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レイヴァンは受け取ったベルトの鞘から短剣を一本引き抜くと、辺りを見渡して場所を見繕ってから地面に突き立てた。
それを本数分、フィーネをぐるりと囲むように繰り返していく。
全てを刺し終えたところで彼は二人に声をかけた。
「二人は術の成功を祈っていてくれ」
彼の真剣な表情に二人は無言のまま小さく頷いた。
「そう心配そうな顔をするな、あんたは祈るのが日課だろう?」
マリアンに向け慣れない笑みを浮かべてから、リルの頭を軽く撫でるレイヴァン。
一つ息をつくと二人に背を向け、目を閉じて意識を集中し始めた。
『結界を張るためには、まずは霊力を高めるのだ』
頭の中に響くのは術の師であるクロノスの声。
レイヴァンは過去の記憶を手繰り寄せていた。
『高めた力は均等に媒体へと注げ。 その出来次第で結界の強固さが決まるぞ。 それから精霊に呼びかけて力を借りろ。 発動させたい効果にあわせ呼ぶ精霊を変えるのだ』
……クロノス、俺の声に応えるのは相変わらず光の精霊のみ。
その光の精霊は風との相性が悪すぎる。
願わくば貴方のように四大精霊に好かれたかった。
それでも今は、今ある力で乗り切らねばならない。
『光の精霊は最も瞬発力があり刹那の間に爆発的な力を生み出す。 剣士であるお前にとって、とても相性が良いだろう。 だが、その分持久力がない。 光を長時間同じ状態で維持するのは至難の業だ。 良いか、ユリウス。 精霊の力を使う時はしっかりと呪文を紡げよ。 術の発動後を強く想像し、精霊たちと確実に呼吸を合わせるのだ。 恥ずかしいからと言って無詠唱ばかりではいかんぞ』
……正直なところ、剣士が戦闘において呪文を唱える余裕なんて滅多にありません。
それでも唱える時は先を見越した布石を打つためです。
故に私は霊力の消費が激しくても極力無詠唱で術を発動します。
その考えは今でも変わりません。
ですが、今回ばかりは教えを守りたいと思います。
意識を集中し霊力を極限まで高めたレイヴァンは目を見開いた。
迫り来る風は刃を生み出し、一つ二つと襲いかかってくる。
頬や服を掠り、彼の切り傷を増やしていく。
それでも微動だにしない彼は力強く手を合わせた。




