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あれからどのくらい経ったのだろう。

季節は冬本番だ。

僕にとっては都合が良い。僕は相変わらず風の吹くまま過ごしていた。

学校らしき建物を見つけては、「sensei」らしき人を観察していた。

そこにはいろんな種類の人間がいた。


収穫はあった。

中には人を眠らせる「sensei」もいたのだ。

その「sensei」を前にすると、彼が話を始める前から机を抱え込み

完全に眠りについてしまう人もいた。


(みんな何をしにここに来ているのだろう・・・)


純粋に不思議だった。


それにしてもすごい力だ。


(「sensei」って魔術師のこと?)


きっとそんな類いの人間なのだろう。

でも当の本人はというと、納得のいく表情ではない。

彼の顔には、「不満」と書いてあった。



今日は朝から小雨が降り続いていた。

だけどその割には外は明るかった。

今は夕日が沈む頃なのか、ほんのり夜の闇が見え隠れしている空だ。

そんな夕暮れ時、

僕は見覚えのある建物を発見した。


(どこだったかな? まぁいいかっ)


軽い気持ちで回想してみる。

なのに、どこかでは懸命に記憶を辿っている自分がいる。

病院にいるような白装束は見当たらない。

建物の中から微かに例の単語が聞こえてきた。


「senseiは・・・・・だよ。」


(えっ?!)


肝心なところが聞こえなかった。

最悪だ!

知りたい答えが目の前から消えた瞬間のがっかり感に縛られる。

三段重ねのアイスクリームを根元から落とした時の感情が蘇る。

僕は腕を組んでどっかり座り込んだ。


僕は自分の心と格闘していた。「こんなことって、よくあることだし」と自分を納得させる。

でも僕は、ちっとも冷静ではなかった。


切り替えが早いのも雨つぶの良いところである。

当たって砕けたら、また一粒一粒集めれば良い。

さっきの建物は見覚えはあるけど、奥の建物には見覚えはない。

記憶力には自信がある。僕にとって、記憶は大切な宝物なのだ。


(今日はのんびりと学校見学ってところかな)


昼寝もしよう。

雨の日じゃないと安心して眠れないから。


こんな真冬なのに少し窓が開いている部屋を見つけた。


(やったぁ!人間のおしゃべりが聞けるっ)


冬場はきっちり窓が閉められていて、中の会話が聞けるなんて幸運はまずない。

勢い良く窓に飛びついた。


(...うっ)


息が詰まる。

そして、止まっていた心臓が急に動き出すような感覚。

心臓ってこんなに速く動けるものなのか?ってくらいの速さで。

同時に僕は体の力が抜け、ズルズルと窓から滑り落ちて尻もちをついた。

人間の目には、窓に付いた雨の滴が流れただけのことに映るだろう。

でも僕にとっては、想像以上の驚きだった。


(彼女がいる!しかも「sensei」って?)


彼女と向き合う形で座る大勢の中の一人が手を上げ、彼女へあの言葉を言っていた。


(どうりであのオーラ・・・

 でも持てよ、人を眠らせてしまうあの「sensei」にはなんのオーラも見えなかったぞ)


なんだろう、この何かが思い出せない感じ。

僕は自分が出せる一番速い速度で脳ミソをフル回転させている。

さっきから窓辺に仁王立ちしている自分の姿なんてすっかり忘れていた。

頭の中がぐちゃぐちゃだ。

と、次の瞬間。


彼女と目が合う。


そして彼女は僕に軽く会釈をした。


あの時と同じ、澄んだ()で。


次の瞬間にはもう彼女は大勢の人々に視線を向け、なにか語り始めていた。

僕も後から会釈をしていた。茫然と。

そして、はっと我に返り見渡してみた。

誰も僕に気付いていないようだ。

当たり前だ。


(僕は頭がおかしくなったのか?)


この部屋にいる人々は真っすぐ彼女を見ている。

彼女はみんなに伝えたいことがあるんだ。

そして、その大勢の人たちも彼女の伝えたいことを聞きたいと思っている。


それからというもの僕は、雨の日は欠かさず毎回彼女を聞きに行った。

なぜかいつもその部屋だけ窓が少し開いていた。


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