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隙を突いた一振りは確実に捉えたと思われたが、フィーネは腕を最後まで振り上げず剣を自ら手放していた。
空を斬る自分の剣と地面を小刻みに弾む黒い剣。
二つの剣に意識が向けられると、次の瞬間には左腕に痛みが走っていた。
彼女への注意が散漫になったことに気がついた時には手遅れだった。
上げた左腕が斬られ視界には血飛沫が舞っている。
痛みと共に視線を戻した時、剣を捨てた彼女の手には短剣が握られていた。
今仕掛けたのは、もう一本の剣ではないのか?
浮かんだ疑問を解決するまでの時間は無かった。
彼女は既に追撃に動き出している。
後方へ跳んで距離を取ろうとすると、素早く短剣を投げ放ってきた。
風を切り迫る短剣は確実に身体の中心を狙っている。
すかさず剣で弾き落とそうとするが、腕が思うように動かない。
手に痺れを感じ握力が弱まる。
まさか!?
レイヴァンは咄嗟に光をまとった。
瞬く間に立ち位置を変えレイヴァンは姿を現した。
今はマリアンの目の前に移動している。
「短剣に毒とは用意が良いな」
血の流れる腕を押さえながらフィーネを睨むと、彼女は珍しく驚いた表情を見せている。
「それが光速の移動術ね。 とても厄介だわ」
「そうでもないさ。 移動できる距離は限られているし、霊力の消耗も激しい。 それを無詠唱で使うなんてのは論外だな」
「それを早々に使うなんて余程自信があるのね。 それとも見下されているのかしら?」
「まさか。 殺されないように必死なだけさ」
レイヴァンは一つ息を吐くと続ける。
「どうやら、ブライトから色々と聞いているようだな」
「ご名答」
「相手に手の内を明かすようなことは話さないように言っているのだが、あんたの前では無理だったか」
「彼はとても正直者ね」
「バカがつくほどな」




