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いまいちな僕の生活

いまいちな僕は妹になじられる

作者: 潮路

意外と辛辣な言葉が並びます。注意しましょう。

「お兄ちゃんってどうしてそんなに気持ちが悪いの?」


居間で妹と二人の時に言われた。


「僕、何か悪いことしたのかな」


「いや、私はお兄ちゃんのこと大好きだよ」


「大好きならどうしてそんな質問をするの」


「だって、お兄ちゃんは自分の気持ちの悪さを理解してないんじゃないかと思って」


どれくらい気持ちが悪いかなんて、考える時間もなかったのは認める。


でも、それがどうして自分のことを大好きだと慕っているであろう妹の口から飛んでくるのか。


「じゃあ…具体的にどう気持ち悪いのかな」


「それって身体的なこと?性格的なこと?それとも」


「身体的なことでお願いしたいな」


うん、よかった。このまま内蔵を引っ張り出されてしまうんじゃなかろうかと思ってしまったよ。


「臭い」


人は偉大だ。言葉を生み出したが故に、もどかしい状態も簡単に表現できる。


…そうか、お兄ちゃんは臭かったんだな。


どこが臭いのか…聞いたら再起不能になるのは確実だろうな…


「口と脇と股…と足」


先手を打ってきたか。しかも全パーツじゃないですか、それ。


「一つだけでも気持ちが悪いのに、全部が全部それと同等なんてすごいやお兄ちゃんは」


それは絶対にフォローではない。僕も必死に抗戦を試みる。


「それじゃあ、僕の優れているところはなんだっていうの」


「ない。私より優れているところが一つもない」


・・

・・・


こんな話は切り上げよう。というより今日は家族と話をしたくない。


「私よりおバカさんだし、かけっこもおそいし、器用に立ち回れないし、それに対して学習しないし」


「逆にこっちが聞きたいよ。お兄ちゃんって私より優れているところ、どこがあるの」



なんだっていうんだ、この仕打ちは。というよりお兄ちゃんの部屋までついてきていうことか。


僕が部屋に入ったら、部屋越しにちょっと聞こえる程度で、前述の言葉を発している。


「私のほうが友達も多いし…あっ、お兄ちゃんってまだ恋人も作ったことないでしょ」



彼氏、作ったんだ…大好きだからって家族と恋人は違うもんなあ。


それよりそろそろ庇護のお言葉を恵んではくださらぬか。


「お兄ちゃんは、悲しくないの?大学生なのに」


庇護をおおおおおおお。


これってさ。「お兄ちゃん」って呼んでるから柔らかな感じになっているだけで、


その実、人格の全否定じゃないか。これは最大級のDVだと思うよ。



そりゃ、妹は僕より、出来ていると思うよ。


・・・


僕が彼女いない歴20年を迎えた頃、妹は3人目の彼氏と付き合ってた。


小、中、高と1回ずつ。以前の彼氏とは学校が違ってしまったという理由で止むなくだったし、


今でも良好な関係を築いているみたいだ。


僕はコミュニケーションを取るのが苦手だ。真性だか仮性だか議論はしないけど…


コンビニのアルバイトの人に毎回くすくす笑われる。


飲食店はカウンター席に座れない。気まずいからだ。


本当に情けないけど、年が3つも4つも違う妹の背中を見て育ってきたのかもなあ。


妹が小学校の時に、図画工作で描いた絵が県の特選に選ばれた時に優劣は決まったのかもしれない。


ふたりで、同じ題材で、描いたのに。



幸い、父も母も(おそらくは)妹と僕を両方等しく愛情をかけて育ててくれた。



なんだか、申し訳ない気分になってしまったなあ…


・・・


気がついたら僕は涙を流していて、


気がついたら妹は僕の部屋に入っていてきょとんとしていた。


「どうしたの」


…怒れない。怒りより悲しみの方が優先して出てきてしまう。


感情の起伏は、涙となって現れる。



まさか4つくらい下の妹に。こんな醜い泣き顔を見せてしまうなんて。


「お兄ちゃんは考え違いをしているね」


「どごが」


「私はお兄ちゃんのこと、とってもとっても大好きなんだよ?」


「じだにみられるがら?」


「そんな薄汚い人間になった覚えはないよ」


「あわれみをざぞうがら?」


「そんな見苦しい人なら無視してるよ」


「じゃあなにざ」


「お兄ちゃんはいまいちだから、きっとこれから先も、苦労すると思う」


・・・・・・・・・・。


・・・


妹に特選を取られたとき、僕は絵に夢中になった。題材を10枚程書いて、全部いまいちで


題材が悪かったと思って、別の題材に変えてを幾度か繰り返した。



妹に初めての恋人ができたとき、小学校6年だった僕は、がむしゃらに同学年の女子にプロポーズした。


突然何も知らない子に告白されても、断られるのは自明の理だったはずなのに。


僕は数少ない友達に慰められながら、時にはからかわれながらも、物量告白作戦を行った。



妹が有名な高校に進学したとき、僕は趣味に没頭した。せめて一つでも威厳が欲しかった。


それも堂々と人前で話せるような、そんな趣味でなくてはならない。


そうでなきゃ妹に小手先で否定されるのが目に見えていたから。


…だから服を買うことにした。お金はかかるけど、ファッション雑誌とかも買って。


数少ない友達とは違う大学だから、ひとりぼっちだったけど、バイトだってしたんだ。


それで、何着か服を買って…店員さんに最適な服を選んでもらって。



妹を服の買い物に誘った。僕は自慢の服を選んで、その日に臨んだ。


二人の知らない店へ行ったほうがいい。そっちの方が公平なジャッジになるだろう。


結局途中道に迷って、計画していた移動時間の3倍を費やして店に到着した。


「いらっしゃいませ。あらあ、お嬢さんいいセンスしてますね」


「ええ、今回はお兄ちゃんのコーディネートをしようと思っていまして」


…勝敗は一瞬で決した。僕は走って店を出た。



「お兄ちゃんが服を着ているんじゃなくて、服にお兄ちゃんが着られてるっていうのかな…」


悲しいかな、かなりのタイムラグがあったのに、すぐに妹に追いつかれてしまった。


息を切らしている後ろで冷静に分析している。


「服屋さんのオススメ、蹴ったでしょ?」


図星。結局自分の感性に従って、服を着ていた。


「お兄ちゃんって自分が人からどう見られているかとか全然考えたことないでしょ」


妹は彼氏や友達との付き合いの際、いつも服装の選択に苦心しているらしい。


妹が授業を受けている時、講義の間をぬって必死にひとりぼっちで


似合ってもいないファッション雑誌を読み耽っていた愚兄とは違うのだ。


・・・


ああ…気持ちが悪いだろうな…


これに加えて体中からの異臭。もう駄目かもしれんね。


妹は言葉を続ける。


「一度も成功っぽい成功もなく、年老いていくかもしれない」


・・・・・・・・。


「でもね、お兄ちゃんが必死になってもがいている姿は、物凄くかっこいいよ」


「多分、お兄ちゃん自身が想像しているものよりも、ずっと」


・・・・・・。


「それが、お兄ちゃんを今まで「お兄ちゃん」と呼んでやっている理由」


・・・・。


「私をがっかりさせないでね?」


そう言って、僕の頭を1、2回ポンポンする。


音を立てずに扉を締めて出て行った。




がっかりは…させるかもしれない。


そうなったら、僕は何と呼ばれるんだろうな…


それも少しばかり、楽しみだけれど…



僕は頭の上に置いてあった両手を、そっと後ろへと移動させる。


「よじ、まずは消臭及び防臭からはじめるか」

この二人、お互いに負けず嫌いかもしれませんね。

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