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レイヴァンの口から出た言葉にダグラスは思わず吹き出した。
とても笑いを堪えられそうにない。
「生憎ですが、私の手元には奴隷なんて居ませんよ」
「どういうことだ?」
「奴隷は全て金貨に変わったということです」
「……なるほど。 売りさばいた後だから既にお前のものではないということか」
「そういうことです。 奴隷を取り返したいのなら買っていった客を追いかけることですね。 それなりの金を積めば何人かは返してもらえるかもしれませんよ?」
「それは少々厄介だな」
レイヴァンが唸ると、今度はダグラスが不適な笑みを浮かべた。
「用がそれだけなら私はこれで失礼します」
歩き出そうとするダグラスにレイヴァンは再度呼びかける。
「もう一つ聞きたいことがある。 あんたフィーネという女を知っているな?」
その一言にダグラスの表情は一瞬強張った。
慌てて知らないと否定するがレイヴァンがその一瞬を見逃すはずなかった。
「流石に表情が変わるか。 無理もない、あんたが仕向けた人間だしな」
「……か、彼女がどうかしましたか?」
核心を突くと彼は観念して尋ねてくる。
レイヴァンはそれを鋭い視線で見据えた。
「傷ついた彼女を助けたところ、あんたに大切な剣を奪われた上、毎日弄ばれたことで深く傷ついたから何とかして欲しいと頼まれてね」
「な、んですと……」
「どうなんだ? これでも元騎士だからな。 武器を持たない人間を、しかも疑いだけで殺すつもりはない。 だが、彼女の話が真実なら話は別だ。 強奪と強姦はどちらも重罪。 その二つを犯したと言うのなら極刑をもって償ってもらおう」
「馬鹿なことを言わないで下さい! 彼女の剣を奪ったことなど一度もありません! あなたは彼女と戦ったのでしょう? 彼女はちゃんと剣を持っていたはずです!」




