~ 17 ~
古びた建物の一室に一人の男が入って来た。
手燭の灯りで足下を照らし暗い部屋の奥へと進むと、床には大きな白線の円が描かれており、線上には等間隔に六つの蝋燭が置かれている。
男は腰を落としその一つに火を移すと室内には青白い灯火が揺らめいた。
青白い光に照らされた彼は背が低く丸々と太った身体はお世辞にも健康的とは言えない姿で、白髪が混じる頭髪はかなりの割合で地肌が見えていた。
男の名はダグラス。
大陸を股に掛ける大商人であり、その手腕は同業者たちから一目置かれるほどの有名人だ。
ただ最近は焦臭い噂が多く評判はすこぶる悪い。
奇妙な炎の色と相俟って何とも不気味な様子の彼は全ての蝋燭に火を点し終えると、部屋の片隅に置かれた椅子に座り一息つく。
目の前のテーブルには葡萄酒を入れたボトルが一本と空のグラスが三つ並べられていた。
しばらく静かに席についていたダグラスだったが次第に身体を動かし始め、ついに我慢できなくなるとボトルを手に取った。
そしてグラスに酒を注ぐと一人で飲み始める。
一杯目を一気に煽り、二杯目はゆっくりと。間隔をあけ二口三口と飲み進めたところで、ようやく待ち人が現れた。
恰幅の良い体型で背中には黒い羽根を持ち、髪は油を使い綺麗に撫でつけている。
黒い羽根は上級悪魔の証なのだが見るからにダグラスと同様不摂生の中年男といった方が適当と言えよう。
彼はいつの間にか円の中に描かれた青白い光の六芒星の中心に立っていた。
彼はダグラスの向かいの席に座ると目の前で注がれた酒を一口飲んでから口を開く。
「封印の楔は見つかりましたかな?」
「残念ながら、まだです」
「そうですか…… それは残念なことです」
「申し訳ない、マモン殿」
「気にしないで下さい、ダグラス。 最終的にメフィストより先に見つければ良いだけのことです。 ……あの若造より先にね」
「明日の夜、今までより大規模な奴隷市を開きます。 かなりの人間が集まりますので、きっとその中にお探しの人間も居るはずです」
「それは実に楽しみな話です」
「これも全てはマモン殿が私に力を授けて下さったからこそ」
「いやいや、あなたの働きぶりがあってこそ、私の力が活きるのです」
二人の中年男が笑い合っていると、別の声が聞こえてきた。