ぶらりぐるぐる関東地方大周り乗車の旅!
いつものように、ただ、変わらない日常の風景。
満員電車で揺られながら、大学の最寄駅へと向かう。
東京都の端っこ。
多摩地区にある大きな街、八王子。
大学やら専門学校やらが密集している「学園都市」というやつらしい。
吊革につかまりながら、退屈しのぎにと携帯を取り出しては見たものの、特にやることは思いつかない。
ふと思い立ち、大学のホームページにアクセスしてみた。
そもそも今日は2限目の授業一コマしか無く、しかも出席を取らない科目。
もうさぼっちゃってもいいんじゃないかと思われるレベルなのだが、私は律儀に学校に向かっていたのである。
しかし、電車内で驚愕の真実を突きつけられることとなる…。
「…え?」
思わず電車内で声が漏れたが、幸いにも橋を渡る電車の走行音にかき消され、誰の耳にも届かなかったようだ。
携帯のディスプレイに映し出されたお知らせの欄には「休校案内」の文字。
内容は私が受けるはずの授業が休校になった、というものだった。
無情にもサボるのが正解のプレイングだったようだ。
もう…このまま八王子行こう。
そのまま本屋でも見て帰って来よう…。
もはや家を出た理由を失ったが、肩を落としながら八王子へは行くことに決めたのだった。
――八王子駅。
ラッシュ時は外れているとはいえ、さすがに人が多い。
とりあえず定期を駆使して改札を抜ける。
そこで、知った顔に出会った。
「あ、留美じゃん」
「およ?あ、おはよーちゆり!」
偶然にも改札で出会ったのは留美。
フルネームは千早留美。
同じ大学の同じ学部の同じ学科の同じ高校出身。
容姿端麗、頭脳明白。
絵にかいたような反則ステータス。
しかしまぁ、変なところがあるのが玉に傷と言ったところ。
で、留美が言った「ちゆり」は私。
私は上原ちゆり。
フツーに女子大生。
勉強とかは留美に頼ってなんとか単位を稼いでいる感じ。
さて、話を戻して。
留美もここに居ると言うことは…。
時間割は同じものを取っているはずなので、おそらく休校を知らないのだろう。
「留美ぃ…。今日休校だってさ」
そう言って携帯を見せた。
「ありゃあ。どうしよ…」
「ねー…。完全に無駄足だったよ…。なんか無駄と分かったらおなか空いてきちゃったー…」
朝ごはん食べたのになぁ~…。
すると留美は少し考えた顔をした。
そして、一つの結論を出した。
「お昼食べに行く?」
「え?」
返事に困る。
今は午前9時。
こんな時間にお昼とかどう考えてもおかしい。
「ん~…。有名なお蕎麦屋さんがあるんだよね」
「ああ、なるほど」
有名店と言うことは、お昼に行ったんじゃ混んでしまうのだろう。
それでか。
勝手に納得した。
「いいよ!」
有名店と聞いて、余計におなかが減ってきた。
「じゃあ決まりね」
そう言うと、留美は券売機で切符を買ってきた。
130円の、隣の駅までの切符。
隣の駅に有名店が…!?
わくわくしてきた。
「はい、これちゆりの分ね!」
「ありがと…!」
切符を渡されて、改札を通った。
しかし、私はこの時とんでもない思い違いをしていることに気付かなかったのである…。
「最初はこれに乗るよ!」
そう言って案内された電車は、初めて乗るものだった。
太いオレンジ色のラインの下に、細い緑色のラインが入っている電車。
「じゃじゃーん!八高線!乗ってみたかったんだよねーこれ」
これでお昼を食べに行くらしい。
どう見てもローカル線である。
そもそも車両が短い。
4両しかない。
おまけにドア横のボタンを押さないと扉が開かない意味不明仕様である。
「これは…?」
「ほら、ボタン押すと開くよ!?」
本当に押しボタン式だ…。
「なんで?」
「停車時間長いから押しボタン式にして冷房が効くようにしてあんのよ」
…そうだ、なんか前に留美は電車が好きだとか言ってたのを思い出したぞ…。
じゃあこれって…まさか…?
「あの…留美さん…。どこにお蕎麦食べに行くんすかね?」
「我孫子だよー!」
「何ーーーーー!!???」
私の悲痛な叫びなど知らんとでも言いたげに、9時8分発の各駅停車の川越行き電車は八王子駅のホームを出て行ったのだった。
「やっぱ209系はいいよねー!省エネなのよ!省エネ!」
運転台に被りつき、やたらはしゃぐ留美。
こっちとしては恐らくは長い旅になるであろうことが予想されるので、体力は取っておきたいのだが。
「ほら!ここネットで見たよ!箱根ヶ崎の屋根が無いトンネルの名残!」
「え?何それ?」
「ここ、横田基地って米軍の基地が周りにたくさんだからねー。なんか落ちてこないようにした名残だっけ」
「へぇ~…」
柄にもなく感心してしまった…。
高麗川駅でまさかの15分停車。
これだからローカル線は…などと文句を言っているとき、ふと疑問がわいた。
「ねぇ、切符って隣までで良かったの?」
「うん。改札から出ないし好きなとこ行けるよ」
「何それ!?ダイナミックキセル乗車じゃん!」
「いやいや、JRの規定によりますと、同じところ2回通らなきゃOKなんすなぁ~」
「…そうなんだ」
つまりは、改札から出ないで同じところを2回通らなければ、好きなところに行けるのである。
もちろんJR東日本の中だけの話ではあるが。
悪夢のような15分停車が終わり、電車が発車する。
やってきたのは終点の川越駅。
東武東上線との乗換駅。
だが、乗り換えたのは別の路線だった。
「こっから川越線のりんかい線直通に乗るよ!」
「はぁ…」
実は、さっき乗ってきた路線は高麗川から川越までは八高線ではなく川越線に名前が変わる。
逆に、こっちは乗り換えるのに川越線という名前のままである。
何ともややこしい。
「これは…最近入った新顔ね!E233系よ!」
さっき乗ってきた電車の向かいに止まっている。
深緑色のラインを纏っている電車。
確かに、なんとなく新しい感じがする。
そんなわけで、10時30分発、りんかい線直通新木場行きの電車に乗り込んだ。
これは編成が長く、都会を走ってそうな雰囲気の電車であった。
…が。
川越駅を出ると広がったのは街…ではなく、田んぼ。
だだっ広い田んぼの中を行く。
南古谷駅を出ると右手に車庫があった。
留美の話だと、年に一回中に入れる日があるらしい。
そのまま電車は進み、だんだんと田んぼは消えて街が出てきた。
大宮に到着した。
「大宮!埼玉県で唯一、昼に人口が減らないのがここ、さいたま市なのよ」
「そうなんだ…さすがはベッドタウン」
意外なことに、大宮では降りることはなかった。
降りたのは武蔵浦和という駅だった。
ホームを移動し、武蔵野線のホームへ。
駅名看板を見るに、隣の駅は西浦和という駅と、南浦和という駅であるらしい。
「浦和って駅何個あるのよ!」
「浦和、西浦和、東浦和、南浦和、北浦和、武蔵浦和、中浦和、私鉄だけど浦和美園もあるから…8つね。東西南北全部抑えてるのは全国で浦和だけなのよ!」
「わっかりにくっ!」
浦和と名のつく駅だけでこのバリエーション。
どんだけ浦和が好きなんだ…。
「でもねー。もう浦和市って無いんだよ。さいたま市になっちゃった」
「浦和ねーのかよっ!」
この時ばかりは本気で突っ込んだ。
続いて、各駅停車東京行き、11時11分発の電車に乗った。
偶然にも時刻はぞろ目であった。
「わー!205系!ちゆりぃ!この電車いつまでもあると思わない方がいいよぉ~!」
「は、はぁ…」
オレンジ色のラインで飾られた205系は、ゆっくりと駅を出た。
「この路線ってさー、雨にも風にも雪にも弱いのよね~」
「貧弱だねそれ…」
「もとは貨物船で、旅客はやってなかったんだよ」
「そうなんだ…」
なんか…弱点だらけな路線なのはわかった。
「昔、この路線の新小平って駅が完全に水没するって事件があってさー」
「何それ!?え?駅が!?」
「うん。なんかもう凄かったんだよ」
「大丈夫だったの?」
「2か月電車止まった…」
…予想以上の雨への弱さにびっくりした。
話しているうちに、次の乗換駅に着いたようだ。
新松戸。
ここで、11時47分発の我孫子行きに乗り換える。
常磐線という、上野にも行っている路線だそうな。
「関東で最後まで残った103系はここの路線だったんだよ」
「はぁ…?」
103系とはなんぞ?とも思ったが、聞くとなんか面倒そうなのであえてスルー。
やってきたエメラルドグリーンの帯を纏った電車に乗り込んだ。
「あー、E231か…。もうちょい珍しいのがよかったなー」
なんかがっかりしている留美。
「昔はね、207系とか403・415系とか203系とかいて楽しかったんだよ!」
「はぁ…」
そう言われても、全然分からないのだが…。
新松戸からは今までで一番早く電車を降りることになった。
我孫子までは案外近かった。
「じゃじゃーん!ここでお昼ご飯食べるよ!」
危なく忘れるところであった…。
お昼ご飯食べに八王子からはるばるここまでやってきたのだ。
でも、駅の外には出れないわけだし…。
「駅ナカとかあるの?」
駅ナカに期待する。
ちょっと前に最近の駅ナカは凄いってテレビで言ってたし!
「ん~…駅ナカっていうか…。立ち食い蕎麦屋?」
「え」
立ち食い蕎麦屋なら八王子の改札入ったとこにもあるじゃん…。
なんか…偉くがっかりなんだけど。
「ここのは有名なんだよ!からあげ蕎麦!」
そう言うと、留美は「弥生軒」というホームに設置されている蕎麦屋に入っていた。
食券で指定したのはから揚げ蕎麦2個。
とりあえず、私も同じものを頼んでみて…びっくりした。
蕎麦のどんぶりからはみ出んばかりのから揚げ。
こぶし大のそれが2つ。
これは…インパクトが凄い。
食べにくいほどの大きさ。
これを食べに来たのか…。
確かに有名になるかもしれない。
さて、名物を食べ終わってもこのたびは続く。
「さぁ!目的のお昼ご飯も食べたし!いざ、次へ参らん!」
留美がそう言って指をさしたのは隣の、その隣のホーム。
ちょっと時間があったので、トイレ休憩を挟んで向かう。
次の電車は12時46分発の成田行き。
成田線と言うやつに乗るらしい。
やがてホームに入線してくる成田行きの電車。
ここが終点らしい。
こっちから見たら始発駅になるのか。
まぁどっちでもいいや。
「おぉー!E501系!久しぶりに見たねーこれ!」
エメラルドグリーンの太い帯の下に、黄緑の細い帯を纏った電車を見て、テンションを上げる留美。
全く分からない私。
「珍しい電車なの?」
「いや?」
…もうわからない。
成田線の車内は空いていた。
平日の真昼間だからか、それとも時刻表がスッカラカンなのが関係しているのかはわからない。
「これで終点まで行くよー」
「わかった~…」
そう聞いた途端、私は寝た。
「ほらちゆり!起きて、終点だよ」
「…ん~?」
留美に起こされた。
とりあえず電車を降りてみると、そこには何とも違和感のあるものが。
向かいのホームにあるデカいもの。
それは駅の改札前にもあった。
「なんなのこのでっかい提灯は?」
「成田駅」とでっかく書かれた提灯が飾ってあるのだ。
「ほら、成田山と言えば…」
「新勝寺ね!」
実際に来たのは初めてだった。
ここがあの有名な…!
でもまぁ、分かってるよ…。
「改札は通らないからね~。雰囲気だけ」
知ってた。
次に乗る電車は、千葉行の成田線の電車だそうな。
13時27分発。
やってきた電車を見てまたもテンションがあがる留美。
今度は黄色い細い帯の下に、青い細い帯が入った電車だった。
「わぁ!209系だよぉー!ケト線から撤退して以来かなぁー!久しぶりー!」
「ケト線?」
「京浜東北線のこと」
はぁ…。
聞いたところで分からなかった。
さて、電車に乗って一駅。
「ねぇ、これ何て読むの?」
私が指差したのは、成田駅の隣の駅。
「酒々井」と書かれた駅名。
…読めない。
「しゅしゅい…?」
小首をかしげていると、留美が教えてくれた。
「ああ、これ難しいよねー。しすい、って読むんだ」
「々」っていう字を使ってるのに、一個前の漢字と読み方違うのは卑怯じゃない?
そう思いながら、電車はホームから滑るように出て行った。
降りたのは終点の千葉駅。
途中、車窓が田舎の風景からどんどん都会の風景になっていく様は見ていて面白かった。
さて、千葉でまた乗り換え。
それにしても、移動がメインである。
千葉駅で乗る電車は、14時27分発。
安房鴨川行の電車。
内房線である。
乗った電車はさっきのと一緒だった。
209系…だったっけ(覚えてきた)
これで蘇我まで行くらしい。
「どんくらいで着くの?」
「5分だよ」
そんなわけで即座に蘇我駅。
「さぁここからはお待ちかねだよー!」
「なんか待ってたっけ…?」
そう思いながら向かったのは、京葉線ホーム。
14時35分発、東京行き。
「E233なのよねぇ…」
入ってきた、まっかな帯を巻いた電車に向かってそう呟く留美。
この車両名…どっかで…。
「川越線と一緒?」
「そう!川越から先のやつと一緒」
なんか…分かってしまった。
「昔は青い201系とか意味わかんないE331とかいたんだけど…」
なんだかよく分からない次元の話をしている。
適当に相槌を打ちながら乗車した。
京葉線。
途中、左手に海が見える。
ばっちり東京湾気分が味わえるのである。
干潟のようになっているところもある。
「いいなぁ~…海…」
そう呟いていると、なんとなく見覚えのある建物が左手に見えてきた。
「あ!千葉にあるのに東京と名を冠した夢と魔法の王国だよ!いつ以来かしら…」
「そうそう。舞浜って名前も、このテーマパークがもとになってるのよ」
なんとなくテンションが上がる場所。舞浜。
何度も言うが、改札からは出れない。
そもそもこんなところで電車を降りたりはしない。
…今の目的は「帰る」ことである。
さらに乗ってると、いつだったか人知れず完成していた東京ゲートブリッジが見えてきた。
いよいよ東京である。
東京駅。
「ん~!ここならお土産買えるよ。駅ナカ多いから」
「そうね!やっぱ東京駅と言ったらあそこでしょ!」
地図を見て、場所を確認。
私は留美の手を引いてすたすた歩く。
たどり着いたのは、やはり東京駅と言えばレンガ作りの駅舎…!
と、言いたかったのだが、改札からは(ryなので駅の中の名所を。
「銀の鈴」である。
東京駅の中にある有名なでっかい鈴。
ここで記念撮影&お土産を買った。
なんか、やっとここにきて旅っぽいことをした気がする。
今まではずっと移動だったし…。
さて、お土産を買ったら今度はまた移動。
次の電車は15時52分発の東海道線小田原行き。
新幹線がすぐ近くにあるホーム。
「E231系だから~…。ボックスシートもトイレもあるよ!」
「トイレいいね!」
そう言いながら、向かい合わせで座れるボックスシートに陣取った。
「この電車はオレンジと緑の帯だったでしょ!これ、湘南のみかんをイメージしてるんだって!」
「へぇ~!言われなきゃわかんないね!」
そんな話をしてたら電車が発車した。
東京駅に別れを告げる。
東京の都心を抜けて、だんだん街並みが変わっていく。
下車したのは茅ヶ崎駅。
「サザンだねぇ…」
適当なことを言ってみた。
「そうね。じゃあ、もうひと頑張り行きますか!」
そう言って乗り込んだのは16時58分発、橋本行き。
ここまで来ちゃえば私も帰り方は分かる。
東海道線から乗り換えた瞬間、ローカルな雰囲気が漂いだした。
水色の帯を纏う短い電車だった。
「205系…。これもいつまで持つかな…」
相模線に乗る。
ローカルな雰囲気漂う沿線風景。
のんびりしていて逆に良いかもしれない。
長旅の疲れが出て、ここでも眠ってしまった…。
気が付いたら、終点の橋本駅だった。
これで最後の電車になる。
最後の電車は18時3分発、快速八王子行き。
横浜線に乗って帰宅ルート。
因みに、橋本の隣の駅は「相原」と「相模原」である。
漢字が1文字足されただけで読み方変わりすぎだろ!と突っ込んでしまう。
ラスト乗車。
ここから先は特に面白いものも無い。
ただ帰りたい一心で乗った。
そして…。
18時12分。
「ゴール!」
「やったねー!」
目的の片倉駅に到着したのである。
因みに、隣は八王子駅。
これにて隣の駅までの切符を買ってお昼ご飯を食べに行こうの企画、終了。
そう、目的は昼食。
それが今やもう午後6時。
午前中に八王子でて、やったことは昼ご飯を食べただけ。
なんとも無意義な旅だった。
そしてとにかく疲れた。
「お疲れーっす!」
「ああ…ほんとに疲れた…」
「ではでは…帰りますか」
「だね」
そう言って、買ったのは隣の八王子までの切符。
もう大回りはしない。
素直に八王子へと向かったのだった。
今回本文に出てきた電車の時刻は、実際の物ですのでコレ通りに旅行行けますよ(笑)
私はこれで行ってきました。
目的はから揚げ蕎麦です。
なんかすごかったです!はい!
大回り乗車の旅はJRの規則に乗っ取ってできますので、悪いことじゃないんですよ!
同じ場所を通らなきゃOKなので、皆さんも是非やってみてください!
因みに、八王子から始めたのは路線が多く通ってて楽だったからなんですね。
一日かけて一都六県を回るのもお勧めですよ!