第四話 異端者 前編
一週空きましたが文字数的にはそんな変わらんかな。
・・・・・・やはりそうだ。
視線。
学校を出てからずっと監視されている気がする。
恐る恐る振り返るがなにも見えない。
とっとと帰ろう。
男はトンネル内を全力で走った。
狭いトンネルで足音はよく響く。
だが男は何を思ったのか、少し走るとその足を止めた。
足音は止まなかった。
日代市の中心にある集合住宅を少し抜けたところに急な坂がある。
その坂の上にある高校は日代市の進学校としてこの町では評判がいい。
皆この隆上高校に入りたいと思わせる。
気持ちのいい挨拶をする生徒。勉強だけでなく部活動でも好成績を出している。有名大学への高い進学率。あげれば切りが無い。
だが、そんな学校でも「恥」の部分があった。
「おらどけっ」今日も舎弟の城島の声が廊下に響く。
入学して一週間。ようやく地盤が固まってきた。
この前まで「おい、そこのデブじゃまなんだよ」なんていっていた身の程もわきまえられないような上級生も自慢のナイスバディで黙らしてきた甲斐もあり、もう誰も舐めまねはしてこない。
「オラそこぉ広がってんじゃねよ!ちったぁ横幅のあるやつのことをかんがえれねぇのか」
あれっ。城島君どうしてこちらをチラっと見るんだい?
城島は良いやつだ。中学の時からの付き合いだし。
この前なんて焼き肉屋で大量にホルモンを注文してあんな注文してどうするんだろうと思ったら俺の皿にたくさん盛りつけしてくれたし。
で、なぜか俺の焼いてたカボチャ全部持っていくし。キムチすら分けてくれないし。
ハラミとかも注文してくれる。もう肉は良いかなって状態なのに「竜二さんこの肉、この肉旨いですよ」って。
俺は君とは違うんだよ。
そんなに肉ばかり食えないよ。
あとどうして君は太らないの。
どうして中途半端に気を使うの。
君のそのデブ・・・横幅のある人に対してのレッテルはなんなの?
ああ、だめだ良いところを思い出せない。
握り拳を解放できない。
でも・・・こいつは・・・大事な舎弟。
「おい、お前どういうつもりだ」
城島が誰かと口論をしている。空耳だろうが「お前程度があのデブに勝てるわけないだろう」とか言ってるように聞こえる。そんなはずはないのだが・・・さすがにあいつは俺のことをデブだなんて言わないはず。少なくとも俺に聞こえる距離では。
「きゃぁああ」
何だと?城島が飛ばされた。
「よぉデブ!どうした?舎弟がやられて怒り心頭ってか?顔が真っ赤だぜ」
世界には秩序が必要である。秩序は平和を維持する代償に自由を支払わせる。
隆上高校本校者三階にその「秩序」の中枢はある。
隆上高校生徒会室。
「我々と彼らの抗争はここ最近平穏を維持しておりますが、この<平穏>こそが私には危機感を感じさせます」
会議が終盤にさしかかったところで会計委員がガーディアンとしての発言をする。
我々が把握している情報がすべとは限らず、また状況は常に変動する。
そのため会議中に余裕があればこういった<問題提起>がなされる。
といってもこういったことをするのを基本的に会計委員である。
これは会計委員が下部組織からの意見を生徒会に発言することを業務とするからであり「近年アンチガーディアンだけに限らず反乱分子がくすぶっている状態が続いています」
とにかく話を聞かねば。議論の結果今後の方針が変わるかもしれない。それだけは回避しなければ・・・。
「むしろ私は現在のように目先の驚異のない時に危険因子を排除すべきではと思います」
「なっ。無用な争いはいたずらに犠牲を出すだけです。今すべき事は次の異端者どもを排除するために一人でも多くまともな能力者の育成ではないでしょうか」
まずい状況だ。やはり下部組織のグループに対する敵対心が募っているのだろう。
以前までは分かりやすいアンチガーディアンといった<憎悪>の対象があったがこう動きが少ないと疎まれるのはより近くの異端者ということか。
しかし・・・これ以上は出来るだけ発言したくない。今ので流れが変わればよいのだが・・・。
「確かに。近隣では能力者・異端者に関わらず力を持った人間が、何者かに文字通り<潰される>といった時件も発生しているし、この日代市にも<百式>達乗せ威力も無視できない領域となりつつある」
流石、穏健派の文化祭実行委員<城ヶ崎>正論でいなしたことでグループに対する危機は去ったか・・・?
そう安心していると外からドタドタと生徒会室に向かって誰かが走ってくる。そう思った頃にはその者は大きな音を立てながらドアを開け部屋に入る。そして会議中だぞという声を無視しながら衝撃的な発言をする。
重塚と一年が<決闘>をしている。
思わず顔を下げる。そうしなければおそらく私が関係者だとすぐばれただろう。それほどまでに一気に血の気が失せるような思いだった。
重塚竜二には誇りがある。
それはこの学校の番長である延瑛の弟であるという血統である。
そのため自分自身次期番長としてのきょうじがある。
竜二の行動は自分がどう感じたかではなく、周りから見てどのように行動すれば番長に見えるかを考えた結果行動するのだ。
そのため兼田程度の口車に乗せられることはないと思えた。少なくとも彼自身は・・・。
思ったよりも竜二が<デブ>に反応しなかっため兼田は<竜二の出方を見る>事を諦め、正面からつっこんでいった。
最上の言っていた<怪奇現象>が気になっていた兼田だが、このときはまだ力の恐ろしさを知らなかった。無知のなせる行為である。
兼田は竜二の腹を「がら空きだぜ」とでもいいたそうな笑顔を浮かべながら殴る。
だが竜二は無表情で兼田を俯瞰する。
兼田が次の攻撃を仕掛けようとした瞬間、竜二は右腕を後ろに引き下げ一瞬のうちに兼田の頭をめがけて振りおろす。
竜二の攻撃が意外と早いことに驚きながらも兼田は余裕の表情を浮かべている。
腹への攻撃は効果は感じられなかったが、それ以外の足や頭なら十分に効くだろうし動きも鈍い。
兼田はヒットアンドアワェイの戦法をとれば確実に勝てると判断していた。
兼田は竜二に正面から突っ込む。
兼田の間合いまで竜二に近ずく。
表情が曇る兼田。
兼田が右腕を水平に引いたその瞬間竜二は兼田にタックルをかます。
あまりの早さに兼田の反応が遅れる。
重心が一瞬右足にかかった瞬間に決められた兼田へのタックルは兼田を完全に中空に浮かした。
兼田の両腕は竜二にしっかりと捕まれている。
笑みを浮かべる竜二このまま兼田の上に自分の体重をかければそれで終わりだと考えているのだろう。
間違いではない120キロの巨体はどんな刃物よりも強いだろう。
だが・・・。喧嘩は実践数がものをいう。
竜二が兼田を床にたたきつける。
その瞬間竜二の視界は縦方向に一周した。
その後背中から強い衝撃を受ける。余りにもその衝撃が強かったため目を瞑ってしまう。
目を開けたときにはギリギリで兼田の顔とその横を高速で動く拳が見えた。
バコン。
竜二の鼻の骨が砕けた。
「番長の弟だからっていうんで結構期待していたんだがな、がっかりだぜ。この分だと兄貴も大したことねぇな」
兼田は意識があるかどうかも怪しい竜二に向かってか、周りの聴衆に向かって言い放つ。
周りから悲鳴が聞こえる。しかしそれも仕方のないことだ。竜二の鼻腔からは血が溢れだしている。
兼田は荒れた息を落ち着かせる。
その息は激しい運動量から来るものではなかった。
兼田はタックルを決められている瞬間にこの前の敗北を思い出していた。
もう負けたくない。あの痛み、あの病院生活、無駄に過ぎていく時間、同じことの繰り返し。
そういった感情は兼田に恐怖を感じさせると同時に兼田の心拍数を上げさせた。
兼田は竜二がタックルをかけ終わるその瞬間に竜二の両足が地面から離れる瞬間、体を丸め両足で竜二の腹を蹴りあげた。
パンチというものは腕の筋肉だけで放つものではない。兼田は強いパンチを放つための体全体の速筋が強かった。
とはいえ、少しでも<蹴り上げる力>が<竜二の体重と竜二の加速量>より小さければ全ての力が兼田にかかっていた。
それは前回の入院どころではなく純粋な<死>である。
兼田の行為は自分の命を懸けた危険なギャンブルだった。
兼田自身もう二度と同じ賭はしないだろう。
賭をするか迷っていれば・・・。兼田は迷わなかったのだ。
兼田がゆっくりこの場から立ち去ろうとしたとき、周りの悲鳴が先ほどより一段と大きくなった。
後ろを振り返った兼田は思わず自分の目を疑った。
たっているのだ竜二が・・・。バカなあの衝撃で動けるのか。
「立った、竜二が立った!」
聴衆どもが騒ぎ立てる。
少しうろたえた兼田だったが、今の兼田にはおそれの表情はない。
竜二は今や立っているだけで精一杯というような感じにヨタヨタと歩いている。
竜二が兼田に向かって右腕を振り下ろす。
兼田はその腕をガードするように軽く左腕をあげる。
ん?ガばっ!?
どういうことだ、何が起こっている?
確かに今デブの攻撃をガードしたはずだ。
いや、確かにガードした左腕には確かに触感が残っている。ただ・・・俺の腕をソレは通り過ぎていった。クソっ息が・・・。
朦朧とする意識の中でデブを見ると幻覚が見えてくるのか?
竜二の肘から先がケロイド上に溶け、俺の頭を覆っている・・・ように見える。
息が・・・竜二の腕が俺の頭の上にまとわりついている。
「・・・いセ・・・・いろ」
何だ、何を言おうとしている?
「俺の・・・アニキを侮辱したことを訂正しろォ」
こ、こいつ・・・それだけのためにこの傷で動いているというのか。
くそ・・・ここは従うしか。竜二の発言に対し顔を縦に振る。
「そんな態度で・・・俺がだまされるか!」
聞く耳持たず・・・か、クソ目が眩む。
兼田はこのまま失神してしまうかと思ったが、そうはならなかった。
兼田の頭を掴んでいた液状の竜二の腕から次第に掴む力が弱まっていった。
「ぐはっ」
死ぬかと思った。あいつもあの手品を長時間使えないのか?
とにかくもう一度倒さなければ・・・。逃がしてくれそうにない。
竜二に向かって走っていく兼田。高密度の水とか化した竜二の右腕の振り下ろしを頭から滑り込むようにしてかわし、そのすぐ後に低い姿勢のまま軸足となっている右足を蹴る。が、竜二の足は直ぐに液状化する。兼田は構わず壁を使い反転しながら竜二の背中に跳び蹴りをする。だがその攻撃も通過してしまう。
(っく、ここまで自在に液状化させることができるとは。だが反撃するどころか棒立ちなのはなぜだ?何かを待っているのか)
(・・・・・・ならば・・・・・・・・・隙を見せるわけにはイカンな)
兼田は苦し紛れに空中で体を縦に回転させることで竜二の頭部を蹴ろうとする。
兼田の顔からは苦しそうな顔が伺える。
兼田の経験上これほどまでに手応えを感じることのできない相手とは対戦したことがなかった。ふと、引っ越ししたてでやった喧嘩を思い出す兼田。
(そういや、あいつも全く攻撃が聞いてるようには感じられなかったな・・・)
バコン。
廊下に鈍い音が聞こえる。
(やっとか・・・)
竜二は頭部の液状化が間に合わなかった。
今や竜二の顔からは鼻と額から大量の血が流れている。 「止めだ。せめて苦しまずに今までの最高の一撃で沈ませてやるよ!」
「うぉぉooobogdrua」
竜二が何かを叫びながら変異する。竜二は体全体を液体とかしそのまま体を大量の棘にしたかと思うと全包囲に向かって棘を放出しようとした。
終わったと竜二は思った。
しかし、竜二の攻撃は途中で兼田の後方から飛んできた細い、しかしながら強烈な竜巻の貫通により相殺された。明らかに人為的な攻撃であった。
兼田は竜巻の発生した方向を振り返る。しかし、そこには誰もいなかった。騒いでいた群衆も・・・新手の能力者も・・・。
グラリと兼田の視界が歪む。
「バ・・・気配は・・・」
薄れゆく意識の中攻撃を受けた右腹をさする兼田。
その手は真っ赤に染まっていた。
「まて、重塚とは確か番長の名前では?」
「いえ、延瑛ではなく弟の竜二の方です。現在我々厚生委員会で事の収集に当たっておりますが、竜二殿だけでなく播部の二名が<力>を使ったため記憶の操作に手間取っているのと、喧嘩を売った一年がかなり重傷を負ったため、そちらの帳尻などでも面倒ごとになっています」
っくぅ・・・。あの七光りデブめこれでは厚生委員が一般性との記憶改竄や校舎の修復、保険委員の負傷者の手当だけではすまん。
風紀委員が動く。そうなれば消耗戦だ数の上ではガーディアンとグルの生徒会に勝てるとは思えん・・・。
「免罪符を手に入れたな伊勢垣会計」
会長のこの一言で完全に無くなった。戦から逃れるすべが・・・。
はい。前編終わりました、小説で戦闘描写ってあんまり詳しく書かん方がええんかなって思う。
今度とあるでも読もうかな。
あれの宗教知識が凄すぎるって吉田も言うとったし。