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レイヴァンは暖かな温もりを感じて意識を取り戻した。
目を開けると視界に自分を見下ろす二人の顔がある。
「リル…… マリアン…… 二人とも無事か?」
朦朧とする意識を振り払い、身体を起こしながら問いかけるとリルは「それはリルたちの台詞です!」と答え、続けてマリアンが「そうです!意識を失って倒れていたのですから、もう少し横になっていて下さい。治癒を続けます」と真剣な表情を見せる。
「倒れていた?」
「ご主人様、覚えていないのですか?」
「生憎な」
レイヴァンが忌々しそうな顔をすると、リルは少し興奮した様子でその時の様子を語り始めた。
「急に風が強くなった後、ご主人様が何か叫ぶと、ご主人様の背中に光る翼が生えたです! その翼が大きく広がって、真っ白な羽根がリルたちの周りを舞って、キラキラしてる間に風は無くなったです! リル嬉しくてご主人様に駆け寄ろうとしたですが、そこでご主人様が、ばったりと倒れたです!」
大きな身振り手振りで意味不明な事を話すリルにレイヴァンは思わず目を点にした。
「……リル、嵐で頭をやられたのか?」
「やられてないです! 砂嵐が凄くてはっきりと見たわけではないですけど、間違いなくあればご主人様に生えた翼です! 白い羽根がリルたちを守ってくれたです!」
「俺は人間なんだ。 翼が生える訳がないだろう」
レイヴァンは話を切り上げ周囲の様子を見渡した。
悪魔の気配は無くなり、先ほどまで居た街並みが見える。
今の荒野は何だったのか。
まさか悪魔の幻術か?
訝しみながらもレイヴァンはすぐに次の行動に移った。
地面に突き刺した短剣を全て回収すると皮ベルトに戻し、黒い剣も鞘へと納める。
その一式をリルに手渡すと自身は未だに意識を失っているフィーネの下へと歩み寄った。
「マリアン、治療の続きを頼みたい」
「わかりました」
マリアンはフィーネに駆け寄ろうとしたが、それよりも早く断りの言葉が入る。
同時に今まで倒れていたフィーネは何事も無かったかのように身体を起こすと、三人に向って立ち上がった。




