第四話 異端者 中編
風紀委員会と対立していた厚生委員会は遂に念願の番長グループ壊滅という大役を勝ち取る。
戦闘向きではない厚生委員会が武闘派番長グループを根絶やしにし、いかに厚生委員会が優秀であるかを知らしめるのだ。
永遠に続くと思われた深い闇の先に一筋の光明が見える。その弱々しい光は次第に強くなっていき・・・
「おい、おい聞いているのか兼田」
はっと我に返る。さっきまでのは夢か?
「ワりぃ最上、ぼーっとしていた。で、何の話だっけ?」
「は~全くしっかりしてくれよ、だから何度も行っているように番長たちには手を出すなって言ってるんだよ、いくらおまえが喧嘩好きでもな」
そうだそういえばそんな話をしていた気がする。よくは思い出せないが、そんな話をしていた気がする。
確か番長グループの奴らは超常的な力を隠し持っていて関わるとまず、ただでは済まないという話だった。
「でもよぉ、最上その超常的な力っていわれても何が危険なのかわからないだろ?もっと詳しい情報はネェのか?体が水になるだとか、竜巻を起こせるとかさ、そういったのがわかれば具体的に気をつけれるのによ」
ん?何か今実際に映像が浮かんだがあれは何だったんだ?妙にはっきりしていたが?何かの映画のワンシーンだろうか?
「・・・・・・」
?どうした異様に沈黙が長いな。こいつがここまで長い間沈黙し続けるとは珍しい。
そう思っていると少し俯き気味に何かを考えていた最上は急にこっちを凝視する。少し気味が悪い。
「兼田!!お前はいったい何度言えば理解できるんダ?手を出すなといったら絶対に手を出してはいけないんだ。それと<超常的な力>だと?俺はそんなこと一言も言っていないゾ!適当なことを言っていないで少しは人の話をよく聞けっ!」
ど、どうしたんだ最上?お前は確かに怒ることはよくあるがこんなにヒステイリックにぶち切れる奴だったか?
おかしい。最上だけではなく、先ほどから妙に人が多い。まるで何かのギャラリーのように人だかりができている。しかもソイツらは口々に俺の先ほどの<超常的な力>という発言に対してバカにする発言をしている。
周りから悲鳴が聞こえる。しかしそれも仕方のないことだ。■■の●●からは▲が溢れだしている。
なんだ?頭が・・・痛い・・・何か重要なことを忘れている気がする。
とりあえずここから去らなければ・・・。
「おい、どうした?さっさと帰るぞ兼田」
何を言っているんだいまは登校中だろうが。
「まだ授業も受けていないだろうが、何をさっきから訳の分からないことを言ってるんだ」
次第に周囲の建物が崩れ始める。一体俺は何を見ているんだ?
「いいから帰るんだ!お前は授業を受け、ソレが終わったから今から帰宅するんだ何もおかしいことはない。お前は今日竜二とは戦わなかったし、腹部に風穴もあけられなかった。そうだろ?」
っう、おかしい何の矛盾もない。俺は今日普通の学校に行ってふつうに帰宅している。何もおかしいことはない・・・ならば、ならばなんだというのだ、この違和感はこの頭痛と吐き気はっ!?
最上の表情を見るとどうみても見知った顔ではない・・・。いや、最上はこんな顔だった気もする・・・どうなっているんだ?
右腕に強い衝撃を感じる。この心地よい感覚は間違いない、ムカつく奴を殴ったときの感覚だ。
ガフっと殴られた相手はうめき声を上げながら倒れる。
周りには時運を囲むようにして複数人が取り囲んでいる。
「この人数で技をかけても打ち破るとは。流石に生身で異端者を打ち負かしただけのことはある。この化け物め」
周りの数人は先ほど発言した男の方を見て判断を仰ごうとしている。男は軽くてで会い図を送るとそれを合図に全員が立ち去った。
どういうことだ・・・あいつ等一体何者・・・。
「一体お前はどれだけ人を驚かせれば気が済むんだ?」
今度は間違いないこの見知った声。
「最上!お前は最上だ!」
最上は少しキョトンとした表情だったが、直ぐにそうだよと言いながら笑顔で腹パンをかましてくる。完全に不意打ちだったため思わず膝を突く。
「ってぇな~」
最上はシャドーボクシングをしながらあいつ等と比べりゃへなチョコだろなどと言ってくる。全くふざけた奴だ。
<力>を持っていない相手に力を使うとは全く持っておバカな人です。所詮はただの低脳集団だったというわけでしたか。しかし一年の兼田とかいうやつ・・・意外と使えるとよいのですが・・・まぁ、これからの番長討伐にとことんつきあっていただかないといけませんねぇ・・・。
まぁ、なんにせよ伊勢垣会計がやっと動き始めた時にこう言ったことが起きるとはまったく運がいい。
いや、執行部が動くのがもっと早ければこんなことにはならなかったのです!一般生徒に被害がでるような状態は決して作ってはならなかったのですから、我々厚生委員会は今までずっと会議で番長一派の危険性に問題提起し続けてきたのです。それを各階議であの会計委員が握りつぶしてきたからこそ執行部は今まで行動を起こさなかったのです。これは伊勢垣の職務怠慢です。
これが終わった先には奴を弾劾しなければいけません。そして次席はこの私が座るのです。
配置は完成した問題は番長をどう片付けるかですが・・・やはり奴との先頭を極力避け続けて残りの構成員を全滅させれば奴も観念するだろう我らガーディアンにたてつく異端者共を我々の手で更生させるのです。
副委員長が私を呼ぶ声がする。作戦の合図を求めているのでしょう。
今夜で番長グループなどという集団は隆上高校から消え失せるのです。
「総員に作戦を実行させろ」
私は手を開きながら腕を突き出すと同時に号令をかける。
だが副委員長には動きが見えない・・・何か言いにくそうにしているが・・・一体?
「沖弥厚生委員長、準備は出来ておりますかな?執行部から風紀委員を数人連れてきました。好きに使っていいとのことです」
伊勢垣っ!なぜここに・・・いや、執行部内ではこいつが今作戦の発起人ということになっているのか、だとすれ現場にでてくることは寧ろ・・・。
「ふんっまた得意のだんまりですか。そうやって困ったときに口を噤むのは<意見がない>だけでなく<無視をしている>ととらえられても仕方がないのですよ?」
伊勢垣は微笑を浮かべながらそういい、少し屈みながら首を斜め下に捻りこちらの様子をうかがったいる。
っく、こいつ・・・。去年の映像が浮かび上がる私と伊勢垣は去年執行部役員の席を狙って選挙をした。そして私はほかの数人とともに敗退し、苦し紛れに厚生委員会で委員長をやっている・・・。
「いえ、もう作戦は現戦力で出来上がっています。付け入る隙はありません、彼らには返っていただいてもらって結構です」
ふざけるな誰がお前の施しなど・・・。
「おいおい、せっかくこんな時間まで残っといてパーティに参加できないのか?そりゃネェよ」
こいつ・・・役員でもないくせに。
「黙れ、風紀委員!会議に入ってくるな!」
もういい、とっとと始めてこいつらの評価を修正してやる。
「火藪!合図は出したか?日付をまたぐ前に終わらせるぞ」
火藪副委員長の号令と同時に作戦が開始された。
厚生委員会が番長グループを包囲する数時間前、本校舎屋上。
重塚延瑛が独り運動場を屋上の壁にもたれながら眺めている。
一歩一歩が重たい・・・しかし伝えなければ。生徒会が合図を出したということは遅かれ早かれ俺たちは壊滅させられる。どれほどの知略を巡らし、善戦しても結局すべてが無駄になる。バックのガーディアンの存在で。
いつからか、<制御棒>が巷で流通しだして一般人に多くの被害者が出始めてから自然にできた<奴等>は一般人からそういった能力を持つ物を排除していった。
逃れる術は<制御棒を献上し能力を捨てる>問題外。<奴らの参加に下る>奴等の偽善とつきあうのなら死んだ方がましだ。そして最後に<アンチガーディアンに参加する>か・・・実際のところ多くの能力者が最後のアンチガーディアンと道を共にすることを選んできた。
だが、番長はこれを良しとはしなかった。それはプライドからか、それとも得体の知れないアンチガーディアンなる物に入り、自分たちが変わってしまうことをおそれているのか、俺にはわからない。
だがこの選択はこうをそうしたといえるだろう。
生徒会はガーディアンの中枢として現在多くのアンチガーディアンを潰してきた。一時はガーディアンの三倍の戦力とも言われていた彼らだが、現在ではほぼ同数となっていた。
アンチガーディアンと同調しなかったことが逆に我々の命を長らえたのだ。
しかし、今となってはもう・・・。
「ワリィ・・・重塚・・・」
延瑛はゆっくりこっちを振り返る。その目は覚悟の決まった漢の目であった。
「謝るな志雄太。お前には生徒会に入ってもらいいつも危険なことをさせてきた」
お前の生徒会での諜報行為はもういいと、延瑛は続けた。そしてこれからのことは俺たちでやると言って延瑛は屋上を後にする。
俺たちとは<能力>を保持している番長グループでも数人の人間でということは分かった。
確かに能力者と一般人とでは力の差は歴然である。
自分にはなに模できないと云う歯がゆさが重くのしかかる。
とりあえず帰ってからこれからのことを考えることにしよう・・・。
足取りの重い志雄太をよそに延瑛の覚悟は決まっている。
奴らが動くのは今日だ。
厚生委員会への対応はできるが問題はあの風紀委員会だ・・・。あの副会長の直轄部隊を相手にどこまでできるか。
いや、やるしかないのだもともとガーディアンにはいらないと云うことは遅かれ早かれこうなることは覚悟の上だった。
終わらしてやる。
日付の変わる頃にもなると昼間は騒がしい校舎も静かなものである。
唯一聞こえてくるのは自らの鼓動のみ。
おちつけ、番長グループを討伐する準備は出来ている。そもそも自分が担当する相手は校舎に残った番長グループの内唯一の非能力者である二年の蔭山だ。
同じクラスとはいえ全く印象のない相手だが、大義のために死んでもらう。
臨時参加の元木は恐る恐る相手との距離を積めていく。
臨時参加とはいえ一年から厚生委員として働く元木にとって拘束術は慣れたものであった。厚生委員長から借りた借り受けた手錠を使い問題児どもに対応をしてきた。
しかし、番長グループのような大物を相手にしたことは未だ無かった。
(よ、よしこの距離ならいけるはずだ)
元木は手にした手錠を掲げながら文言を唱える。
「呪錠解放ーーー正の権化よその身を鎖に宿し逆賊を繋げ」
すると鎖は黒い霧状の物質になった。
「ん?どこにいった」
あたりを見渡す元木だったがもうおそかった。
元木の頭を蔭山の蹴りが炸裂する。
「厚生委員ってのはこんな間抜けでも成れるもんなんだ」
元木の始末をつけようとする蔭山。
(ど、どうしよう。殺される・・・やっぱり無理だっったんだ。俺が番長グループの相手なんて)
胸ぐらを捕まれた元木はとうとう目を瞑る。
(終わりだもう・・・なにもかも)
蔭山がとどめを刺そうとする瞬間、奇跡が起こった。
蔭山の体を黒い霧が包んだのだ。
先ほどの自分の拘束術が発動したのかと思った元木だったがすぐに違うことを知る。
「せ、先輩」
元木を救ったのは運などではなく、三年の氏原だった。
「助かりました。でもこれ最初から僕でなくて先輩がやればよかったですよね?」
氏原に冗談っぽく尋ねる元木だったが、氏原は答えない。
「よくやった元木。これで我々の勝利だ蔭山だけは何の能力者か分からなかったが、この通りただの勘のいい一般人だった。帰るぞ」
妙に楽観的に氏原は発言した。
しかし氏原の顔には楽観的な表情はない。
それを妙に思った元木の質問を無視する氏原は配置につく。
深い混沌の中に蔭山は居た。意識を取り戻した蔭山はまず自分の手足の有無を確認する。
「何処だここは?というかさっきまで何をしていたか思え出せないんだが・・・どうなっている?」
蔭山の様子がおかしいのは戦闘によるものではなかった。
厚生委員会使用するこの術に全ての原因があった。
沖弥厚委員長の能力の根底に有るのは「拘束」と「洗脳」である。
素行の悪い人間を捕まえ、矯正する。風紀委員とは違い、よりよい環境を津切っていくための教育を行うのが厚生委員会である。
「頃試合を始めさせろ」厚生委員長の沖弥が合図を送ると拘束した番長グループをそれぞれ四・五人の厚生委員ご取り囲み洗脳術を執り行う。
勝利の余韻に浸り始めている沖弥の後ろで風紀委員の連中がニヤニヤ笑っている。
厚生委員の失敗を待ち望んでいる風紀委員を後目にこの場にいる厚生委員の全員が今回の任務の完遂を確信していた。
厚生委員の術の根底にあるものは「拘束」と「洗脳」であるが、何もそれしかできないわけではない。
洗脳によって記憶の改竄が出来るように、幻術にかけることも出来る。
また、拘束術による黒いもやから作り出した牢獄と牢獄をつなぐことも出来る。
直接の戦闘力を持たない厚生委員はこの凡庸性に優れた術によりこれまで任務を完遂させてきた。
そして今日も彼らの計画は完成した。もはや番長グループが何をやろうと関係ない。
番長グループで最後に拘束された蔭山は意識がはっきりとしないままさらなる混乱に陥る。
光のほとんどない暗闇の中蔭山を何者が襲っている。
「そうか、俺は確か厚生委員の奴らに拘束されて・・・」
抑揚の無い蔭山の独り言は少しずつ現状を整理していく。
「とすれば・・・コイツは厚生委員か」
相手からは蔭山の姿が見えるようで翻弄される蔭山。
しかしそんな中で蔭山を相手の動きのパターンを読み攻撃をかわす。
「なかなかしぶといですね彼は。流石番長といったところでしょうか」
火藪に声をかける沖弥はそれでももうじき番長グループが終わることを確信していた。
「?また蔭山が一方的にやられてますよ。やっぱり疲れたんでしょうねぇ」
火藪の言う通り蔭山の動きが止まった。
蔭山の相手が背後をとり止めを刺す。その両腕には先ほどまではなかった巨大な剣が握られている。その剣を振り上げ、今まさに振り下ろす瞬間反転する蔭山。
蔭山は反転すると同時にしゃがみこみ、全身をバネを最大限生かし跳び相手の腹に一撃を与える。蔭山は着地と同時に相手の軸足を回し蹴りすると相手を転倒させ、武器を奪う。
蔭山が奪った剣で相手を始末すると周囲に漂っていたもやが晴れる。
「ぁぁっああああああ!」
叫ぶ蔭山。それは勝利の喚起と言うよりは絶叫のようであった。
「っば、番長!!!!」
蔭山の前には番長の重塚 延瑛が倒れていた。その体には巨大な剣が刺さっている。
ただ、周囲の人間は安堵の表情を浮かべる。
蔭山は確かに格闘のセンスがあるようだが番長と比べれば大したことはない。実際蔭山が勝てたのは重塚が他の番長グループと戦わされていたからだ。後は鎖でも巻き付けて洗脳するなり撲殺するなり自由だ。
「いやいや蔭山君といったかな?なかなかいい動きをしてくれますね。まさか君が殺してくれるとは思いませんでしたよ!っで、今どんな気持ちですか?ねぇっオシエテ」
「沖弥ぁぁぁ」
にらむ蔭山と対照的にニタニタと笑う沖弥。
「いやぁ、しっかし動きが読めたのなら普通相手が番長だって気が付きそうなものですが天然で助かりましたよ。あれ?そういえば能力で作り出したものって術者が死んでも残り続けるものでしたっけ?」
呆ける蔭山。それから「っあ」などと暢気なことを言う蔭山そこには先ほどの怒りと悲しみの感情は残っていない。
「あれ?剣がなくなっている。死後も思いが強ければ残るタイプかと思いましたが意外としぶといだけだったようですねぇ」
それからしばらく沖弥が沈黙する。今後の風紀委員会と厚生委員会の関係について考えているのだ。今回の任務が今後どのような評価になるのかと。
一方蔭山はそんな沖弥の様子をうかがう。その仕草はまるで虎の前の兎である。
「よし、とりあえず殺せ」
合図を出す沖弥。だがなぜか蔭山は安堵の表情を浮かべる。
そしてふと何かを思い出したかのように命乞いをし始める蔭山。
そんな蔭山の態度をみてここにきてようやく違和感を感じる沖弥。
蔭山が首を傾げる。するとそれが引き金になったかのように沖弥以外の全ての風紀委員にワイヤーの付属したナイフが突き刺さる。これは番長グループナンバー2豊田 昭彦の能力だ。だがあり得ない。番長グループは重塚の奴が全員殺したはずだ。しかも豊田に関しては首をはね飛ばされていたのに!
「っなんでないんだ」
あったはずの番長の死体がない。蔭山に驚きの表情はない。
「厚生委員。わかっているとは思うが俺は配下を殺すようなバカなまねはしないぜ」
上空には番長が・・・というより番長グループが空を飛んでいた。
「ふーん。絶望ってそんな表情なんすね。ちょっと僕のはオーバーすぎたですね。騙すの少し難しい」
感心する蔭山に対して礼を言う重塚。
「もう行っていぞインツゥ。さて、前座は終わりとしてとっとと始めますかな風紀委員会」
前座は終わり執行部の手のものと番長グループとの激闘が今始まる。
次回、手に汗握る能力者バトル!