~ 27 ~
「ダグラスさんが、今日は早めに入り口を閉めるって」
「何だと!? 聞いていないぞ!」
「だ、だから伝えに来たんですよ」
「時間は!」
「西の塔に日が掛かる頃です」
彼の発言を聞きリーダーの隣にいた無精髭の男が窓に駆け寄り外を眺める。
「ボス、もうすぐ掛かりそうです。 一刻の猶予もないですぜ」
「ジャン! てめぇ、こんな大事な情報を伝えに来ず、こんな時間まで何処をほっつき歩いていやがった!」
「違います! 別に油売っていた訳ではないですよ! 相手に顔が割れているからワザと遅れて……」
そう言いかけて彼は慌てて口を噤んだ。
失態だと気がついた時には既に手遅れなことが多い。
今のジャンの発言をレイヴァンが聞き逃すことはなかった。
鋭く睨むと彼は全身から汗を吹き出しながら、必死に男との会話に集中しようと矢継ぎ早に話題を戻す。
「外に馬車を用意してありますから、乗っていけばまだ間に合います」
「肝心の市に参加でず一銭も金が手に入らなかったら、何しにやってきたのか解らねぇからな…… 仕方がない。 野郎共、急いで向かうぞ!」
男たちは各々低い声で返事をすると、次々と店の外に出て行く。
殿となったリーダーがレイヴァンを見た。
「金髪の若いの、命拾いしたな」
「こちらの台詞だ」
鼻で笑う彼が外に出ると馬がいななき、すぐに軽快な蹄の音が聞こえてきた。
レイヴァンはカウンターテーブルの上で眠る黒猫を片手で持ち上げると外に飛び出した。
「リル、何時まで寝ている」
レイヴァンが声を上げると微動だにしなかった黒猫は左右の耳を器用に動かして反応を示した。
すぐに目を覚まし大きく欠伸をすると前脚で顔を洗う。
「急いであの馬車を追え。 行き先を突き止めるんだ」
レイヴァンが離れていく馬車を見据えると、黒猫のリルもつられて遙か先を見つめる。
「お前にしか任せられない」
その一言に彼女は一鳴きすると主人の腕をするりと抜け出し、全速力で駆けだした。




