NPC
本編ですが短めです。
「それで次はどこに行くんだ?」
始まりの森攻略から数日後、クロイツとモトナフは今後の予定を確認していた。
「素材をドロップするボスは毎回ランダムだからな。図鑑から光龍槍を調べてみろ」
クロイツは言われた通り図鑑を開く。そこにはモンスターや武器、ダンジョンなどが分類されて載っていた。光龍槍にはこう書かれていた。
純真石……デピサー(瘴気の洞窟)
赦しの十字架……クォール(荒廃都市ニーク)
洗練されし果実……ガランデ(天上の楽園)
「まあどれも難易度としてはそこそこだな。マップも広げてみてくれ、ルートを決めよう」
今居る始まりの森を中心とした周辺の情報がわかる。様々なダンジョンに混じり目的の名前をみつける。それらは森を取り囲むように配置されていた。
「一番近いのは北にある楽園みたいだがここから向かうか?」
「いや、ここは最後だな。このゲームで重要になるのは移動時間だ。一か月のうちにいくつものダンジョンを回り、ドロップ状況によっては周回も必要になるからな。だから最終目的地である魔王城にも近いここは最後になる。まずは東にある都市、そこから南西の洞窟、楽園、城という攻略順だな」
説明しながらモトナフの指先は地図上をアルファベットの『G』を描くように滑った。
「なるほど、確かにな。そっちの方がいいかもしれん」
こうして二人は荒廃都市ニークへと歩みを進めた。
*
いつの間にか辺りから緑はなくなり、一面の砂が支配する砂漠へと変貌していた。照りつける太陽に体力を奪われながら重い足を前へ踏み出す。先導するモトナフは時折振り返りながら歩調を合わせた。
「大丈夫か? 仮想現実だから暑さで死ぬことはないが、感覚は現実そのものだからな」
「……結構きついな、少し休まないか」
「この砂丘を登りきればもう目の前だ。日陰が多いからそこに入って休んだほうがいい。ほら行くぞ」
丘の上から都市の全容が明らかになる。突然砂漠とは不釣り合いなビル群が現れた。上半分が倒壊し鉄骨がむき出しになっているもの、隣のビルにもたれかかり辛うじて立っているもの、所々割れて鋭利なガラスが残っているもの。どれも建物としての役割は果たしいていないが、過去の栄華を伝えるには十分だった。
「何度来ても慣れん、なんだが人類の未来をみているみたいでな。早いとこ終わらせよう」
二人は適当な日陰に入り休息を取った。頃合いをみてモトナフは説明を始めた。
「ここのボスは地下にいる巨大蛇だが、詳しいことはまた近くなったら説明しよう。まずはその地下に行くための巨大エレベーターを作動させるための電力供給から始めるんだ。このビルの中から屋上にソーラーパネルのついてるやつを見付けて、バッテリーに充電する。そいつを六つ集めたらボス戦といこう」
クロイツ達は早速ビルの調査を始めた。登っては降り、登っては降りを繰り返す根気のいる作業だった。それでも電力の生きている所は多く、バッテリーが荷物を占領するまでそう時間はかからなかった。時々出会うモンスター達は機械化されていた。人型や動物などのアンドロイドだ。
「森とは随分雰囲気が違うな」
「そりゃ砂漠だからな、普通の生物じゃなかなか適応できないだろ」
バッテリー集めも終盤に差し掛かった頃、とあるビルのフロアでクロイツはふと何者かの気配を感じ取った。そちらに視線を移すとローブを羽織った人のようだった。フードを深く被り口許しか見えないがこちらを見ているようだった。
先の戦闘もあり無意識に剣へと手が伸びる。それでもローブの人間は静かに佇んでいるだけだった。後から付いてきていたモトナフもその異変に気づいた。クロイツの視線を追い人影を確認するとその正体に安堵した。
「大丈夫、そいつは行商人のNPCだ。行って取引してもらおう」
クロイツが近づくとローブの人間は少し顔をあげて答えた。
「いらっしゃい、何か入用かね?」
そういうとクロイツの前にショップ画面が現れた。HPやMPの回復薬、武器や素材などの隣に金額を示す数字が並んでいた。特にめぼしいものはなく、回復薬を数本ずつ購入した。買い物を終えたクロイツの背中に行商人が声をかけた。
「あんた、いいもん持ってんな。大切にしろよ」
「どういう――」
クロイツが振り返ると行商人はビルの端から飛び降り消えていた。
「たぶん光龍槍のことだが……あいつ俺の持ち物までわかるのか?」
「さあな、あんな抽象的なセリフ聞いたことない……なんかお前と居ると初めてのことばっかだ」
その後も難なくバッテリーを集め終えると、巨大エレベーターに差し込み扉が開いた。それに乗り込むと扉は閉まりゆっくりと下降を始め、二人を地下へと誘った。
tips
ヒュール:人型のアンドロイド。胸の辺りにあるバッテリーが弱点。
ロギー:犬型のアンドロイド。素早い動きで飛びかかってくる。足を狙うのが有効。
ありがとうございました。また近いうちに更新します。