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鮮血と共に宙を舞った悪魔は、翼を広げて空中で静止すると肩を大きく上下に揺らし呼吸を整える。
「ま、間違いないですね。 恐ろしいほどにミカエルの力を感じます。 ……このことを早くマモンに伝えねば」
悪魔は細身の剣を鞘に戻すと両手を合わせ魔力を高めた。
「ミカエルの剣を持つ人間よ、ここは一旦引かせてもらいます。 またお会いできると良いですね」
悪魔が合わせた手を開くと、彼の足下には不気味な光を放つ円が浮かび上がる。
それが魔法陣だと気がついた時、悪魔は既に半身を陣に潜らせていた。
「私の張った結界をお楽しみください」
悪魔が完全に姿を消し笑い声が辺りに響くと周囲の様子が一変した。
見えていた家屋が消え一面に荒野が広がると、レイヴァンたちを囲むように激しい風が吹き荒ぶ。
囲まれたのか!?
レイヴァンは舌打ちをするのと同時に反射的に剣を振るった。
光の刃が風の壁に襲いかかり、一瞬にして大きな亀裂を生む。
そこから抜け出せるかと考えたが、亀裂はすぐに塞がってしまった。
天を仰ぐと頭上にも風は吹き荒れていた。
どうやって抜け出す?
頭を悩ますレイヴァン嘲笑するかのように状況は更に悪化していく。
風はじわりじわりと範囲を狭めていた。
動く結界だと!? どういうことだ? 動く物を媒体にしているのか?
……有り得ない。
結界と言うよりも悪魔の魔法陣か?
レイヴァンは焦る気持ちを抑えようと一つ息をついた。
深く息を吸い込み、考えを張り巡らせる。
何にせよ、周りが迫ってくるということは、風が何かしらの効果を併せ持っていると考えるべきだ。
ゆっきりと範囲を狭めているのは、なぶり殺しを楽しむためか?
それとも単なる時間稼ぎか?
どちらにしても早く抜け出す必要がありそうだ。
ならどうやって抜け出すか。
……一瞬生まれる亀裂から移動術で抜け出せる。
だが、自分だけしか抜け出せない。
それに自分だけ抜け出して、どうする?
結界の媒体を外から破壊するか?
……妥当な策だが広範囲に媒体があれば時間が足りない。
失敗したらリルもマリアンも見殺しだ。
それでは意味がない。
ここは全員で耐えるのが最善策か。
そうなると……
辺りを再度見渡したレイヴァンは呆気に取られ立ち尽くす二人を見つける。
「二人とも急いでフィーネの下へ集まるんだ。マリアンは直ぐに手当てを」
声を張り上げると彼女らは我に返りすぐに返事をした。




