~ 8 ~
運ばれてきた料理に舌鼓を打ち始めてから数分後。
店内に一際大きな歓声が上がる。
三人が食事の手を休め顔を上げると、歓声と口笛の音が響く中一人の女性が舞台に現れた。
小さく波打つ長い黒髪の彼女は金銀の宝飾を散りばめた艶やかな衣装を身にまとい、美しく整った身体を惜しげもなく披露しながら舞台の中央に進み出る。
そして、しなやかにお辞儀をしてから手にした扇を構えると部屋の隅に陣取っていた楽師たちが曲を奏で始めた。
踊りが始まると大きな歓声はぴたりと止み、誰もが息を飲んで彼女に熱い視線を送る。
レイヴァンが店内を見渡せば、先程の給仕が言っていたように客だけでなく彼女を見慣れているであろう店員までもが見とれている。
彼女が魅せる一挙手一投足に誰もが心を奪われていた。
それは目の前にいる二人も例外ではないようで、リルはもちろん身体を申し訳程度にしか隠せていない踊り子の衣装を見るなり全否定したマリアンですら今は釘付けになっている。
お堅い女性まで魅了するとは大した踊り子だ。
レイヴァンは数秒間だけ彼女の踊りを観察すると、視線をテーブルに戻し料理に手を伸ばした。
しばらくすると店内は再び大歓声に包まれ、彼女の踊りが終わったことを告げる。
拍手喝采は自然な流れで「もう一舞」と再演を望む掛け声に変わっていったが、最後は意外にもどよめきへと変わった。
……これだけ熱望されたのに断ったのか?
レイヴァンは不思議に思い再び顔を向けると踊りを終えた彼女は一段高い舞台から客席へと降りていた。
周りの様子から判断して普段の彼女はそんなことをしないのであろう。
どうかしたのかと訝しんでいると何故か彼女はこちらに向かって真っ直ぐに歩いて来る。
歩き方一つとっても色香があり、周りの男たちからは生唾を飲み込む音が聞こえてきた。
人の密集する場所も彼女が一歩踏み出す度に道が開けていく。
近づけず声もかけられないのは高嶺の花と言ったところか。
彼女は目の前に立つと妖艶な笑みを浮かべて対峙した。
「隣、よろしいかしら?」
一言断りを入れるものの彼女の自信に満ちた表情は「断る訳無いわよね」とでも言いたそうだ。
変わった女が現れたと思ったレイヴァンだったが、自分の威圧にたじろがない彼女に興味が引かれ空いた隣の席へと促した。