~ 66 ~
傷ついたガープが姿を現したのは磨かれた黒曜石が敷き詰められた広い一室だった。
部屋の中央には真紅の絨毯が敷かれており、それは部屋の奥へと途切れることなく続いている。
痛みを堪えながら足を進めると静寂に包まれた部屋は不気味なほど足音が響いた。
歩き始めてしばらくすると彼は部屋の奥に誰かが居ることに気がついた。
周りよりも二段高くなった床に置かれた大きな椅子。
天鵞絨をまとい金細工をあしらった立派なその椅子には漆黒の服で全身を包んだ黒髪の若い男が座っていた。
この城にいったい誰が?
訝しみながら更に足を進めたところでガープは相手を正確に認識した。
「メフィストフェレス!」
思わず声を上げると椅子に座り静かに眠っていた彼はゆっくりと目を開く。
その瞳は真紅の絨毯よりも更に深い紅色をしていた。
「どうして、あなたがこの城に!?」
「どうしてって、ここは僕の城じゃないか」
にっこりと無邪気に微笑むその姿は、まるで少年のように愛らしかったが、ガープには不愉快極まり姿に映っていた。
「あなたの城などではありません。 この万魔殿はルシファー様の為にマモンが築き上げた城です。 そしてその玉座は、あなた如き者が座れる椅子ではない」
鋭い視線でメフィストフェレスを睨みつけると相手は笑顔を返してくる。
「ここは元々僕が一人で攻め落とした人間の城だよ? それをあのオジさんに改装をお願いしただけ。 それに今、僕らの王様はお休み中だ。 黙っていれば気付かれやしないさ。 何より、僕は王様に施された五つの封印の内、四つも解いたんだ。 これぐらいしたって怒られることは無いと思うけど?」
メフィストフェレスはゆっくりと立ち上がるとガープの下へと歩み寄った。
「そんなことより、この傷はどうしたの?」
そして背の高いガープの肩に手を当てながら面白そうに傷口を眺めて呟く。
「あなたには関係のないことです」
「あれ? そうかな? 関係あると思うけどな。 だってこの傷ミカエルにやられた傷でしょ?」
驚くガープの表情に彼は愉快そうに声を上げる。
「傷口だけなら解らないとでも思った? だったら君はとってもお馬鹿さんだね。 奴の力が微かに残っているよ」
不適に笑うメフィストフェレスは何食わぬ様子で腰の剣に手をかけた。




