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レイヴァンたちがリルを追いかけ、たどり着いたのは町外れの闘技場だった。
町と同様に荒廃していて正門の大きな扉には蜘蛛が巣を作っている。
鉄の錆具合から見ても長らく使っていないのは明白だ。
アジトとして使われているような痕跡は一切ない。
「本当にここなのでしょうか?」
「間違いないです! リル、この目でしっかり見たです!」
マリアンは乱れた呼吸を整えながら率直な疑問を声に出すと、人間の姿に戻ったリルが得意気に答えを返した。
「あいつらは何処から中に入って行ったんだ?」
「もちろん、この扉です!」
リルは主人の質問にも自信満々に答えると、人差し指で扉を指差した。
「そうは言うが……」
レイヴァンは言葉を切り、扉を力を込めて押してみるが一向に開く気配はない。
辺りを見渡しても目前の扉以外、外周は全て劣化の進んだ高い壁で囲まれている。
「とても使われている扉とは思えないな」
独り言のように呟きながら考えていると、ふと先程の男たちの会話を思い出した。
……結界か。
結界の力で出入り口を封じているとしたら少々厄介だ。
破るには結界を張った術士を直接討つか、効力の媒体を破壊するしかない。
だが、おそらく術士も媒体もこの壁の向こう。
壁は高くとても越えられそうにない。
頭を悩ますレイヴァンに対しリルが横から手を差し出した。
小さな手の平には赤い宝石が三つ乗っている。
「扉が開かないなら、破壊しちゃうです!」
満面の笑みで彼女が渡してきたのは炸裂の火炎術を封じた精霊石だった。
悪魔を封じる石とは違い、こちらは予め術が封じ込められている。
特定の呪文に反応し封じられた術が解放される仕組みだ。
彼女の案に賛同したレイヴァンだったが、思いとどまって首を横に振った。
「良い案だが、扉を吹き飛ばした音で侵入したことが相手に気がつかれてしまうかもしれない。 中の様子が解らない今は穏便に事を進めるべきだ」
「ならどうするんですか?」
「開け方の解る誰かが出入りするのを待ち伏せるしかないが……」
「そんなことしてたら日が暮れちゃいます」
「それが問題だ」
レイヴァンは再度扉に触れながら思案を続けた。




