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「私を殺す? ……おかしなことを言うものですね。 私の質問が理解できませんでしたか? あなたの命は私が握っているのですよ? どうして殺されるのが解っていて、ここに戻ってきたのかと聞いているのです!」
ダグラスは突然声を荒げフィーネを睨みつけた。
その瞬間、彼女は悲鳴を上げ胸元の服を掴むと床に両膝から崩れ落ちる。
ダグラスが呪いの力を使ったのは明白だった。
「標的を始末し損なった上、逆に助けられ、挙げ句の果てに私を殺そうと揃って乗り込んでくるとは…… どれだけ愚か者なんですか! 私がそのような人間を許すとでも思っているのですか!」
妖しく眼を光らせ更に力を込めようとしたダグラスだったが、それは叶わなかった。
「愚かなのは間違いなくあんただ」
間合いを詰めたレイヴァンは相手の顔を目掛けて剣を素早く薙ぎ払う。
一閃した刃がダグラスの両まぶたを切り裂いた。
「呪いなど知らないと言った矢先に、その力を使ってどうする? 自分が嘘をついていたと認めたようなものだ」
両手で顔を覆い目が見えないと叫ぶダグラスにレイヴァンは近づく。
「それに目に力を込めることで呪いの力が強くなると、あからさまに相手に伝えてどうする?」
剣を握り直す音にダグラスは震え上がった。
見えなくても直感が殺されると感じ取っている。
「ま、待ってくれ! 命だけは! ……頼む、殺さないでくれ!」
「自分の罪を認め、謝り、償う意思を見せる機会は既に与えたはず。 それを今更命乞いなどしても見苦しいだけだ」
「そのようなこと言わずに! お、お金ならいくらでも渡します! 好きなだけ持っていってください! だから!」
「悪いが金に不自由したことはない」
「な、何を言います! お金はいくらあっても困らない、何より大切なものです!」
「違うな。 過剰な金は無くても困らない。 そして世の中には金よりも大切なものがいくらでもある」
「そんなものあるはずがない!」
反射的に答えたダグラスだったが、失言だと気がつき完全に血の気が引いた。
相手と商談する時はまず相手の意見を聞き一定の理解を示した上で自分の主張を……
「待っ」
「あんたみたいな人間には一生、それこそ死んでも解らないんだろうな」
レイヴァンは剣を大きく振り抜いた。




