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「だが、あんたは自ら剣を持って現れた」
さらりと答えるフィーネに向かってレイヴァンは眉をしかめる。
「正直、私も驚いたわ。 まさか返してもらえるなんて思ってもいなかった。 ……でも、返された剣を見て解ったの」
剣の話になった途端、彼女は表情に影を落とし物悲しそうにリルが持つ剣へと視線を向けた。
「ダグラスたちは私の剣に魔力を込めると、それを使って彼女を殺せと迫った」
「……となると、あんたはダグラスと何度か会っていたことになるな」
「その認識で間違いないわ」
フィーネは剣を見つめたまま話を続ける。
「半年ほど前、ある街でダグラスに出会ったの。 最初は単なる好色な商人だと思ったんだけど、明らかに怪しい魔力を放っていたわ。 調べてみると彼は悪魔と契約した人間だった。 それで討とうしたのだけど……」
「返り討ちにあったのか」
「恥ずかしい話だけど、その通りよ。 上級悪魔の力には歯が立たなかったわ。 結局、大切な剣を奪われ呪いまでかけられた。 それからと言うもの私は大切な剣を引き合いに身体を弄ばれ、逆らえば苦しみを与えられ…… 本当に最悪な日々だった」
「流石に同情する話だな。 それにしても、あんたがそこまでして取り返そうとする、あの双剣はいったい」
「あの剣はね…… 大好きだった彼が唯一残してくれた物なの。 ……知っているかしら? 悪魔の炎は全てを焼き尽くすまで決して消えることはないのよ」
レイヴァンは静かに頷いた。
「二年前、彼は悪魔と戦い敗れた。 黒い炎に包まれ目の前で塵と化したのに、あの剣だけは無傷で残った。 それが私へ託された彼の意志のような気がして……」
「形見として常に持っていたわけか」
「剣を大切にする女なんて、ホント可笑しな話しでしょう?」
「そうでもないさ」
自嘲気味に笑顔を見せるフィーネに対してレイヴァンも同じような表情を浮かべた。
「そんな表情をするなんて、あなたも同じような経験があるのね。 そして、それがメフィストフェレスを追う理由」
「……そういうことだ」




