少年
僕には気になる少年がいた。
その少年は、その子と同じ年齢くらいの小人が通っている学校であれば、
ほとんどと言って良い程いた。よく見ると顔の造りはまちまちだが、あの格好は同じだ。
切り揃えられた太めの枝を背中いっぱいにして歩きながら本を読んでいる。
その背負っている枝の束、本を読んでいること、そして歩いていることの関係が
初め僕には全くわからなかった。
ただ、歩く時間も惜しんで本を読みたいというその少年の気持ちだけは伝わってきた。
そのことがなんだか仲間のように思えて、親しみが湧いた。
初めてその少年と出逢った日は、日が暮れるまで彼と一緒に過ごした。
彼が固まっていなければたくさん話したいことがあったけど、
今はいない昔の人だということは僕にもわかった。
その少年像は小さな池の近くに建っていた。
僕がその頭の上にいた時のことだ。
(彼は一体何を読んでいるのか?)
僕は急に気になり始めた。
どうして今まで気にならなかったのか、一瞬だけ悔んだ。
そしてすぐに覗いてみたのだった。
字がひっくり返っていて良くわからない。
今度は少年と同じ向きから。
(こりゃ、すごい)
僕はまじまじと少年の顔と開いている本を何度も見比べた。
この少年の表情は難しいでも楽しそうでも眠たそうでもない。
なんともいい表情なのだ。
僕は本を読んでいる時の自分の顔は知らない。
昔の僕は全く字が読めなかった。
字が読めるようになって、本が大好きになった今だから言える。
僕もきっとこんな表情をしているんだと。
これが学んでいる時の顔なんだなって。
(この学校に通う小人たちもこんな難しい本を読んでいるのか?)
向こうに見える建屋に目をやって思った。
僕は恥ずかしかった。だって最近読んだ本の中で一番心に残っているのが
「はらぺこあおむし」だったから。ほとんど絵ばかりの本。
でも、あおむしが食べて穴を開けたページに文が書かれているなんて、
僕にとって印象に残らないはずはない。
僕だって一度はあんな豪快な食べ方をしてみたいのだから。
お菓子の家の壁のド真中をむしゃむしゃと体が通り抜けるくらい。
甘いものが大好きな僕の願望。
本の上にあぐらをかいてその少年と向き合った。
(君、どんな子だったのさ?)
僕はたまらず聞いていた。
もちろん答えてくれるはずもなかったから、知りたい気持ちが余計膨らんだ。
実はもっと知りたいことがある僕だけど、それはそれでまた知る時が
来るはず。縁があれば自分が忘れていても知るようになるからだ。
比 作 人 一 興 一
乱 食 国 仁 家
其 戻 興 一 仁
機 一 譲 家 一
始 国 一 譲 国
僕は本の題名や書いた人の名前がなかなか覚えられない。というより覚える気がない。
僕の脳ミソは興味がないものは受け付けないのだ。呆れるくらい。
でも興味のあるその本の内容ならちゃんと覚えている。
この少年が読んでいる本を初めて覗いた時、僕が思ったこと。
(大人たちもいい顔してこれを読むようなら、無駄な争いはなくなるのに...)