさかあんたPK(奪い合い)してきてねえのか?」


「ああ、そもそも他のプレイヤーにほとんど会ってないから」


「はあー、あんた絶滅危惧種だね。まあいいや、金持ってないっていうんだから仕方な――」


 NPCがクロイツの顔を見つめて固まる。


「あんたもしかして一週間くらい前ニークに居たか?」


「うん? まあそうだな。そのころ丁度ニークに居たな」


「そこで行商人に会ったか?」


「そうだけど、なんだよ」


「ああ、やっぱりそうか。運がよかったな、方々探し回った甲斐があった。ちょっと待ってろ」


 そういうと行商人はバッグの中を探り始めた。並べられたもの以外にもかなりの商品があるらしく、辺りはアイテムや武器でいっぱいになる。これなら一つくらいなくなっても気付けないだろう。


「うーん、どこに仕舞ったかな? 絶対に無くすはずないんだが……あ! そうだこっちに入れてた」


 今度はコートの内側に手を伸ばす。そしてゆっくり取り出した手の中にあったのは、小さなハート型の瓶だった。中はピンク色の液体で満たされている。


「あんた、これが何かわかるか?」


「いや、初めて見るな。なんかの薬か?」


「ああ、いい線いってるぜ。でもこいつはただの薬じゃねえ。復活の秘薬と呼ばれるレアアイテムだ」


 クロイツはモトナフを振り返り『本物か?』と首を傾げる。


「実際にそういうアイテムは存在する」


「これはどうやって手に入れたんだ? それに本物なのか?」


「なるほど、俺を疑ってるな。いい心がけだ。まずこのアイテムはシーラビリンスのボス、アークドラゴンのドロップアイテムだ。確率は千体倒して、一本手に入るかどうか。この世界で最もドロップしにくいアイテムの一つ。これを手に入れたプレイヤーはただ運がよかっただけだ。だけど自分は死なない自信があるからと強化の秘薬との交換を持ちかけてきた。こっちは輪廻山のボス、フェーニックから同じ確率でドロップする。たまたま在庫があったから取引に応じた。本物かどうかは俺を信じてもらうしかねえが、どうしてもって言うなら少し試してみたらいい」


 そういうと行商人は何の躊躇もなく小瓶を差し出す。


「そこらのモンスターに使ってみたらいい。ポリゴンが消えかけているとき二、三滴で十分だ。あんまり使いすぎていざという時効果がなくても知らねえからな。それと変な気を起こさないように。あんな目に合わせたくねえからな」


 にっこり哂う行商人に背筋が凍る。小瓶を受け取り観察しても特に変わったところはなかった。クロイツは行商人から少し距離を取った。


「どう思う?」


「妙に都合のいい話だとは思うが間違いはない。後は実際に使ってみるしかねえな」


 クロイツは湿地帯を歩き適当に接敵する。相手は大きな蛙のような見た目でよくいる下級モンスターだ。何発か攻撃を通すといつも通り経験値取得とポリゴン化の処理に入る。その間に小瓶の中身を二滴落とす。すると瞬く間に元の姿へ戻っていき再び戦闘が始まった。もう一度倒すとやはり正規の処理が行われた。


「十中八九、本物だろう。これで偽物だったら運のない自分を恨め。問題は値段だがな」


 クロイツ達は再び行商人の元へ戻ってきた。


「本物だったかい?」


「ちゃんと復活したよ。それでこいつをいくらで俺に売ろうっていうんだ?」


「いやいや、さっき話しただろう。値段の付けられないものだから物々交換したんだよ。つまり俺はあんたの持ってるある武器が欲しい」


「光龍槍のことか。それならこの話はなしだ。確かに魅力的な薬だが、あれがなくちゃ――」


 クロイツの言葉を遮るように行商人が笑う。


「どうやら何か勘違いしてるみてえだな。確かに光龍槍は珍しい逸品だ。でも秘薬程じゃない。全ボスから落ちる上に二百体に一本程度。レア武器専業なら常に二、三本は在庫を抱えてるだろうし、俺も一本持ってるぜ。まあ一部のプレイヤーから熱狂的な需要があるから値段も張るがな」


 取り出した光龍槍の値段を見ると周りのものよりゼロが二つ多かった。


「じゃあ一体何が目的だっていうんだ?」


「ほんとに何も知らないんだな。単刀直入に言おう、青銅の剣と交換してほしい」


「この剣とだって?」


 クロイツは衝撃で一歩後退る。腰に帯剣したこのボロボロの剣にそこまでの価値がるようには思えなかった。


「いいか? その武器はこの世界において唯一どの敵からもドロップしない武器だ。出発式で極々稀にそいつは姿を現す。そして他のどの武器でもなく、それを選ばない限り再び姿を消してしまう幻のような武器。それ以外のすべてを揃えたコレクターが世界に何人居ると思う? 三百二十二人だ。こいつらは目の前に剣があれば、耳から手を生やしてでも自分のものにするような奴らばっかだ。だけど適切に処理されなけばあと二週間もしない内に消滅する。次に現れるのはいつかわからない。次のイベントか、はたまた五百回先か。状況がわかったか?」


「俺は……どうしたらいい?」


 思いがけない取引内容にクロイツはただただ混乱していた。


「この秘薬はもう先客が決まってる。それ相応の理由がなければ信用問題に関わるから、俺との取引はこれがラストチャンスだ」


「お前が決めろ。こんなの正解なんてわかるはずがない」


 クロイツは選択を迫られた。


交換する 目次から 選択肢4 へ

交換しない 目次から 選択肢5 へ

多分最後の分岐です。

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