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「それで、ブライトからは他にどんな話を聞いた?」
「あなたが振るうのはロディニア国の伝統的な剣術であるとか。 怪我をして利き腕を左に変えたことかしら」
フィーネはレイヴァンとの視線を外さないように、ゆっくりと腰を曲げ剣を拾う。
「なるほど。 そこまで聞いていたとなると、動きの癖なんかも筒抜けなわけか」
「そう言うこと。 本来の目的とは多少違ったけど聞いておいて正解だったわ」
彼女は剣を握りしめると間合いを詰めてきた。
「そろそろ、痺れが全身に回ってきた頃かしら?」
「……何だ、突然饒舌になったのはそのためか」
「私、無駄なことはしないの」
フィーネは構えると相手を射抜くような鋭い視線でレイヴァンを見据えた。
「連れの二人もすぐに同じ所に送ってあげるから心配しないで」
「悪魔にしては粋な計らいだな」
彼女が更に近づいてくるとレイヴァンは笑みを浮かべる。
「強がりはもう止めたら?」
「強がりなどではないさ」
彼女がとどめを刺そうと鋭い突きを繰り出すと、同時にレイヴァンも剣を振り上げた。
甲高い音が辺りに響く。
宙を舞ったのは黒い剣だった。
フィーネが驚きの声をあげる間に彼は追い討ちをかける。
続けて薙ぎ払うと彼女はとっさにもう一本の剣で受け止めて距離を取った。
「短剣に塗ってあるのは全身を麻痺させる強力な毒なのに、何故動けるのよ!」
「生憎、昔から毒などの状態異常に強い身体でね。 冒されてもすぐに回復するんだ。 ある知り合いは精霊に愛されているから護られているのだと言ったかな」
レイヴァンは動揺を隠せないフィーネとの間合いを詰める。
「時間を置いたのが失敗だったな。 このことはブライトから聞かなかったのか?」
彼が剣を振るうと彼女は紙一重で攻撃をかわした。
「残念ながら聞いてないわ。 もう少し激しく扱いてあげるべきだったかしら!」
「いいや、止めておいて正解さ。 いくら聞き出そうとしても知らないことまでは漏らさない」
不適に笑うレイヴァンに向かってフィーネは忌々しそうに舌打ちをした。
「いくら毒に強いからと言っても、いつかは限界がくるはず! それまで何度でも試みるだけよ!」
叫ぶ彼女の手には短剣が握られていた。




