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「万物を照らす光の精霊よ、礎の刃に宿りてその力を示せ。 我求めるは恒久の光。 礎を結びて生まれる抗いの壁」
レイヴァンが言葉を紡ぎ出すと、それに呼応して地面に突き立てた短剣が光り出す。
光は天に向かって伸び、溢れ出した光の粒子はベールとなり四人の周りを幾重にも包み込んだ。
目前に迫った風が弱まり、彼の背中を見守っていたリルとマリアンは安堵の表情を浮かべる。
これでもう大丈夫なのだと思ったが、二人の目の前で彼は体勢を崩した。
片膝をつき肩で大きく息をするレイヴァンに声をかける間もなく強烈な風が吹き荒れ、二人は息することもままならない状況に陥った。
身体が浮き上がりそうになるのを必死に堪え、二人は手を取り合うと横たわるフィーネを押さえ込む。
後はただ助かることを祈るしかできなかった。
レイヴァンの顔は苦痛で歪んでいた。
慣れない結界術とはいえ尽きるほど霊力を消費したわけでもないのに、右手には激痛が走る。
悪魔の目の形をした痣だからか、助かろうと足掻いているのが見えていて邪魔をしているのかもしれない。
状況を立て直そうと試みるが、痛みと荒れる風に拒まれる。
細身ながら女性よりは大きな身体が軽々と吹き飛ばされそうになった。
襲い来る風の刃に切り傷も増えていく。
もはや集中して霊力を高められる状況ではない。
手遅れなのか?
脳裏をよぎる弱音をレイヴァンは短い言葉で否定した。
続けて過去の誓いを思い出し自らを奮い立たせる。
メフィストフェレスを討つまで死ぬ訳にはいかない。
そして奴を討つためなら、どんな苦汁でも喫する。
レイヴァンは力の入る左手で光の剣を生み出すと素早く地面へと突き立てた。
強風に煽られる身体を剣を支えにして堪えると、風の音に負けない声量で女神の名を叫んだ。




