~ 37 ~
しばらくすると一人の女性が部屋に姿を表した。
小さく波打つ黒髪に非の打ち所がない容姿の彼女はダグラスを見つけるとすぐに跪き頭を下げる。
「ダグラス様、お呼びでしょうか」
「待っていましたよ、フィーネ」
ダグラスは彼女に歩み寄ると、手にした剣を目の前に投げ捨てた。
剣は床の上を小刻みに跳ねながら二本がぶつかり合い不規則なリズムで音を立てる。
一瞬何が起きたのか理解できなかったフィーネだが、見覚えのある剣と鞘に思わず目を見開いた。
手を伸ばし二本を握り締めると、まるで我が子のように抱きしめる。
「剣をお返しいただけるのですか?」
「仕事を完遂させるために必要と判断したからです。 本当にあなたの剣か早速抜いて確認なさい」
薄ら笑いを浮かべるダグラスの様子に若干の違和感を覚えたが、彼女は指示に従い柄を掴み剣を引き抜いた。
引き抜いて、現れた刃の色にフィーネは言葉を失った。
明らかに色が違う。
いや色が違うどころの話ではない。
刃から溢れ出している、この禍々しい魔力は何だ。
これでは悪魔の振るう剣ではないか。
この剣は愛した人が残した唯一の片見だと言うのに!
フィーネはこみ上げてくる怒りを抑えられず、立場を忘れてダグラスを睨みつけた。
「なんと言うことを!」
「おや? 妙な事を言うものですね。 御礼を言うのなら“ありがとうございます”でしょう?」
不適に笑うダグラスの目が突然妖しく光ったかと思うと、次の瞬間にはフィーネが胸を押さえて苦しみだした。
「よもや忘れた訳ではないですよね?」
彼は彼女の目の前まで歩み寄ると髪を鷲掴みにして顔を持ち上げ、更に力を込める。
「お前の命は私の手中にあるんです」




