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思わず唸る二人に対してダグラスは続ける。
「彼女は封印の楔という言葉の餌を撒き、お二人が釣れるのを待っているのです」
「確かにそれが一番話の筋が通っていると言えるが……」
「信じ難いですね」
「とりあえず、その女が忌み嫌う人間なのか、それとも本当に封印の楔なのか確認する必要があると思います」
ダグラスが提案すると悪魔の二人は同時に頷いた。
「たしかに、ここで議論すること自体が馬鹿げているな。 さっさとその女を捕まえて剣を突き刺せば、どちらなのかはすぐに解ることだ」
「ダグラス、あなたの言うとおりですね。 それで、ミカエルの剣を持つかもしれない彼女の相手は誰が?」
ガープが無言でマモンを見つめると、彼は何食わぬ顔で視線を外した。
「ご安心下さい、マモン殿。 暗殺を生業としている打って付けの者が居ます」
「その人間、信用に足るのであろうな?」
「もちろんです。 今は身も心も私に忠実な僕ですので」
「なら良いが」
ダグラスは金貨を運んでいた男の一人を呼び止めると耳打ちをして指示を出した。
男は一礼すると部屋を取び出して行く。
次にダグラスは金貨をしまい込んでいる部屋の奥へと入り、何かを引っ張り出してきた。
いきなり何を始めたのかと訝しんだ悪魔二人だったが、彼が手にした物を見て声を上げる。
「その二本の剣、確か我々が魔力を込めた剣だな」
「厄介な金属で出来ていて、苦労しましたよ」
「実はこの剣、今呼びつけた者の得物なんです」
ダグラスは双剣の片方を鞘から抜くと怪しく黒光りする刃を眺めた。
「封印の楔を解き放つには黒き刃の剣で心臓を突かねばならない。 そうでしたね?」
「まさしく、その通り。 まさかダグラス、お前はこうなることを予想していて我々に魔力を込めさせたのか?」
「いえいえ、私は珍しい武器が好きでして。 これはあくまでも偶然の産物ですよ」
ダグラスは剣を鞘に戻すとほくそ笑んだ。
「実に素晴らしい剣です。 この剣でやってきた女を殺せばどちらに転んでも……」
言い切る前に彼は高笑いを始めた。
「ダグラス、お前を人間にしておくのは実に惜しいな」
「勿体無いお言葉です」




