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ブライトは叫ぶのと同時に抱えていた荷物を投げ捨て、リルとマリアンに向けて駆け出す。
睨み合っていたレイヴァンも彼の声に気がついて視線を移した。
そして二人が危ないことが解ると「マリアンを!」と瞬時に指示を出し、自分も身を翻して地面を蹴った。
二匹のオークは同時に二人へ飛びかかった。
大きな身体全体を使い、押し潰そうと試みる。
二人の悲鳴がわずかに響いた次の瞬間、地面が揺れる程の衝撃と音が響いた。
土埃が収まり、ゆっくりと身体を起こしたオークは取り押さえた獲物を確認しようと顔を下げる。
だが、地面には砂と小石があるだけだった。
獲物が無いことを不思議に思った二匹は首を左右に揺らし辺りを見渡す。
すると、少し離れたところに獲物は移動していた。
ブライトが飛びかかるオークよりも先にマリアンに向かって飛び込むと、しっかりと彼女を抱え、そのままの勢いで今の位置まで移動したのだ。
その際バランスを崩し豪快に背中から地面に滑り込んだのだが、マリアンは無傷で救い出していた。
「痛てててて」
「だ、大丈夫ですか!?」
「な、何とか」
横たわり天を仰ぎ見るブライトは顔をしかめつつも目前のマリアンにはこれでもかと笑顔を見せる。
「私を庇うために背中から落ちて…… ごめんなさい。 すぐに治療しますから」
「あ、いや、そんな…… むしろこのままの方が個人的には癒されるっていうか……」
「何言っているんですか、私ブライトさんの上に……」
そこまで言いかけたマリアンは自分がおかれている状況を理解した。
理解して慌ててブライトの腕の中から抜け出した。
「ごめんなさい、ブライトさん! わ、私! ……重かったですよね!?」
「まさか! 適度な圧迫感があって最高! ……じゃなかった。 俺自身がデカくて重たいからマリアンちゃんなんて軽い軽い。 それよりもマリアンちゃんって見かけによらず……」
ブライトは徐に左手を見つめて何かを揉むような仕草を見せる。
「大きい」
言い終わるや否や締まりのない顔になったブライトだったが、マリアンが見せる形相に気がつき慌てて謝罪の言葉を呟いた。




