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歩いていると時折、彼らから物欲しそうな目で見られているのが解る。
解放して欲しいという願望なのか、それとも自分を買わないかという主張なのか。
どちらにしても今は彼らの要望に応えることはできない。
しばらく歩き続けると、ついに道の終わりが見えてきた。
両側にあった露店が無くなり、人は極端に少なくなっている。
ここがもし城下町と同じ作りであるなら、目抜き通りを抜けた先は外郭門になるのだが……
レイヴァンが通りを抜けようとすると、マリアンが一つの店の前から動かないのに気がついた。
近づくと彼女は設置された鉄の檻に向かって膝を着き、格子の棒を掴んでいる。
中からは親を呼ぶ小さな子供たちの声が聞こえてきた。
一番見せたくないものに気づいたか。
彼女に声をかけようとするが、それよりも先に店の人間がマリアンに話しかけた。
「ご婦人どうです? 安くしておきますよ」
「安く?」
「えぇ、このガキども身体に不自由があってまともには売れないんでね。 お安く提供させてもらいます」
「……あなたと言う人は!」
彼女は珍しく声を荒げ彼に詰め寄ろうとしたが、そんな事をしたら厄介な騒ぎになることは明白である。
レイヴァンは素早く後ろから彼女の口をふさぐと羽交い締めにして自由を奪い、代わりに答えた。
「あんたは俺らに使えない人間を売るつもりか? 悪いが、満足に体が動かないガキは要らないんだ」
「金髪の旦那、そう言わずに一人ぐらい……」
「くどい。 俺らが探しているのは、まともなガキなんだ。 他を当たらせてもらう」
早々に話を切り上げると、レイヴァンはマリアンを捕まえたまま歩きだし通りを抜けた所で解放した。
「何をやっているんだ! 勝手な行動はするなと言っただろう!」
詰め寄ると彼女はコートの袖を強く握り返してきた。
その手は震え、目にはうっすらと涙が浮かんでいる。
「……どうして。 どうして、ここの人たちは…… 皆、同じ人間なのに…… こんなのって酷い。 お願いです、レイヴァン。 ここにいる人たちを助けてください」
「……悪いがそれはできない。 あんたも見ていて解るだろう。 ここに何人の奴隷が居ると思っているんだ。 とても俺一人の力で解放できる数ではない」




