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表情が険しくなる彼に対して彼女は穏やかな笑みを浮かべる。
「最後に会った男が、あなたで本当に良かったわ」
「何が言いたい」
違和感のある言葉にレイヴァンはフィーネを問い質した。
「私の彼を殺したのもメフィストフェレス。 私はずっと奴を追って生きてきた」
目を見開いて驚くレイヴァンを前に彼女は続ける。
「同じ思いを持つあなたになら安心して敵討ちを任せられそうね」
「何故、俺に託すと? ……あんたはそれで良いのか?」
「身体を弄ばれ汚されるのは今に始まったことじゃないから一向に構わない。 むしろ最近は楽しんでいるくらい。 ……でも、大切な剣に呪いをかけられ汚されたとなるとね。 流石に心が折れてしまってメフィストフェレスのところまではとても辿り着けそうにないわ。 何より、今は別のことで頭がいっぱいなのよ」
フィーネは近くで立ち聞きするリルの前にゆっくりと足を運んだ。
「その剣、返してもらえるかしら」
手を差し伸べる彼女にリルは戸惑った。
強引に奪い返すつもりはなさそうだが、先ほどまで主人と戦っていた相手。
どうしたら良いのかとレイヴァンを見つめる。
リルの視線にレイヴァンはひとつ息を吐くと、フィーネの背に向けて声をかけた。
「その剣を取り戻し、どうするつもりだ?」
「解っているのに聞くなんて野暮な男がすることよ?」
彼女は振り向かずに淡々と答える。
「解っているから聞いている。 あんたはダグラスと相打ち覚悟で殺り合うつもりだろう。 本当にそれで良いのか?」
「……意地悪ね」
「生憎、気が利かない男でね。 そこらへんには疎いんだ」
フィーネは剣を取り上げようとするがリルは頑なに拒んだ。
「悪いことに使うなら返さないです!」
「別に悪いことに使うわけじゃないわ。 単に全てを終わらせるだけよ」
「終わらせるのはあんたの勝手だが、俺の質問はまだ終わっていない」
レイヴァンはリルとフィーネに歩み寄った。




