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奴隷を売り捌き集まった金が袋に詰められて部屋に運び込まれる度にダグラスは満足そうな笑みを浮かべた。
「後はガープ殿に頼んで部屋を丸ごと安全な別のアジトに移動してもらうだけ」
一人呟きほくそ笑んでいると彼の傍に描かれた魔法陣が光り出し、声を漏らす間もなくその場にガープが姿を現した。
待ちわびた細身の悪魔の登場に両手を広げて喜びを表現したダグラスだったが、彼の目前で悪魔本人は崩れるように倒れ込む。
「ガ、ガープ殿!?」
ダグラスの悲鳴に近い叫びを聞き恰幅の良い悪魔マモンもその場に駆けつけた。
「いったい、どうしたと言うのだ!?」
「すみません、マモン。 ミカエルの剣を持つ人間にやられました」
「まさか! 何ということだ……」
「あの人間は実に厄介です。 剣だけではなく力までもが奴に酷似していて…… 光の如く動かれては太刀打ちできません」
「今はそんな話をしている場合ではなかろう」
マモンはガープを抱き起こし腹部の傷に手をかざすと魔力を高め傷を癒やそうと試みたが、一向に治る気配が無かった。
彼の背中に冷たい汗が流れる。
「無駄ですよ。 あの剣に斬られてしまっては、外的要因で治すことは不可能です」
かざされた彼の手を退けるとガープはゆっくりと立ち上がった。
「良く聞いて下さい。 ミカエルの剣を持つのは黒服の人間です。 彼に気をつけて下さい」
「黒服の……? ならば、白い服の人間の女というのは?」
「それは解りません。 彼に阻まれ一切手出しができませんでしたので」
「こんな時まで解らないと言うのか」
マモンが思わず憤りを覚える傍らでダグラスはひとつの疑問を抱いた。
「ガープ殿、フィーネはどうしたのですか?」
「……フィーネ? あれは役に立たないので私が斬り伏せました。 とどめは刺せませんでしたが、致命傷は与えたので今頃は息絶えていますよ」
「斬り伏せた!? まさか本当に……。 何と勿体無い。 殺し屋として使えなくとも、侍らせておけばあれほど楽しめる女、そうは居ないのに」
「一任したのはあなたでしょう?」
「それは、そうなのですが……」
肩を落とすダグラスを横目にガープは話題を戻した。




