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その瞬間、ガープは黒い炎に包まれた。
喉元を押さえ込まれた挙げ句、炎に包まれ呼吸がままならない彼は不気味な程低い呻き声を上げる。
相手の腕に爪を立て振り解こうとするが、メフィストフェレスは一向に動じない。
それどころかその姿を見て笑いを始めた。
「予想以上に可笑しいよ!」
しばらく腹を抱えながら燃え続ける姿を眺めていたメフィストフェレスだったが、笑い声は突然ぴたりと止んだ。
「相手がおじさんだとすぐに飽きちゃうな。 やっぱり、こういうのは人間の女や子供でやらないとダメだ」
無造作にガープを地面に投げ放つと、メフィストフェレスは片手の掌を相手に向ける。
「さようなら」
短い言葉の後、激しい爆発が起こりガープはものの見事に巻き込まれた。
舞い上がった土埃が収まると、そこには大きく抉れた床だけが残っていた。
「……やばい、やりすぎた。 誰かに見つかる前に逃げないと流石に怒られちゃうかも」
気まずいと言いながらも彼の口元は笑っている。
軽やかな足取りで窓に歩み寄ると外を眺めた。
「封印の楔が見つからなくて探し飽きてきたところだし、久しぶりにミカエルをからかいに行こうかな」
窓に足をかけ、背中に生えた黒い羽根の翼を大きく広げる。
「……でも、何処にいるか解らないや。 居場所はしっかりと聞いてから殺すべきだったかも。 僕って意外と短気だなぁ……」
メフィストフェレスは残念そうに一つ息をつくと、見渡す限り雪に覆われた白銀の世界へと飛び出した。




