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「ごめんください! どなたかいっらっしゃいませんか?」
その様子を見たレイヴァンは目を見開いた。
リルは主人の隣にやってきて小さな声で呟く。
「ご主人様、こういう人を天然って言うんですよね? 昔ブライトに教えてもらったです」
「……否定はしない」
今の精霊石による爆破を見ていなかったのかと叫びたかったが、彼女は尚真剣な表情で扉を叩いている。
「私たち、人を助けるためにダグラスさんにお会いしたいんです! 中に入れて下さいませんか!」
マリアンが何度扉を叩き、声を張り上げても反応は一切無かった。
もうそれぐらいにしておけとレイヴァンが声をかけようとすると、わずかに早くマリアンが更に声を大にして叫んだ。
「私、ダグラスさんが探している封印の楔なんです! 正直なところ私には良く解らないんですけど…… 他の悪魔が言っていたから間違いないですよ! どうです? 扉を開けてはくれませんか?」
「マリアン! あんたいきなり何を叫ぶんだ!」
「ごめんなさい、レイヴァン。 私が出来ることは、これぐらいなので……」
「そんな事を言っても、扉は開きはしない!」
気まずそうな表情を浮かべる彼女に詰め寄るレイヴァン。
その彼のコートを掴んで引っ張るリルは静かに扉を指していた。
「ご主人様、扉が開いてるです」
耳を疑ったレイヴァンだったが、見れば本当に扉は開いていた。
爆破しても一切動かなかった扉が、今はマリアンの願いに応えてわずかに開いている。
そんな馬鹿な!
声に出して叫びたかったが、それよりも先に背筋に寒気が走った。
扉が開いたと言うことは、彼女の発言を聞いて開けた者が居ると言うことだ。
レイヴァンは表情を引き締め、何時でも抜剣できるように腰を低くして構えた。
気を張って周りを見渡し、疑わしい気配が無いかを探る。
今のところ怪しい気配は無い。
しばらく警戒した後、構えを解くとすぐに二人を扉へと促した。
「明らかに罠だとは思うが、こうなったらさっさとダグラスに会って双剣を返してもらおうか」




