月夜
太陽が消えると、急に夜が来る。
こういうところが冬っぽい。
月がきれいだ。その周りには何重にも虹色の輪っかが出来ている。
空とも友達同然の僕でさえ、こんなきれいな月を見るのは初めてだ。
空気も澄みきって星が近い。網があれば取れそうだ。
(この町の住人は幸せだろうな...)
遠い昔、僕がいた町では一度も星を見たことがなかった。
この僕でさえ。
気付くと雨がポツポツ降り出していた。
このベランダの持ち主は、雨の日の夜は窓辺で本を読む。
僕が常連になった理由はそれなのだ。
彼の今の髪の色は、黄色だ。この前は緑だった。
髪をツンツンと立たせているのは、僕も気に入っている。
また随分とややこしそうな本を...。
彼の好みは、文字がびっしりの厚い本だ。
彼はずっと前から僕に気付いている。
というより、僕の存在を知っているという方が正解かな。
あの時は、今、目の前にいる彼も僕も小さな子供だった。
衝撃的な出会い。
なのにあの日以来、僕と目を合わせようとしない。
ずっと。
(僕のことがキライなのかな...)
考え過ぎと思いながらも心が萎む。
でもそんな気持ちを吹き飛ばしてくれることもある。
彼は僕より早く寝る夜は、必ず窓辺に本を広げて置いていってくれる。
それは今までずっと変わらずに。
そうしてくれるのは一冊だけではなかった。
絵だらけのものもあった。どさっと。
僕は嬉しかった。
おかげで僕は随分本を読むことが出来た。
彼はおかしなこともする。
僕は興味津々だ。
例えば...
今日なんかは、本を読んでいたと思ったら、急に立ちあがり、身構えたり...。
僕は彼が用意してくれる本から学んで、武士の剣道も学んだ。
彼のあれは、二刀流のつもりだろう。
(あの構え、少し変な気がする...二刀流とはこう構えないと)
僕は月のきれいな夜の雨降る窓辺で、彼と同じことをしていた。
他に彼は、夜空を眺め出すこともある。
あれを探しているのだ。彼が最近読んでいる本から僕はわかる。
僕は思う。僕ってイヤなヤツだと。
彼のそんな姿がおかしくて、いつも笑いを堪えているのだから。
宇宙人とかUFOとかそんな類いのもの全部。
僕は全く信じていない。だって、見たことないから。
でも、
それらを信じて探す彼の瞳を見ると、どこか羨ましく思う。
(いつか、熱心に語る彼の話を聞けるようになりたいな...)