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席に着くとすぐに給仕の女性が注文取りに姿を現した。
「酒と踊りの店『緑翼亭』へようこそ。 早速だけど注文を聞いても良いかしら?」
「俺は適当に見繕ってくれればそれで良い」
「リルは魚料理とぶどう酒を頼むです!」
「おすすめ料理に魚料理、ぶどう酒ね。 ……そちらのお姉さんは修道女だよね? もしかして食べられない食材とかあるの?」
「お心遣いありがとうございます。 これと言っては無いのですが、できましたら野菜のみの食事を用意していただけると助かります」
「野菜だけね、了解」
マリアンは自分よりも明らかに若い給仕の口調と姿に圧倒されていた。
テキパキと働きそうな彼女だが、接客業なのだからもう少し丁寧に話しかけるべきだと思ったし、何より……
「あの……」
「他にも何か注文が?」
「あ、いえ、注文ではなくて質問が」
給仕が首を傾げるとマリアンは続けた。
「その服装は恥ずかしくないのでしょうか?」
「……何で?」
「何でって、ドレスが着崩れてしまっているではありませんか。 身だしなみは大切ですよ?」
「これは着崩れしたわけじゃなくて、こういう意匠なだけよ。 ここの店で働くための制服。 修道女さん解る?」
「もちろんです。 それならばせめて胸元はきちんとお隠しになった方が良いかと思います」
「これは敢えて見せているんだけど?」
給仕の答えにマリアンは耳を疑った。
「敢えてなんですか!? な、なんと破廉恥な……」
「酒場の給仕の服装なんて何処もこんなもんだと思うけど? ……ってか、破廉恥だなんて言葉久々に聞いたわ。 やっぱ修道女ってのは変わり者なんだね。 それに、私からしたらその格好の方がよっぽど恥ずかしいと思うけど。 その姿で街を歩けって言われたら、どれだけ視線を集めることか」
「この姿はミカエリス様に仕える者の装束。 どれだけ視線を集めようと決して恥じる姿ではありません」
「いきなり真面目な顔して返さないでよ。 調子狂うじゃない。 ……とりあえず注文は以上で良いのかな?」
マリアンとの会話はもう御免だと言わんばかりに話を切り上げた給仕の彼女は視線をリルに向けて尋ねた。