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「まったく、なんて数だよ」
日が沈みかけた山中。
鬱蒼と生い茂る木々の一本にもたれかかり、ブライトは忙しく呼吸を整えていた。
ほんの少し前までは新たに旅の仲間となった修道女のマリアンと談笑に興じていた。
だが、突然のゴブリンの襲来に状況は一変。
戦闘を繰り広げている間に皆と逸れ、一人きりになってしまった。
ゴブリンは人間の子供ぐらいの大きさで茶褐色。
醜い顔で奇声を発し、器用に弓などの道具を用いて獲物を捕る。
機敏な動きさえ警戒すれば力も弱く恐れる相手ではないのだが、今回は異常なまでに数が多かった。
普段は四、五匹で群れている。
それが両手で数え切れない群れなんて今までに聞いたことがない。
これだけの数とまともにやりあったら流石に対処仕切れず袋たたきにあって殺されてしまう。
ブライトは何かないかとポケットの中を無造作につかみ出すが、出てくるのは淡く光る精霊石ばかり。
未使用の石は残り六つしかない。
このようなことになるなら攻撃系の術を封じ込めた石を数個リルから貰っておくべきだったと後悔したが、逸れた今ではどうしようもない。
石が無くても、相手を一網打尽にできるような術が使えたら……
思いを馳せるが術の素質がいきなり開花するようなことはない。
八方塞がりな状況に彼の考えはひとつしかなかった。
逃げるが勝ち。
日が落ちるまでに山を下り町に入ってしまえばゴブリンたちは無闇に手を出してこないはず。
奴らはオークと違って人数による優劣は判断できる悪魔だ。
ブライトは大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出す。
そして前方に見える町の明かりを見て頷くと、勢い良く駆け出した。