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「目の前にいる女は素直じゃなくてね」
レイヴァンがからかうような視線をフィーネに向けると、彼女は外方を向く。
「確かに俺がお前を助けるように指示を出したことは事実だが、彼女自身がお前を一番に助けようと一歩踏み出していたこともまた事実。 だから、きちんと礼を言っておけよ」
「解ったです」
リルは頷くと、フィーネの目の前まで近づいた。
そして満面の笑みを浮かべながら感謝の言葉を並べる。
「本当はご主人様の指示じゃなかったんですね。 リルはフィーネのお陰で助かったです。 ありがとうです」
「べ、別に改めて言わなくて良いわよ」
恥ずかしそうに答える彼女の横でレイヴァンは小さく肩を揺らしていた。
「あんたにとって素直な人間は大敵らしいな」
「言わないで」
いつまでも見つめ続けてくるリルを振り切り歩きだそうとするフィーネ。
その彼女の片手を今度は今まで静観していたマリアンが両手で掴んだ。
そしてそのまま顔の前まで持ち上げると、女神に祈りを捧げるかの如く頭を垂れる。
「今度は何なの!?」
「フィーネさん、この度は自身の危険を顧みずリルさんを助けて下さり、本当にありがとうございました。 私からも御礼申し上げます」
「も、申し上げるって……」
フィーネは背中に冷たいものを感じた。
「まさにとどめだな」
ひたすら感謝の言葉を呟くマリアンに戸惑うフィーネを見てレイヴァンは笑っていた。
「ちょっと、レイヴァン! 止めるように言ってくれないかしら」
「冷静なあんたが戸惑う様子をしばらく見ていたい気もするが、このまま山道で日没を迎えるのは避けたいからな」
レイヴァンは頷くとフィーネを見つめる二人に歩み寄った。




