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「良いです! リルはお腹ペコペコなので急ぎで頼むです!」
「了解。 それじゃあ、フィーネが出てくる前に全部持ってくるわね」
初めて聞く名前にリルが首を傾げると彼女は続ける。
「フィーネは今うちに来ている大人気の踊り子の名前よ。 彼女が踊ると客はもちろん店員たちまで魅入っちゃってさ。 まったく仕事になんないのよ。 二日前なんて料理人が踊りを見るために火を消し忘れたまま厨房から飛び出してきて小火騒ぎになったし。 ってか私も彼女の踊りが気になって手が止まっちゃうんだけどね」
「それは困るです! その人が出てくる前にご飯を全部持ってきて欲しいです!」
「お任せあれ」
彼女は笑顔でお辞儀をすると早速厨房の奥へと入っていった。
給仕の女性が居なくなると未だ腑に落ちていなかったマリアンは本来あるべき接客とは如何なるものかとレイヴァンに意見を求めようとしたが、彼は他の客席を真剣な表情で見つめていた。
「レイヴァン、ブライトさんを捜しているのですか?」
彼女の問いかけに我に返ったレイヴァンは視線を戻し答えを返す。
「いや、先程から誰かに見られているような気がしてな」
「誰でしょうか?」
「解ったら苦労はしないさ」
「ブライトかもしれないです」
「だったら声をかけてくるだろう?」
「たしかにそうです」
三人で頭をひねるが誰一人として思い当たる人物が浮かんでこない。
「とりあえず、禍々しい魔力は感じないから悪魔ってことはないだろう。 この町では特に恨みをもたれるようなことはしていないし、差し詰めお前たちを狙う賊の類かもしれんな。 二人も周囲に気を配っておけ」
レイヴァンの言葉に二人は小さく頷いた。