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大きく外方を向くリルが次に追い縋ったのは仲の良いマリアンだった。
「マリーさんからもついて来るなって言ってやって欲しいです! 剣の呪いを解いたマリーさんには恩があり、言う権利があるです!」
「そ、そんなこと言われましても…… ご本人が偶然だとおっしゃっているのですから」
「そんなの絶対嘘に決まってるです!」
「リルさん、すぐに人を疑ってはいけませんよ。 それに困っている人がいたら助けるのは当たり前のこと。 恩を売るなどという損得勘定は絶対にいけません」
優しく諭してくるマリアンにリルは肩を落とした。
「マリーさんは良い人すぎるです……」
こうなるとやはり頼れるのはご主人様しかいないと、彼女はレイヴァンの腕を引っ張った。
「ご主人様、彼女を追い払って欲しいです!」
「できるなら既にやっている」
リルの言葉に視線を落としたレイヴァンは一つ息をついてから答えた。
「それって……」
「あいつには何を言っても無駄だ」
実に頑固な女なのだ。
だからと言って、このままリルを騒がせておくわけにもいかない。
レイヴァンが振り返るとフィーネは笑顔を見せた。
その艶やかな容姿とは裏腹に彼女の瞳には鋭い光が宿っている。
それは揺るがない信念であり、何事にも屈指ないという無言の意思表示でもある。
彼は彼女に近付くと、目の前でわざとらしく溜め息をついた。
「四六時中、背後から見られているってのは、あまり良い気がしないな」
「だって、今興味があるのはあなたのことだけだもの」
「ならせめて、一緒に連れて行ってくれと言ったらどうだ? あんたなら旅慣れているだろうから配慮する必要はなさそうだし、拒んだりするつもりはないが?」
「私の性格上それは無理よ」
余りにも平然とした発言にレイヴァンは思わず心の中で項垂れた。
これは押しかけのマリアンより質が悪い。
何とも厄介な女に目を付けられたものだ。




