~ 21 ~
「今のうちに馬と荷物を」
二匹目のオークが振り下ろした棍棒をかわし、呆然としている男に声にかけると彼は我に返った。
礼の言葉も返さず慌てて馬車に乗り込むと馬に鞭を入れ一目散に走り出す。
荷台を襲っていた狼たちは馬車を追って駆け出した。
その行動に今度はレイヴァンが呆気に取られた。
いきなり逃走するとは思ってもいなかった。
間違いなく他人に見られたくない物を積んでいたのだろう。
正直なところ何となくこうなる気はしていたのだが、実際に起こるとは……。
レイヴァンは一つ息をついて気持ちを切り替えると、二匹目のオークを背後から斬り伏せ、飛びかかってきた二匹のゴブリンをまとめて斬り払った。
後はオークとゴブリンが一匹ずつ。
相手の位置を再度確認しようと辺りを見渡すと背後から自分を呼ぶマリアンの叫び声が聞こえた。
振り返れば倒れた男に向かってオークが棍棒を振り上げている。
あれが直撃したら意識を失い無防備な男は助からないだろう。
すぐにオークとの間合いを詰め助けようとするが、今度はマリアンの叫び声を聞いたゴブリンが彼女に向かって動き出す。
レイヴァンは大いに舌打ちをすると全身の霊力を高めた。
光を纏い一気に加速すると駆けながらオークの脇腹を真横に薙ぎ払う。
崩れ落ちるオークを確認すると今度はマリアンに向かって速度を上げた。
「危なくなったら逃げろ」
ゴブリンよりも早くマリアンの下にたどり着くと背後に一声かけてから襲いかかるゴブリンを迎え討つ。
飛びかかってきた相手の動きを見極め、剣を払うと二つの肉片がマリアンの両側に落ちた。
思わず目で追ってしまった彼女は胴体から飛び出した臓物と、大きく見開いたまま息絶えたゴブリンの目と視線が合い大音量の悲鳴を上げる。
「そろそろ慣れてもらわないとな」
「こ、こればっかりは簡単に慣れるようなことではないと思います」
剣を鞘に戻したレイヴァンは尻餅をついていたマリアンに手を差し伸べて身体を起こすと、意識を失い倒れている男の下へと駆けつけた。
彼を見れば年齢は自分たちから少し上ぐらいの印象。
身なりは軽装でとてもハンターや傭兵には見えなかった。




