~ 16 ~
「意外と素直なのね。ここから逃げ出そうとはしないの?」
「そんなことするかよ。 逃げ出して失敗でもしたら、余計に迷惑をかけちまう。 あいつ怒ると怖いんだぜ?」
茶目っ気たっぷりに答えると、彼女も微かに笑みを浮かべた。
「信頼しているのね」
「そりゃあ、長い付き合いだしな。 あいつの性格については誰よりも知っているつもりだ」
「ねぇ、起きたついでに彼のことをもっと教えてくれないかしら?」
床に座るブライトに合わせ彼女もその場に腰を下ろす。
「それは無理だ。 あいつは自分の話をされるのをとことん嫌うからな。 余計に怒られちまう」
「そんなこと言わないで」
彼女はぴったりと寄り添うと、しなやかな指先で彼の分厚い胸板をそっとなぞる。
「ねぇ、良いでしょう? 彼のことを教えてくれたら、お礼に私の秘密を教えてあげるから」
「それって……」
「そんなの解ってるくせに。 この薄い布の先にある女の秘密よ」
「女の秘密……」
生唾を飲み込んだブライトは慌てて左右に首を振る。
「いやいや、やっぱ駄目だ。 それにさっきだってそうやって俺に睡眠薬を」
「今度はそんなことしないわ」
潤んだ瞳で見つめてきた後、完全に身を委ねてきた彼女にブライトの表情は完全に崩れ去った。
「じゃ、じゃあ…… 少しだけ」
「少しだなんて意地悪しないで、たくさん聞かせて。 ……剣の腕前とか、動きの癖、弱点何かを特にね」
明らかに教えるべきではない内容。
自分を監禁するような相手なら尚更だ。
普段のブライトなら少しは考えることができたかもしれない。
だが今は彼女に心を奪われてしまい、今後起こり得る危険について何も考えることができなくなっていた。
「……俺に聞いたって言わないでくれよ?」
「もちろん言わないわ」
ブライトの見えない所で彼女がほくそ笑んでいたのは言うまでもない。