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レイヴァンとマリアンは昨日下ってきた山に沿って進み続けていた。
その道中、二人の間に会話はない。
レイヴァンは真剣な表情を浮かべ、ダグラスはどんな悪魔なのかと推察していた。
「あの!」
考え込んでいると不意に隣を歩くマリアンに声をかけられた。
「あそこに見えるのは何でしょうか」
彼女の言葉に顔を上げ指で示された方角に視線を向けると、遠くに馬車を取り囲んでいる下級悪魔の群れが見えた。
昼間の、それもこれだけ見晴らしの良い平地で、あそこまで豪快に囲まれるとは余程悪魔の好物を積んでいるのだろう。
それなのに馬車を護衛する者の姿が見えないとなると……
訳ありの馬車か。
「ゴブリンとオーク、それに狂気に煽られた野良犬か狼たちといったところだな。 安全が確保されていない郊外の移動に馬を使うから悪魔たちの恰好の的になるのさ」
「よく見えますね…… って、襲われているんですか!?」
「おそらくな」
「だったらそんな悠長に構えていないで、すぐに助けてあげて下さい」
「人の話を聞いていたか? これ以上、厄介事には関わりたくないと話したばかりだぞ」
「何を言っているのですか! 困っている人がいたら助けるのは人として当たり前です!」
動き出さないレイヴァンに向かってマリアンは鋭い視線で睨みつける。
普段の彼女の様子からはとても想像できないが、彼女が見せた凛とした瞳は彼を動かすのに十分な力があった。
何より彼にとっては昔を想い出させる。
「善処しよう」
二人が近づくと襲われている馬車の状況が鮮明になった。
オークが三匹、ゴブリンは五匹、それに狼が六匹。
馬車の近くで男が一人倒れており、もう一人の男が拙い剣捌きで応戦中。
荷台の幌はまもなく狼に食いちぎられるだろう。
「これ以上近づくなよ」
レイヴァンはマリアンをその場に留め、剣を抜くと勢い良く駆け出す。
同時に倒す順と策を組み立てて抗争の中心へと躍り出た。
突然の出来事に男と悪魔は呆気に取られた。
そのわずかな間にレイヴァンは男を襲うオークの一匹を屠る。
崩れ落ちる巨大な塊を強打して吹き飛ばすと二匹のゴブリンが下敷きになって圧死した。




