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大半の女は近寄り難い雰囲気を出していれば近づいてこない。
たまに近づいてきても睨めば離れていく。
それにも気がつかず誘いにくる者が稀にはいるが、目の前にいる彼女は全てを解っている上で近づいてくる。
一番対応に困る相手だ。
「いくら誘っても俺は靡かないと言ったはずだが?」
「私も落とせない男はいないと言ったはずよ?」
「こちらが誘うまで、つきまとうつもりか?」
「もちろん、そのつもり」
妙な会話で視線がぶつかると両者は揃って睨み合った。
そして互いに自分の得意な間合いを取ろうとゆっくりと移動を始める。
「そう言えば、先日は悪魔に邪魔をされて中途半端なままだったな」
「そう言われれば、そうね」
「このまま話し合っていても互いに妥協することはないだろうから、ここは一つ剣で決着をつけようか」
「それは良い考えだわ」
「俺が勝ったらあんたは諦めて元の町へ帰るか、リルに仲間に入れてくれと頭を下げるか」
「私が勝ったら、あなたはその小娘を黙らせた上で、今夜たっぷりと私の相手をしてもらおうかしら」
二人は同時に剣の柄を握った。
互いに隙をうかがい、抜剣するタイミングを図る。
「おい、レイヴァン! 何してんだよ! そんなことする必要はないだろ!?」
「そうです、二人ともやめて下さい!」
その様子を見たブライトとマリアンが慌てて声を上げるが、リルは声を上げられないでいた。
彼女が指差した木々の茂みから大きな体をしたオークが二匹現れ、一直線にこちらへ向かって来ていたのだ。
相手は既にリルとマリアンを獲物として捕捉している。
「レイヴァン!」
その異変にいち早く気がつき声を張り上げたのはブライトだった。




